高允7  国記詰問 中

拓跋晃たくばつこうの言葉を受け、拓跋燾たくばつとうが問う。

「皇太子の言葉を、余はどう評価すれば良いのか?」


高允こういんが答える。

「臣の下才であれば、その著述に過ちがあるのもやむを得ぬこと。なれば天朝の神威を適切に表現しきれずにいた廉にて族滅を賜ることこそが道理。この身既にして刑死に値する大罪を犯しております以上、どうしてこの期に及んで虚妄を垂れ流しましょうか。

 此度の殿下のお言葉は、臣よりの講義を久しくお受けになられたにより、この臣の素っ首をお憐れみ下さったに他ならぬのです。此度のやり取りに付きまして、臣が殿下より賜りましたは、殿下の意に従い、それ以外を考えるな、なるお言葉にございました。殿下は臣がトチ狂ったと仰りましたが、ほれ、この通り! 臣めは至って正気にございます」


拓跋燾は拓跋晃たくばつこうに言う。

「なんだこの直言居士は! 人間とはその感情を制御しがたきもの、まして目の前に死が迫っているさなかで、どれだけの者が感情を制御しきれるというのだ! 加えて君主に対し、誤魔化すことなく事実を伝えてきた! まこと貞臣と呼ぶしかあるまい! このような発言ができる者を、むしろ一つの罪で失うわけにもゆかぬな。この者の罪は免除とせよ」


こうして高允は罪を免れた。


そして今度は崔浩さいこうが召喚を受け、官吏によっての詰問がなされる。崔浩はおろおろとするばかり、まともに受け答えもできない。一方の高允は粛粛と筋道立った物言いをするわけである。拓跋燾の崔浩への怒りは甚だしく、やがて高允に詔勅を執筆するよう命じた。内容は崔浩以下、僮吏どうり以上の 128 人について五族皆殺しとせよ、とするものである。高允はさすがにそれはどうなのと思ったため詔勅の執筆に当たらずにいた。しかし拓跋燾からは次々と催促の言葉が下りてくる。なので高允はいちど謁見を願い出た上、詔勅執筆に当たりたい、と言う。


そして拓跋燾の前で、言う。

「崔浩にもたらされる罰には、臣が知るもの以外の余罪由来のものもあるのやも知れませぬ。が、敢えてそれを聞くつもりもございませぬ。かの者が犯した罪は、到底死に値するものとは思えぬのです」


拓跋燾は怒り、介士かいしに命じ高允を捕らえさせようとした。そこに拓跋晃が介入。なにとぞ、なにとぞ、と申し立てる。やがて頭が冷えたのか、拓跋燾は言う。


「……かれが朕に怒らねば、あたら数千人を殺すところであったわ」


その後崔浩は族滅を受け、他の者は当人が処刑されるのみとなった。


宗欽そうきんは処刑されるにあたり、歎じる。

「高允はまこと聖人であったかよ!」




世祖問:「如東宮言不?」允曰:「臣以下才,謬參著作,犯逆天威,罪應滅族,今已分死,不敢虛妄。殿下以臣侍講日久,哀臣乞命耳。實不問臣,臣無此言。臣以實對,不敢迷亂。」世祖謂恭宗曰:「直哉!此亦人情所難,而能臨死不移,不亦難乎!且對君以實,貞臣也。如此言,寧失一有罪,宜宥之。」允竟得免。於是召浩前,使人詰浩。浩惶惑不能對。允事事申明,皆有條理。時世祖怒甚,敕允為詔,自浩已下、僮吏已上百二十八人皆夷五族。允持疑不為,頻詔催切。允乞更一見,然後為詔。詔引前,允曰:「浩之所坐,若更有餘釁,非臣敢知。直以犯觸,罪不至死。」世祖怒,命介士執允。恭宗拜請。世祖曰:「無此人忿朕,當有數千口死矣。」浩竟族滅,餘皆身死。宗欽臨刑,歎曰:「高允其殆聖乎!」


(魏書48-7)




高允無双が凄まじすぎる。拓跋燾に対し「お前アホか!」くらいのことまで言い切ってる。やばい、なんだこのひと。熱い、熱すぎる。

次話、なんか冒頭が「なんでぼくの言うこと聞かずに突っ走るんだよぅ」なる拓跋晃の泣き言から始まるようなので、これもまた楽しみです。

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