第42話 『ゴブリンの巣穴』ボス戦
「さて、そろそろ行くか」
「「「「「はいっ!」」」」」
立ち上がって土に汚れた尻を叩きながら言うと、少女たちの元気な返事が返ってくる。これが若さってやつかなぁ。エネルギーに満ちた声だ。
パーティのリーダーをやれなんて言われた時にはどうしようかと思ったが、皆、聞き分けのいい素直な娘たちで安心している。このまま真っ直ぐ育ってほしいもんだ。
「一応訊くが、分からなかったところはないか?」
これからこのダンジョン『ゴブリンの巣穴』のボスに挑戦する。今、ボスの特徴を伝え、作戦会議が終わったところだ。今回は、敢えてオレ抜きで作戦を考えてもらった。リーダーだからとオレが決めちまう方が楽だし早いが、それだと少女たちの考える力を伸ばせない。
オレの目標としては、いつか少女たちだけでパーティを回せるようになるのが理想だ。いつか、オレという補助輪を必要しなくなる日が来るだろう。そうじゃなくても、年齢的な差がある。おそらく、冒険者を辞めるのはオレが一番最初だ。その時に、心配事なく少女たちをダンジョンに送り出せるようにしなくちゃいけねぇ。
姉貴との約束もあるし、そこまで育て上げなくちゃな。
オレはクロエをはじめ、エレオノール、ジゼル、イザベル、リディと少女たちの顔を順に確認していく。皆、僅かな不安を決意に変えて、意志をもってオレを見つめ返してきた。コイツらならやってくれるだろう。そう信じさせてくれる瞳の輝きだ。
まぁ、こう言っちゃ悪いが、相手はレベル2ダンジョンのボスだからな。たぶん勝てるだろう。一応用心はするがね。
「じゃあ、行くとすっか」
オレはクロエたちの不安を吹き飛ばすために敢えて軽く言うと、ダンジョンの奥へと歩き出す。
既にクロエがボスの存在を確認している。しばらく人が来てなかったみたいだし、ボスがポップしていてもおかしくないだろう。それでなくても低レベルダンジョンのボスのリポップは早いしな。
オレたちは、パーティの盾であるエレオノールを先頭にボス部屋へと向かうのだった。
◇
「ふぅー……」
最後の曲がり角で一度深く呼吸をしたエレオノールが、こちらを振り返る。そのには綺麗な青い瞳には迷いや恐怖の色は浮かんでいない。真っ直ぐと仲間たちを順番に見て、最後にオレを見つめる。パーティのリーダーであるオレの許可を待っているのだろうか。オレはエレオノールに頷くことで返した。
「ふぅー……はぁー……」
エレオノールが目を瞑って一度深く息を吸うと、大きく息を吐き出す。なんだか見ているオレまで緊張してくる動作だ。
エレオノールがパチリとその大きな目を開き、口も開く。
「いきますわよっ!」
エレオノールが大声を張り上げて、ガシャガシャと金属の擦れ合う音を響かせながら、曲がり角から一気に踊り出す。戦闘開始だ。オレたちはエレオノールに続いて、声も出さずにボス部屋へと侵入した。
狭い土の通路から、石畳の大部屋へと一気に景色が様変わりする。急に広がった視界に映るのは、3体の人影だ。
パッと見たところ、これまで飽きるほど見てきたゴブリンの姿。しかし、その装備は格段に良くなっている。3体のゴブリンが、それぞれ大剣、片手剣の二刀流、両手槌と、棍棒ではないしっかりとした作りの明確な武器を持っていた。そして、良くなったのは武器だけではない。防具もだ。
貧相な腰巻などではない。3体のゴブリンは、革の防具をその身に纏っていた。補強された金属の輝きも見える。その姿は、一端の戦士のようだ。
しかし、3体のゴブリンたちをよく見れば、もっと明らかな違いにも気付けるだろう。このゴブリンたちは、デカい。オレの股くらいまでしかなかった今までのゴブリンとは一線を画すその大きさ。優に倍はあるだろう。オレと同じぐらい大きい。そして、逞しい。その革の装備がはち切れそうなほど筋肉が盛り上がっている。コイツらはもうゴブリンとは呼べないほど、まるで別のモンスターだ。
ホブゴブリンウォーリア。レベル2ダンジョン『ゴブリンの巣穴』のボス。
オレは、素早く両手に抱えたヘヴィークロスボウの先端を両手槌を持ったホブゴブリンウォーリアへと向ける。慣れ親しんだ動作だ。狙いをつけるのは一瞬。あとは引き絞るようにトリガーを引く。
ブォンッ!!!
これまた慣れ親しんだ音が耳朶を打つ。巨大な獣の唸り声のようなヘヴィークロスボウの咆哮だ。
そして次の瞬間には、両手槌を持ったホブゴブリンウォーリアの頭が、白い煙を漂わせながらザクロのように裂く。
一瞬にして頭部を失ったホブゴブリンウォーリアは、両手槌を構えたまま膝から崩れ落ちた。そして、地面に倒れた直後にボフンッと白い煙となって、その装備ごと消え果てる。その跡には、まるでホブゴブリンウォーリアなど最初から居なかったかのように、なにも残っていなかった。
ふむ。これでオレの仕事は終わりだな。
最初からオレはボスを1体倒し、残りの2体はクロエたちに任せる手筈だ。まぁ、なにかあったときのために、すぐ介入できるようにはするがな。
さぁ、クロエたちのお手並み拝見だ。
オレは撃ち終わったヘヴィークロスボウの弦を巻き上げながらクロエたちへと視線を送った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます