4-4 くるみとの再会

「香子姉さん、そこの角で降ろして。あとは歩いていくから」

「分かった」


 僕は山河市文化ホールの近くで、車を降りた。大勢の人が、文化ホールに向かっていた。振袖の女性と、スーツ姿・紋付袴の男性が多く見受けられた。


「よぉ、カナタじゃないか」

「水沢か? 懐かしいな」


 僕に声をかけたのは、水沢昭みずさわ あきらだった。中学の時に三年間同じクラスだったことがある。今日は、グレーのスリーピースのスーツを着ていた。部活はサッカー部で、よく試合に出場し、活躍していたことを思い出した。


 僕たちは、並んで会場へと向かった。

 女性が近づいてきた。

「カナタ、久しぶり!」

「くるみ、か? 久しぶりだね」

「そうよ。カナタ、格好よくなったね」

「くるみも、随分と綺麗になったな」

「あら、お世辞も上手になったようね」


 くるみはそう言って、笑った。目元のほくろが、チャーミングだった。



 くるみとは小中学校で同じクラスの時が多く、学級委員長と副委員長を、一緒に務めた思い出があった。あれは確か、小学校五年生の時だった。


「あれから、どうしたの? 中学校を卒業してから」

「僕は、西峰高校の文系のクラスに入ったんだ。そのあと、向陽大学の文学部に進学したんだよ。くるみは?」


 くるみがはにかんで答えた。

「私は、青藍高校の特進科へ行って、東京の大学に入ったんだ」

「そうか。今、何の勉強をしているの?」

「経済学よ。マーケティングとかよ」


 僕たちは成人式の式場へと入って行った。文化ホールは八割程が埋まり、賑やかな笑い声に満ちていた。

 滞りなく、式が進んでいく。最後に、全体での写真撮影があった。



「ハイ、こちらへ並んで下さい。前列にいる人の頭の間から、二列目の人は顔を出して。そうそう」

 カメラマンの脇に、アシスタントをしている男性がいた。山田テツローだった。


「テツロー、久しぶり」

「カナタか」

「今日は、撮影の手伝い?」

「そうなんだ。『僕も出席する』って言ってるのに、手伝わされてるんだよ」


 テツローが苦笑しながら、そう付け加えた。

「今も写真を撮っているのか?」

 テツローは突然、話を変えた。

「ああ。テツローの自宅の店から買ったカメラを、今も愛用しているんだよ」

「そうか。今度、写真館の仕事を手伝ってくれないか。手が足りないんだ」

 僕はその誘いに嬉しくなって、答えを返した。


「いいとも。いつ位から?」

「秋の文化祭あたりからかな」



 僕たちは、成人式の写真を撮り終えた。同い年で、熱心に働くテツローの姿を見て、僕はうらやましくなった。あんなに生き生きと、写真を撮っているのだ。

「テツローは幸せだな」僕はそう思った。


 僕は最後にくるみの所へ行き、声をかけた。

「くるみは、この後の同窓会に出席するの?」

「一応。でもどうしようか、迷っているんだ」

「なら、出席しなよ。もう少し話がしたいんだ」


 僕の言葉に、くるみは頷いた。

「そうしようか」

「だね」

「ありがとう。楽しみね」

 そう言って、くるみは美しく笑った。その表情に、僕は心を奪われてしまった。

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