ワンライ作品集

雪村悠佳

かわいくない

お題「雪吹雪」「着こなし」「緊張感」

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 大きな姿見の鏡の前で、くるっと回ってみて、それから軽く足を組んでみた。

 口元を軽く上げてみると鏡の向こうで、一張羅である学校指定のダッフルコートを着た若干目つきの悪い女の子がぎこちない笑顔を浮かべた。昨日の夜にテレビで見かけたアイドルを真似て首を少し傾けてみたけど、あの綺麗でさらさらの長い髪の毛と違って、肩より少し短い髪の毛はあまり揺れない。

 似合わないと思った。全然かわいくない。ただ緊張感だけが張り付いている。

 異性とのデートというわけでもないのに私は何をしてるんだろう、と思って溜め息をつく。

 まるでだめだこりゃという効果音のように、窓に強い風があたって音を立てた。

 コートの奥のトレーナーのよく分からないキャラの顔が、私をけたけたと笑っているように思えた。


 一応転校先として自分で選んだ高校のはずなのに、だから女子高とか嫌だったんだ、と口の中で呟いた。


 女子高と言ってもまぁ色々あるとは思う。異性がいないから逆に開けっぴろげで楽だという話も聞いたこともあったし、正直その方が気楽で良いかなと思っていた。だけど自分が入った学校はどちらかと言えば、お嬢様だとかごきげんようとかそういう部類の女子高だった。本当にそういう人種がいるんだと感心した。

 ちなみにマリア像はちゃんとあった。タイを直したことはない。

 まぁ学校であればそれでもいい。だけど問題は、学校に通っていれば友達だって出来るし、休みの日に会うことだってあるということだ。こういう女子高に通う人間が休日にどんな服装をしているのか、田舎育ちかつ普段ならジャージで外をぶらついているような私には見当がつかない。

 取り敢えずコートは学校指定のものがあるから考えずに済んだ。さすがはミッション系の女子高である、私服として着ても全く違和感のないコートを指定してくれている。

 だけどそれ以上は私にはよく分からなくて、さすがに制服を着て出かけていくわけにもいかないので、トレーナーとジーンズという普段着を内側に纏う。着こなしって何ですか?


 もう一度鏡を見る。

 まぁコートの前を閉めていれば中の服はあまり気にすることもないだろう。冬なんだから服装より防寒の方が大事なのだきっと。ふわふわとした耳当てを付けてみるとまぁ見栄えも悪くない気がする。

 スマホをちらっと見てポケットに入れる。

 そろそろ出ないと待ち合わせに間に合わない。

「いってきます」

 台所の母親に声を掛けて、玄関を出る。


 外は吹雪いていた。


 いや、北国育ちから言えば、普通に歩いて行けるこの程度の風雪なんて吹雪に入らないのかもしれないけど。

 雪が積もることすら珍しいところから越して来た私には、初めて見る、紛うことなく吹雪だった。

「うわ」

 思わず声が漏れた。

 行きたくないなと思ってから、でもきっと由佳ちゃんはこの雪のなか待っててくれてるんだろうなと思ったから、傘を傾けて、ブーツの底を踏みしめるように急いで駅に向かった。


 近所の駅までは歩いて10分も掛からない。

 駅の入口で、由佳ちゃんはぼんやりと人の流れを見ていて、私に気付いて軽く手を振った。

 私は少し走ろうとして、少し滑りそうになってまた歩幅を緩めた。

「真音ちゃん、雪まみれ」

 私と同じ学校指定のコートを着た由佳ちゃんが、苦笑いしながら言った。

「自分こそ」

 体の片側だけ真っ白になった、私より少し小柄なショートカットの女の子に触れて、雪を払い落とす。

「風邪引くよ」

 そう言って由佳ちゃんも私の雪を払う。

「自分こそ」

 もう一度同じことを言って、それで2人揃って笑った。


 緊張していたこととか、新しい土地で初めて友達と2人で会って何を話そうかと悩んでいたこととか。

 そんな自分の迷いは、あっという間に吹き飛んでいた。

「でも良かった、真音ちゃんは転校してきて日が浅いし今日どんな服装で会えばいいのか分からなくて」

 私よりはちょっとかわいいかなと思ってる、でもなんだかすごく話しやすい顔と声が、私の隣にあった。

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