2-5 ゴールデン・ウィークの計画

 五月のゴールデン・ウィークに、何処かへ行こうかと考えていた。どこが良いだろうか。

 リビングで考えていると、香子姉さんがやってきた。


「何を飲んでいるの?」と香子姉さん。

「ココア」と僕。

「私も何か飲もうかしら」

「お湯沸いてるよ」


 香子姉さんはインスタント・コーヒーをマグカップに入れ、お湯を注いだ。

「今度のゴールデン・ウィーク、どこかへ行きたいなぁ。どこか良いところない?」

 僕はそう問いかけた。


 香子姉さんは、マブカップをローテーブルに置いて、ソファに座った。

「そうねぇ、海とかどうかしら」

 僕の問いに、香子姉さんはそう答えた。


「春の海原か……。良い写真が撮れそうだね。三上さんにも声を掛けてみよう」

「そうね、三上さんも海が好きだといいね。ところで……」

 そこで、香子姉さんは一呼吸おいた。


「大学、どこを受験するの?」

「文系の大学がいいか、芸術系の大学いいか、正直迷っているんだよ」

「芸術系の大学かぁ、私と一緒ね」

「そうなんだよ」

 僕は考えを巡らせていた。最近、写真を学んでみたいと思い始めたのだ。


「香子姉さん、大学生活はどう? だいぶ慣れた?」

 僕は先に芸術大学へと入学した、姉の話を聞きたかった。いつでも僕の先に居て、アドバイスをしてくれる貴重な存在。いつも頼ってしまうのが、正直怖かった。いつか結婚してしまったら、こんな風に会話をすることは、あまり出来なくなるだろう。


「香子姉さんにとって、芸術って何?」


 僕の矢継ぎ早な質問に考えを巡らせていた香子姉さんが、ようやく口を開いた。

「大学は、高校の授業と全く違うの。演習やゼミ、実習がたくさんあって、面白すぎる」

 香子姉さんはそこまで言うと、急に考え込んだ。

「……芸術か。今の私にとって、蜃気楼みたいなものね。追えば追うほど、学べば学ぶほど、わからなくなるの」

「難しいね。写真に芸術って必要かな。学校の友達に話したら、専門学校の方がいいんじゃないかって言われたんだ。あまり勉強しすぎると、かえって駄目になることが多いって言うんだよ」

 僕は複雑な心境を吐露した。

「いくら学んでも、実践がなければ、何ともならないじゃないかしら。座学だけでは、駄目だと思うの。いくら学んでも、実際に撮影しなければ、いい写真はつくれないと、私は思うわ」

「そうだね。よし、ゴールデン・ウィークには、海へ写真撮影に行ってみようよ。三上さんを誘ってね」


 僕は一歩を踏み出すことにした。

 それは、ちいさいけれども「大事な一歩」だった。

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