第12話 敵か味方か謎の二人
戻るために再び地下水路を通り、地上へ通じる縄梯子を登り切ると。
そこには見慣れない二人のヒトが立っていた。
「おっ、誰か上がってきたな。地下で暴れていた犯人かぁ? ……んぁ? 何人もいるな」
背の高い中年男が、縄梯子から登る人物を一人一人引っ張り上げてくれる。これは手助けしているわけではない。自分達が国を脅かす悪者でないかを検査しているのだ。
その証拠に目の前にいる二人の男は王室関係者または国の警備隊だ、左胸に身分を表す剣の形をした銀のブローチをつけている。
全員引っ張り上げられたところで、飄々とした中年男を見てみる。茶色い丈の長いコートを着用し、短い金髪の毛先は乱れ、無精髭を生やしているという身なりは王室関係者にしては適当そうな印象だ。
一方、もう一人の男は白いマントに身を包み、スラッとしたスタイル。サラサラした栗色の髪に日に焼けていない白い肌、整った顔に微笑を浮かべたままでいる。それは素敵な人形のようでもあるが、ちょっと不気味にも見える。
「えぇーっと、ヒトが二人にちっちゃいウサギが三人かい? 下でエラい魔法の反応があってガタガタ揺れていたんだが何をしていた?」
金髪男の問いに、ルディは背中にいる子ウサギ達の視線を感じつつ首を傾け、隣に立つ男――まだ名前を聞いていなかったが彼と目を合わせる。彼の左目は初めて見た時と同じく、黒い前髪で今は隠されている。
男は金髪男に視線を向けた。
「子ウサギの一人が誘拐されていたんだ。犯人は地下の部屋に縛り上げてある。俺はたまたまその現場を見かけて、こいつらに声をかけただけだ」
そうだったのか。その説明で納得だ。最初にこの男を誘拐犯と決めつけて騒いでしまい、申し訳なく思った。
男の説明を聞き、地下を確認しに人形のような警備兵が向かっている間、ルディはさらに細かく何があったかを説明した。
「ふぅん、子ウサギちゃんが力を暴走させてしまった、ねぇ……まぁ確かにちっちゃい身体に大きな魔力を秘めているみたいだからな、なるほどなるほど。で、アンタ――ルディはこの近くの森に住んでいるんだな? 確かに見かけたことはあるような、ないような。そういや、あの森には偉大な魔法使いが住んでいるって話だが、ルディは知り合いだったりしないよなぁ、会えたヤツなんていないもんな」
金髪男は事情聴取であるのに、まるで世間話をするように問いかけてきた。そんなゆるめな雰囲気に流されて「知り合いだけど」と口にすると、金髪男の目がパッと見開いた。
「え、マジかい? 森の魔法使い、知ってるのか?」
「まぁ、うん……ただあいつ、ヒト嫌いだから」
「はぁ、そうだよなぁ……あ、いやね、昔から森の魔法使いに国が力を借りたいと思って森を訪問してみても絶対に姿を現してくれなくてな……ただ今回は――」
何かを金髪男が言いかけた時、縄梯子が揺れる音がした。地下へ通じる穴から飛び上がってきたのは人形のような警備兵。
彼は軽やかに着地すると変わらぬ微笑を浮かべていた。
「おう、フィン、どうだった?」
フィンと呼ばれた警備兵は金髪男の問いにうなずく。この男――フィンは声を発さないのだろうか。
うなずかれただけで察したらしい金髪男は「本当みたいだな」と納得し、フィンの耳元で何かをささやいていた。
するとフィンの金色の瞳が「本当?」と言いたげにルディの方を向く。なんのことかは不明だが今話した森の魔法使いについてかもしれない。厄介なことに、ならなければいいけど。
「まっ、とりあえず今回の経緯はわかった。地下にいる悪ーいヤツらは増援呼んで対処しよう。みんな無事でよかったよかった。じゃあアンタ達は出て大丈夫だ、気をつけてな」
金髪男に促され、外に出る。
数十分ぐらいしか経っていないだろうが暗闇にいたおかげで太陽がまぶしくて目を細めてしまう。でも光というのは、やはりありがたいものだなと感じた。
光……光……?
「あっ」
ルディは光の魔法使いに頼まれていたパン屋のことを思い出した。
「ヤバい、パンの予約してたんだ! あんなに大量のパンをいつまでも店に置きっぱなしにしたらサリにガーガー言われる!」
慌てたら、ピアとディアがケラケラ笑い出した。さっきまで寝ていたニータも今は目が覚めて歩いているが、その表情は暗い。
「ルディ……手、ごめんね」
ニータはルディの両手を見て泣きそうになっている。確かに両腕は傷だらけであまり動かせず、血も固まってはいるが見た目は非常に痛々しい様だ。
だがニータのせいではない。
ルディは安心させるように笑みを浮かべた。
「大丈夫だよ、ニータ。リカルドがきれいに治してくれるから」
「……ホント?」
「あぁ、ホントだよ。だから気にすんな……あ、そうだ」
ニータの頭をなでてやったところで、ルディはまだ名前も知らない男に向き直った。
「あの、あんたも……誘拐犯と疑って悪かった、ごめんな」
ルディが頭を下げると男は「気にすることはない」と言って足早に去ろうとした。
「あ、待ってくれよ……急いでるのか? 名前ぐらい聞いてもいいか? 俺はルディ」
「……ラズリだ」
男はポツリとつぶやくとマントを翻し、歩き出した。話すのは好きじゃないのだろうか。
その背に向かってルディは慌てて叫ぶ。
「ラ、ラズリ! あの、またどこかで会ったら、よろしくなっ!」
本当はもっと話してみたい。多分、年もそんなに違わない感じだ。優しそうな人物でもあるから冒険の話とか聞いてみたい。
ラズリは肩越しにこちらを振り向くと軽く笑みを浮かべ、去って行った。
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