第60話 オディロンへ
「うしっ! 全員揃ったな」
今日も賑やかな王都の大通り、冒険者ギルドの前。オレは、五人の少女たちが揃ったのを確認して口を開く。
「今日、皆に集まってもらったのは、紹介したい奴が居るからだ」
「わたくしたちに紹介したいお人ですかぁ?」
オレは、エレオノールの問いに頷いて答える。
「そうだ。オディロンって奴なんだが……」
「まさか、『紅蓮』の“岩砕き”オディロンかしら……?」
「ほう」
優秀なことに、イザベルはオディロンのことを知っているらしい。
「有名な人なの?」
「そうね。かなりの有名人よ。レベル6冒険者パーティ『紅蓮』のリーダー。数少ないレベル6認定冒険者の一人。ハーフドワーフのオディロン。二つ名は“岩砕き”」
「まあ、すごい方なんですねぇ」
イザベルは初めて会った時もオレのことも知っていたし、冒険者の情報をある程度集めているのだろう。情報は表層的なものだが、間違った情報は無い。記憶力もいいのだろう。
ボロのワンピースを着ているイザベルの姿は、さながら物乞いのようだが、眼鏡をかけたその涼しげな横顔は、とても知的に見えた。眼鏡をかけると、どうして頭がよく見えるのかねぇ……。永遠の謎だ。
というか、せっかく黒のドレスを買ったんだから、わざわざボロを着なくても、ドレスを着てくればいいのにな。
「ソイツって強いの?」
「レベル6認定冒険者が弱いわけないでしょう?」
イザベルが呆れたような顔で、首を傾げるジゼルに答えた。
クロエといい、エレオノールといい、ジゼルといい、オディロンのことを知らないらしい。有名人だと思うんだがなぁ。特に初心者冒険者の間では。
「んじゃ行くぞー」
オレは少女たちに声をかけると、冒険者ギルドのスイングドアを開け放つ。冒険者ギルドの中に入ると、途端にガヤガヤと騒がしい喧騒に包まれた。今日も冒険者ギルドは王都の大通りに負けないくらい賑やからしい。
後ろから少女たちが冒険者ギルドの中に入ってくるのを横目に見つつ、オレは冒険者ギルドの中を確認していく。
「おっ!」
オディロンの姿はすぐに見つかった。オディロンはデカいし、目を引くような深紅の外套を着ているからすぐに分かる。
オレは、オディロンに近づこうとしたところで、オディロンの座る席の向かいに、まだ若い冒険者たちの姿があることに気が付いた。きっとまた、世話した冒険者パーティから情報を買い取っているのだろう。
無償だというのに、よくやるもんだ。“育て屋”の二つ名は、オディロンにこそ相応しいと思う。まぁ、オディロン本人は“岩砕き”という二つ名を気に入っているらしいがな。
「ありがとよ、おっちゃん!」
「うむ。またなにかあれば、ワシを頼るといい」
年若い冒険者パーティがオディロンに頭を下げて離れていく。丁度、話が終わったようだ。オレは片手を軽く上げて、オディロンに声をかける。
「よぉ、オディロン」
「ん? お前さんか。それと……」
オディロンの視線が、オレから横にずれた。
「ほお。お嬢ちゃんたちが、“育て屋”アベルのお眼鏡に適った冒険者か」
オディロンがクロエたちを見て、笑顔を浮かべて目を細めた。
「初めまして。会えて光栄よ“岩砕き”のオディロン。私たちが『五花の夢』。私はイザベルよ。以後よろしくお願いするわ」
イザベルが先陣を切るように一歩前に出て自己紹介した。凛とした態度は、余裕さえ感じさせるが、その脚は細かく震えているのが見えた。もしかして、内心は緊張しているのか?
そして、リディは相変わらず、そんなイザベルのお尻に抱き付いて隠れたままだ。
そんなリディを、イザベルは優しく前に突き出す。
「ほら、リディも挨拶して」
「んっ。リディ……」
リディはそれだけ言うと、またイザベルの後ろに隠れてしまった。
なんというか、リディの人見知りは筋金入りだな。それでも、初対面の人に名前を名乗ることができるようになったのは、リディにとって一つの進歩なのだろう。
「ふむ。リディか。良い名だな」
数少ないオレの信頼する人物なのだから、もうちっと礼儀正しくしてほしいところだが、オディロンが面白そうに笑みを見せているからいいか。
オディロンは若い連中とよく接しているからな。リディみたいな奴にも慣れているのかもしれない。
「んじゃ、つぎはプ……クロエから挨拶しようか」
「はい!」
危うくプリティクロエと口走りそうになった口を慌てて閉じた。危ない危ない。オレは渋くてダンディなかっこいい叔父さんを目指しているからな。常に心の中で思っているクロエへの称賛を表に出すことはできない。ダンディってのは辛いぜ。
◇
オレたちは、とりあえずオディロンへの自己紹介を済ませた。これでもし、オレになにか遭った場合、オディロンを頼ればいい。
オレ自身、死ぬつもりも怪我をするつもりもねぇが、人生ってのはどうなるか分からんからな。保険はかけておくべきだ。
オディロンなら、今までも初心者冒険者の援助をしているし、勝手も分かっているだろう。オレも、オディロンならば安心して後を任せることができる。
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