こちら異世界転生対策課~窓際公務員、異世界を救う~

影宮光

一章 その名は異世界転生対策課

プロローグ

 ――すべてが、終わっていた。


 特有の建築技術で作られた美しい家々は燃え盛り、逃げ惑う人々を黒髪黒目の怪物たちが次々と屠っていく。


 なぜこんな目にあわなければならないのか。


 自分たちはただ平穏にひっそりと暮らしていただけだ。


 それなのにある日、理不尽な存在の襲来で台無しにされた。


 抵抗は虚しかった。


 強力な武具に身を包み、山を消し飛ばし、空を割る怪物たち相手ではこの世界でも有数の強さを誇る住人たちでも歯がたたなかった。


 一人、また一人と死んでいく。


 少年ももうすぐ死ぬ。


 目の前で大好きな少女を殺され、仇を討つことすらできずに。


 やがて怪物たちが去って周囲から音が消えた頃、雨が降り始めた。


 雨は炎を拭い去り、残ったのは真っ赤な大地と無惨に崩れ去った瓦礫の山、そしてついさっきまで笑いあっていた人たちの骸だった。


「……遅かったか」


 朦朧とする意識の中で不意にそんな声が聞こえた。


 生き残りがいたのだろうか。なんとか瞼を開いて声のした方向へ視線を向ける。


 そこには豪奢な服に身を包んだ一人の男が立っていた。


「っ!? まだ息があるのか! 


 身じろぎする少年に気づいたのか男が駆け寄ってきた。そして傍らに座りこむと少年の状態を観察して呟く。


「ひどい状態だ。全身の傷もひどいが、なにより両手両足から感じるこれは――呪いか? なんて強力な……」


「――、――」


「無理にしゃべらなくていい。事情はある程度わかっている」


 近くにきてわかったのは二つ。


 この男が偉い身分の人間であることと、どうやら悪い人間ではなさそうだということだった。


 ならば伝えなければならない。ここでなにがあったのか、そしてもしかしたらまだ生きているかもしれない友人の存在を。


「――」


「……なにか、伝えたいことがあるのか?」


 少年は声を絞り出す。


 消えかけている命の灯、その最後の輝きを使ってふるえる唇で言葉を紡いだ。


「――、――――」


「……わかった。たしかに承った。だが君は死なせない。私と共に征こう。この世界の守護者として」


 ――世界は変わっていく。


 ――このとき、この瞬間から。





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