第100話 一緒

「おねーさん、おかわりー!」

「ちょっとジゼル。貴女、食べ過ぎではなくて?」

「えー? せっかくのタダ飯だし、食い溜めておかないと!」

「貴女ね……。いい加減にしないと、太るわよ?」

「あーし、ベルベルより細いし!」

「貴女、喧嘩を売っているの!?」

「まぁまぁ、お二人とも。せっかくのダンジョン攻略の祝いの席なのですからぁ」


 オディロンから忠告を受けたオレは、『五花の夢』のメンバーが賑わうテーブルへと帰ってきていた。


 それにしても、まさか『切り裂く闇』の連中があそこまで落ちぶれているとは……人生何が起こるか分からんものだな。ほんのちょっと前まで、『切り裂く闇』は絶頂期を迎えていたというのに……。


 それだけならまだいいのだが、『切り裂く闇』の連中は、心底オレを恨んでいるらしい。自分たちの意のままにならないことを、全てオレのせいにしているらしいのだ。


 普通なら、あれだけ盛大に転べば、『切り裂く闇』のパーティからの離脱者が出るのが自然だろう。しかしアイツらは、オレを恨むことで一致団結しているようだ。


 そのため、『切り裂く闇』は空中分解もできず、存続を余儀なくされている。オレへの恨みを深めながらな……。


 アイツらも、パーティが解散すれば、目が覚めるきっかけになると思うのだが、その兆候はない。オレへの激しい恨み、呪詛が、彼らの目を曇らし、思考を自ら制限している状態だ。


 初めは、オレに小さな不満をぶつけるかわいいものだったかもしれない。だが、口にし続ければ、思いは強まる。


 彼らにも制御不能なほど膨れ上がったオレへの呪詛。その暴走が、オレやオレの周りへと撒き散らされるのは、ある意味、自然なことなのだろう。


 オレたちには迷惑この上ないがな。


「あっ! 叔父さん。おかえりなさい」

「おう」


 オレの接近に気が付いたクロエの天真爛漫な笑みに、心が浄化される思いがした。まるで厚い雲に覆われて、光の届かない不毛な大地に、一条の光が射しこんだような気持ちだ。クロエ……尊い……!


「帰ったのね。それで、何のお話だったのかしら?」


 オレが空いた席に座ると、さっそくとばかりにイザベルの質問が飛ぶ。その顔は、ゾクリとするような鋭い視線を湛えた真剣なものだった。オディロンが言葉を濁した意味を正確に理解しているのだろう。


 悪い知らせは吉報なんて言葉もあるからな。イザベルもそれを理解している。まったく、羨ましくなるくらいに聡い子だ。オレがイザベルと同じ年だった頃なんて、とにかく稼ぐことにしか興味がなかったぞ。


 貧すれば鈍するなんて言葉もあるが、イザベルには当てはまらないらしい。


「あぁ……」


 オレはイザベルに答えるのに一瞬の躊躇をする。今回の件は、オレが勝手に恨みを買っているだけで、クロエたちには本来、関係の無い話だ。


 だが、クロエたちにも害意が向けられかねない以上、クロエたちも当事者になってしまった。こうなってしまっては、クロエたちにも注意喚起のためにも話さざるをえない。オレは、なんだか情けない思いを感じながら、重い口を開く。


「……悪い知らせだ。お前らは『切り裂く闇』って冒険者パーティを知っているか?」

「それって……」


 クロエが、なにかに思い当たったようだ。どうやら覚えていたらしい。


「えー? なんだか聞き覚えがあるようなー……」

「ん……?」


 逆に、首を傾げているのはジゼルとリディだ。二人とも他の冒険者パーティには興味が薄いからな。もう忘れてしまったようだ。


「少し前から有名になったパーティですよねぇ? たしか……」


 エレオノールが慮るような顔をオレに向ける。『切り裂く闇』が、オレを追放したパーティだと知っているのだろう。


「アベルを追放したパーティよ。あまりいい噂のないパーティだわ」


 イザベルが、エレオノールの濁した部分をハッキリと口に出す。イザベルは『五花の夢』の中でも一番の情報通だからな。言われるまでもなく覚えていたのだろう。


 クロエ、エレオノール、イザベルは覚えていたようだが、ジゼルとリディは忘れてしまっていたようだな。一度、軽く説明しておくか。


「イザベルの言葉通り、オレを追放したパーティだ」

「その人たち見る目ないよねー。アベるんめちゃつよなのにー」


 ジゼルがうれしいことを言ってくれる。だがまぁ、オレの【収納】のギフトが開花したのは、パーティを追放された後だったからな。たしかに、見る目がないどころか、どこに目を付けているのか分からない連中だったが。


「まぁ、元からオレに因縁のあるパーティなんだが……。コイツら、オレをひどく恨んでいてな。最近ダンジョンの攻略が失敗続きなのも、既に居ないオレに責任転嫁してくるような連中だ。借金まであるって話だし、奴らは相当に追い込まれていると言っていい。正直、なにをしでかしてもおかしくない連中だ。……オレへの恨みを晴らすために、お前らを襲撃する可能性すらある」


 襲撃という物騒な単語が出たからか、クロエたちの顔は真剣そのものだった。オレから見ればまだまだ拙い面々だが、そこに遊びはない。さすがは、オレも驚くような速度で成長しているメンバーたちだな。


「オレのせいで厄介ごとに巻き込んでしまって、本当にすまない……。オレは、お前たちを守るために全力を尽くす所存だ。そのために……一緒に暮らさないか?」

「「「「「え?」」」」」




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