1-8 はじまりの合図

 僕と父さんは、家へ帰ると早速父さんのパソコンに、カメラを繋いだ。

「これでよしっと」

 次々と写真画像がパソコンに取り込まれていく。それが終わると、父さんは一旦カメラをパソコンから外した。


「テレビに映して見よう」

 僕と父さんは、リビングに移動した。テレビにケーブルを繋ぎ、再生ボタンを押す。


「こんなふうに撮れていたんだね」

 オートプレイで、ゆっくり写真画像が流れていく。

 全部で三十枚くらいの画像が映し出された。

 

「綺麗なね」

 朝美母さんがテレビの近くに、ぺたんと座った。

「上手に撮れているじゃない」

 朝美母さんの言葉に、僕は気恥ずしくなった。

「カメラが良いんだよ」

 僕は照れてそう呟いた。


「この写真なんか、凄く良いな」

 父さんがある写真をもう一度、テレビに映し出した。

「なかなか良いわね」と朝美母さん。

「これ、プリントアウトして、学校へ持っていって三上さんにプレゼントしようかな」

 僕は思いつきを父さんにぶつけてみた。


「いいんじゃないか。コンテストにも出してみたらどうかな」

「コンテスト?」

「この間、カメラ屋さんの店内で、応募チラシをもらってきたんだ。……ええとこれだよ」

 父さんはそう言うと、A4のクリアファイルからチラシを取り出した。


「『第九回 花と私 写真コンテスト』募集要項か。入選したら面白いだろうな」

「ものは試しで、出してみたら良いんじゃない?」

 朝美母さんは、インスタント・コーヒーを淹れて、僕と父さんに手渡した。


「プリントアウト、できたよ」

 父さんが、パソコンで写真をL判サイズの用紙にプリントアウトしてくれた。同じ写真が二枚。

「格好良く撮れてるなぁ」と父さん。

「我ながら、良い写真だね」


 和んだ空気が、リビングを満たしていた。

「よし、この写真を、明日三上さんにプレゼントしよう」


「もう一枚の写真も、コンテストに出すといいよ。色の補正もいらないようだしね」

「ありがとう、父さん」

「これが新しい未来ね」朝美母さんが、そうつぶやいた。


 僕は翌日、写真を三上さんに手渡した。いい写真ね、と三上さんは言ってくれた。その日、父さんがコンテストに応募してくれたことを後で知った。

 


 約一週間後の、二月下旬に、香子姉さんは県内による美術大学に合格した。その合客発表の二週間後、小春三月に、僕にも手紙が届いた。


『「第九回 花と私 写真コンテスト」に入選しました』


 その日から僕は、新しい人生を歩み始めたのだった。みんなの力で拓いた、新しい未来が、眼前に立ち現れたのだった。


 その日から僕は、カメラに恋をはじめたのだった。




第一章 ポートレイト (結)

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