火蓋が開く、昼休み

「どう、アナタ?」

「あ、ああ・・・うん。おいしいです・・・・・・」

「ほんと!!、んふふ♪がんばって準備してきた甲斐がありました♪」


俺は今、誰もいない空き教室で涼音のお手製弁当を食わされている。

いいか!食ってるではなく、食わされてるだ!!


薫としては不本意極まりない。

男女二人っきりの空き教室。

片手に箸を持ち薫に自分のお手製弁当を食べさせる涼音。

この光景を見れば女子からしたら話のネタとして取り上げられ、男子からしたら「爆発しろクソ野郎!!」と激怒と嫉妬が起こる光景だろう。


「ちゃんと明日も・・・・・・うんうん、これから毎日作ってきますから。もう、他の女のお弁当なんて食べちゃダメですよ?」

「いや、でも母さんの弁当とか・・・」

「お義母様には連絡しとくから大丈夫よ。これからは私が旦那様のお世話をしますって。だから旦那様はただ私の用意した物だけ口にすれば良いのです」


涼音はしれっとやばいことを口にする。


いや、それって俺、お前の許可がなくちゃ何も食えなくなるやつだろ!


「なあ、涼音一旦落ち着こう」


薫は涼音と少し距離を置く。


「まず、俺はお前の旦那様じゃない」

「でも、卒業後には結婚するんだから同じことでしょ?」

「いや、そもそも俺がお前と結婚する予定なんてないから」


涼音関係の人からはちょくちょくそんな相談をされていたが確約はしていない。


「でも、旦那様もいずれ結婚はしたいでしょ?」

「まぁ、そうだな・・・・・・」

「そうですか、それは良かった♪」


涼音は手を合わせニコリと笑う。


「いや、でも、もしかしたら大学に行ってから新しい出逢いがあるかも」

「そんなものはありません。旦那様が他の女と関わる機会はありません。旦那様はただ目の前にいるお嫁さんを甘やかしていればいいのです。それとも私に何か不満が?もしご不満があるのなら何なりとお申し付け下さい。私は旦那様の為ならどんなことだってしますから。嫌ことも苦しい事も辛い事も旦那様のことを思えば苦ではありません。

・・・・・・それともまだあの女に思うことが?」


涼音は早口になりながらも薫が他の誰かと結ばれる可能性を真正面から否定した。

しかし薫もまた言う。


「そもそもの話、俺はまだ奈々を諦めた訳じゃない」

「どうして?」


涼音は赤黒で虚な目で聞く。


「もしかしたら、俺にもまだチャンスがあるかも知れない、学生の恋愛は長続きしないことは有名だし」

「でも、あの女狐は旦那様を裏切ったのですよ?

そんな女のどこがいいんですか?」


薫は応えにたじろぐ。

それは勿論答えが出ないという訳ではなく言い方次第で涼音がどんなことをするか分からないからだ。


「そ、それは・・・・・・」

「私ならそんなことはしません。私は旦那様を裏切るような残虐非道で悪辣な行為は決して犯しません。私なら旦那様を幸せに出来ます。旦那様の幸せにあの女狐は必要ありません」


涼音はジリジリと薫との距離を詰める。


「なので早く忘れましょう。ねぇ、早く忘れましょう。そうしましょう。そうしてよ、ねぇ!!」


涼音は薫を押し倒す。

しかし薫は驚いたものの動じず言う。


「それは出来ない。俺にとって彼女は忘れられない・・・・・・一番大切な人なんだ」


薫がそう言って時、昼休みを終える予冷が鳴った。

涼音は薫の上からどき、弁当を片付ける。

そしてそのまま弁当を持って部屋の扉に手を掛けた所で振り返る。


「私は諦めないから。絶対にアナタを射止めてみせる。そして一番の座も私が必ず奪い取る」


涼音は部屋から出て行った。

そして昨日と今日の涼音を見て薫は決意した。


「どうにかしなくちゃ、じゃないとみんなが危ない」


涼音の目は本気の目だった。

そして薫は知っている。

涼音は言ったことは必ず成し遂げようとすることを、どんな手を使っても。

そして薫も涼音の計画を妨害する計画を考えるのであった。

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