1-7 撮影会
「……という訳で、香子姉さんの代わりに、写真のモデルになって欲しいんだよ」
次の火曜日、僕は三上さんにそう声をかけていた。
「ポートレイトね」
僕はすがるような想いだった。
「温室植物園だよね。立ってるだけだよね」
「そう。三上さんにモデルになってもらいたいんだ」
「私で良ければ……」
「よかった」
そして僕らは、日曜日の午前十時に、自宅の近くにある「温室植物園」で待ち合わせることにしたのだった。
「温室植物園」は火力発電所に併設されている施設で、温室でバラなどの植物を栽培していた。冬季でも、観光客向けに内部を鑑賞できた。
次の日曜日まで、僕は待ち遠おしかった。日を重ねることが、こんなにも辛く楽しいものだとは思わなかった。「待つ」という行為に、僕は全力を注げないので、いつもカメラを触っていた。
二月上旬の日曜日。僕はお正月に買ったカメラを持って、温室植物園に父さんと入った。辺りにはうっすらと雪が積もり、朝の光を浴びた残雪がまぶしく
僕は、空に向けてシャッターを切った。
「こんにちは。今日は宜しくお願いします」
その声に振り返ると、三上美希さんが、お洒落なフェルト帽を
「こちらこそ、宜しくね。今日は晴れて良かった」
「私、モデルになるの初めてなの。少し、緊張するね」
三上さんがはにかんだ。
−−−− こんな笑顔をするんだ。
僕はドキドキしながら、三上さんに話かけた。
「僕、このカメラを使うのは二度目なんだ」
「そうなんだ。まだ余り使ってないのね」
小川さんが微笑んだ。
「今日は来てくれて、どうもありがとう。カナタの父です。やぁ、いい帽子だね。少し浅くかぶって。そうそう、それでもうちょっと右へ立ってみて」
父さんが指示を出している間、僕はカメラの設定を確認していた。
−−−− ISO感度は1000位にしてみようか。
「カナタ、ちょっと撮ってみて」
「はい」
僕はカメラを構えて、シャッターを切った。
−−−− パシャリ。
バラと並んだ、美しい少女が記録された。
「三上さん、ちょっと横を向いてみてくれるかな」
父さんの言葉に、三上さんは右を向いた。
「キレイな横顔だなぁ」
僕の言葉に、三上さんがはにかんだ。
−−−− パシャリ。
撮影は三十分に及んだ。
別れ際、僕は三上さんに言葉をかけた。
「今日は本当にありがとう。良く撮れた写真があったら、今度学校へ持っていくよ。それじゃ、また明日」
そして、撮影会は終了したのだった。
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