二 散歩と問答

「どうでしょう、教会の外に出て、ぶらりと歩きながらお話ししては」

 老師は少し楽しそうに言った。

「は、はい。構いませんが、どうして歩くのです?」

「なに、私の師の教えの一つです。考え事や難しい話し合いをするのに、歩きながらは最適だと」

「そういうものなのですか。では、ひとまずそういたしましょうか」

 それを聞いた老師の顔はさらに明るくなった。



 この国の中央都市は教会を中心として、商業区画や居住区画などが放射状に広がっており、都市は城壁で囲まれている。

 城壁は魔獣の侵入を防ぐためのもので、都市の入り口には関所があり、重武装の兵士が常に守りを固めている。ドラゴンが封印されてから、魔獣の力は弱体化し、数も減り、たとえ襲い掛かっても返り討ちにあってしまうこの都市に魔獣はほとんど近づかなくなっていた。

 都市は活気付いていて、商業区画の広場では多くの店があり、出店がいくつも広場に出ているところもある。人々は思い思いの店を巡り、夕食の食材を買い求める者や、恋人に送るアクセサリーを物色する若者達もいる。それらを横目に見ながら、老師、少女、大司教が並んで歩いていた。

「たまにはこういうところに出向くのも必要ですな、私のような老人にも、人々の活力が自分にも移ってくるようで、良い気分転換になりますなあ」

 老師はがやがやとした喧騒の中を歩きながら、少し嬉しそうに言った。

「はい、確かにそうかもしれません。こうやって街を歩く人々を見ると、この平和を脅かしてはならないと、一層気が引き締まります。老師様、さすがですね」

 少女は両手の拳をぎゅっと握って気持ちを引き締める仕草を見せた。老師と大司教はそれを見て互いに苦笑いを浮かべた。

「お話を戻しましょうか、やはりさっきも言ったように、試練の旅には護衛が必要だと思いますよ。私とて、かつてドラゴンを封印した旅では多くの人々や仲間に助けられたものです。運が悪ければ命を落としていたかもしれない。いえ、運良く命を落とさず帰ってこられたに過ぎないと言った方がよいでしょう」

「しかし、老師様の旅の時にはドラゴンがいて、魔獣の力も強かったはずです。仕方のないことかと思います。けれど今は、ドラゴンの厄災は封印されていて、魔獣も弱体化しております。命を捨てる覚悟で、私は一人で旅に出ようと考えています」

 少女は反論した。その言葉、その目には決意がみなぎり、迷いはないように見えた。

 ふうむ、と老師は少し息を吐き、大司教を見やった。彼は少し肩をすくめ、両手を見せてお手上げの仕草をした。

「小さな司祭様、あなたの言うことはもっともです。本当に素晴らしい志をお持ちです。ですが、一つ提案があります。それだけでも聞いていただけますか?」

「提案、ですか」

「ええ」

 老師は首を傾げる少女に向かって穏やかな口調で言った。

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