崔浩21 披毛求瑕

拓跋燾たくばつとう柔然じゅうぜん征伐から帰還すると、劉宋りゅうそうと境界を接しているエリアの将たちが訴え出てくる。

劉義隆りゅうぎりゅうめが軍備を大いに整え、河南かなんを侵さんと企んでおります。どうか兵三万をお与えください。敵が動く前に機先を制し、河北かほくから流れ劉宋に靡かんとしている者たちを誅し、敵の道案内足り得るものを絶やすことで、奴らの鋭気を挫いてしまうべきです。さすれば奴らも深くには食い込んでこれますまい」


拓跋燾はこの点について公卿らに議論させたが、大勢は許可すべき、であった。しかし絶対外さない逆張りおねえさん、こと崔浩さんは言う。


「話になりませぬ。先ごろ我らが柔然を討ち得たは馬の体力にも余裕があったればこそ。南賊が我らに怯えるは、ひとたび戦端が切られれば軽騎がまたたく間に敵の視界を埋め、立てど臥せどまともに落ち着いてもおれなくなるためにございます。ならば今は、我らの軍が動いた、とのみ声を発し、ひとまずの兵力を揃えて不慮の事態に備えるのみにするのが良い。

 そも、南土は湿原帯。かの地の夏は蒸し暑く、あちこちに沼地があり、草木も深い。進めば必ずや疫病に見舞われまする。今は攻め立てる時期にござらぬ。

 また、奴らが軍備を固めるというのであれば、こちらが攻めれば城の守りも極めて固くなりましょう。そこに陣を張り、攻め立てようものなら、たちまち糧食に事欠きましょう。兵を分け各地を襲ってみたところで、まともに応じも致しませぬ。まるで旨味がござらぬ。

 奴らが攻め寄せてくるというのであれば、させておけばよいのです。ひとまず守り、秋が来て涼しくなり、馬が肥えたところで速やかに動いて敵の兵糧を奪い、そこから改めて攻撃に転じる。これが万全の計、必勝の策にございます。

 いま朝廷におられるお歴々、そして西や北の守將らは陛下の征討に従われ、西に赫連かくれんを滅ぼし、北に柔然を破り、多くの美女や珍寶を得、手にした馬や畜産は群れをなしております。おおかた南鎮の諸將はこのことを聞き羨み、南方を襲撃することで我々も資材を略奪したい、と考えておるのでしょう。韓非子かんぴし大体だいたい編にて『大計をなす軍主は毛を吹き分けて隠れた小さな疵を探すようなこともせず』と申しておりますが、南鎮諸将の物言いはまさしくこの真逆、いたずらに敵の勢いを過大に報告し、私欲を満たさせて欲しい、と願い出ておるのです。これまでそうした訴え出がしばしば退けられてきたからこそ、何度も敵の動きを報告し、朝廷に恐怖感を根付かせようとしておるのです。公事にそむき私利に走ってお國に軍事を興させようとするなぞ、忠臣のなしようにございますまい」


拓跋燾は崔浩の言葉に従った。




俄而南藩諸將表劉義隆大嚴,欲犯河南。請兵三萬,先其未發逆擊之,因誅河北流民在界上者,絕其鄉導,足以挫其銳氣,使不敢深入。詔公卿議之,咸言宜許。浩曰:「此不可從也。往年國家大破蠕蠕,馬力有餘,南賊震懼,常恐輕兵奄至,臥不安席,故先聲動眾,以備不虞,非敢先發。又南土下濕,夏月蒸暑,水潦方多,草木深邃,疾疫必起,非行師之時。且彼先嚴有備,必堅城固守。屯軍攻之,則糧食不給;分兵肆討,則無以應敵。未見其利。就使能來,待其勞倦,秋涼馬肥,因敵取食,徐往擊之,萬全之計,勝必可克。在朝群臣及西北守將,從陛下征討,西滅赫連,北破蠕蠕,多獲美女珍寶,馬畜成群。南鎮諸將聞而生羨,亦欲南抄,以取資財。是以披毛求瑕,妄張賊勢,冀得肆心。既不獲聽,故數稱賊動,以恐朝廷。背公存私,為國生事,非忠臣也。」世祖從浩議。


(魏書35-21)




うーん、今日も崔浩さんの感じが悪い☆


韓非子 大体

不吹毛而求小疵,不洗垢而察難知;

(大いなる政を為すものは)毛を吹き分けて隠れた小さな疵を探すようなこともせず、垢を洗い落として分かりづらかったことを知ろうとするようなこともしない。


こんな感じ。

拓跋燾と「崔浩以外の」重臣は結構韓非子について論じてるのが見えるんだけど、崔浩伝では欠片も登場しません。もうなんて言うか「ほ~らお前らの大好きな韓非子だってこう言ってんじゃねえか、ほんとクソなお前ら」感が満載で最高です(いいがかり)。


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