第177話 ウルト、爆走

 勢いそのままに一切止まらず2階層、3階層、4階層と攻略して折り返し地点の5階層へ到着。


 5階層ではオーガがメインの階層のようだ。

 リバーク迷宮のオーガは5階層では低確率、メインはオークだった気がする。

 そこだけを見たらリバークよりここの方が難易度高いのかな?


「オーガも軽々」

「凄い光景ですわ」


 前の2人もおぉ……と言った感じで飽きずに前を見ている。

 迷宮突入から数時間、一度も席から離れていない。


「あら……もうお昼過ぎちゃってるわね」

「もうそんな時間?」


 全く気にしていなかったが指摘されると腹が減った気がしてくる。


「2人とも、昼食はどうする? そこで食べてもいいけど」

「え? もうそんな時間ですの?」

「みんなと食べる」


 立ち上がろうとするがシートベルトに引っかかる2人に外し方を教えて全員で食事にする。


 みんなの食べたいものを確認して【無限積載】から取り出し配膳、便利すぎる。


「レオ様、ウルト様ってすごい」

「想像以上でしたわ……」


 2人は食べながらなにやら熱く語っている。それを俺たちは生暖かい目で見ていた。


「まだまだこれからよ? もっと大きい魔物もウルトなら一撃で倒しちゃうからね」

「リバークの迷宮では10メートルくらいありそうな魔物も吹っ飛ばしてたっスね」


 リンたちがほかの迷宮での話を出すとベラとイリアーナは興味津々に耳を傾ける。

 あんまり血生臭い話は……食事中だよ?


 俺たちが食事をとっている間にもウルトはもちろん止まらない。5階層を攻略して6階層へと進んでいた。


「レオ様凄い、1階層あたり1時間もかかってない」

「前より早くなったのかな?」


 ほかの迷宮を攻略していた時はここまで早くなかったような……


『リバーク迷宮より魔物が強い分面積が狭くなっています』

「そうなんだ」


 感覚的にはリバークと比べると1階層下の魔物が出現している感じ、魔物が強い分面積を狭くして難易度のバランスを取っているのかな?

 でもやらかしたのはルシフェルだし、アイツが難易度調整とかするのかね?


 ベラたちは食事を終えると運転席へと戻って行った。

 どうやら楽しいらしい。


「なんだか懐かしいわね」

「そうだね。初めてウルトで迷宮攻略に乗り出した時にはローテーションまで組んでたものね」

「あの時は前に乗るのが楽しかったのよ」

「今は?」


 なんだかバツの悪そうに答えるリンに、少し悪戯心が出てしまったので聞いてみる。


「今? 今は前に乗るよりレオの隣の方がいいわね」

「あ……う……はい」


 リンはそう言いながら俺の肩に頭を乗せてきた。

 これは……


「レオさん顔真っ赤ッスよ?」

「これはリン殿の方が一枚上手でしたね」

「そうですね」


 サーシャたちはこちらを見てクスクス笑っている。

 迷宮の中なのに平和だなぁ……


 外では魔物が現れては撥ね飛ばされる地獄絵図なのに対して車内ではのんびりした空気で満ちていた。


「ボスも一瞬……」

「ここ、6階層ですわよね?」


 どうやらのんびりと会話しているうちにボスも粉砕してしまったらしい。

 ボスはどの魔物だったんだろ?


「イリアーナさん、この迷宮の最高到達階層って知ってまして?」

「うん。お父さんが7階層の途中までだったかな」

「さすがはジェイド様ですわね」


 確かリバーク迷宮でも7階層まで到達してたよな?

 結構色んなとこ行ってるんだな、さすがは高ランク冒険者。


 まぁジェイドは凄いと思うがうちのウルトはちょっも比べ物にならない。

 あっという間に7階層も踏破、ボスとして出現したギガンテスも一撃で沈めて先へ進む。


 まだ午後3時過ぎなんだけど……

 これ今日中に攻略出来ちゃいそうだな。


 8階層でも苦戦することなく順調に進み、他の階層と同じように1時間も掛からずボス部屋へと到着した。


 ボスはサイクロプス。やはりリバーク迷宮と比べると1階層分繰り上がっているな。

 これ9階層のボスは何になるんだろ?


「でっか……」

「強そうですわ……」


 運転席と助手席に座っている2人もサイクロプスを見上げながら口を半開きにして驚いている。


『以前は手傷を負いました。今回はあのような無様は晒しません』


 そういえばちょびっとだけ傷が付いてたな……一瞬で直ってたけど。


『行きます』


 前回戦った時はウルトも巨大化して突撃していたが今回は巨大化は使わないようだ。


 サイクロプスが振り下ろしてくる棍棒を楽々回避しながら接近し、左足へと体当たり。


 ウルトとサイクロプスの左足が触れた瞬間、サイクロプスの左足は水風船が破裂するように弾け飛んだ。


 おそらくサイクロプスは絶叫しているのだろうが外部音声はシャットアウトなので何も聞こえない。


 そのまま方向転換して今度は右足に体当たり、同じように消し飛ばす。


 両足を失ったサイクロプスは当然立っていられるはずが無く崩れ落ちる。

 まだ両手で支えているので頭には攻撃出来そうに無いな。


 と思っていたらここで巨大化、大きくなった車体で体当たりしてサイクロプスの頭を破裂させた。


『どうでしょうマスター、私も経験を積んでいるのです』

「お、おお……今なら最初から巨大化して攻撃を受けても無傷で済むんじゃないのか?」

『それは当然です。ですがそれでは前回とほぼ同じ。前回より強くなった私をマスターにお見せしたかったのです』

「そっか……うん、しっかり見ていたよ。やっぱりウルトは頼りになるなぁ」

『お任せ下さい。マスターと奥方様方の快適性と安全は私が保証します』


 顔があったらいい顔で言ってるんだろうな。

 あ、天使モードなら表情あるか?


「凄いですね。以前より戦い方が洗練されているような……」

「前までは力押しだったけど、今回は筋道立てていたというか……」


 サーシャとリンもこれには驚いていた。


 安全地帯を抜けて9階層、ここには大量のミノタウロスとギガンテスがフロアを歩き回っていた。


「ミノタウロス! ウルト、狩り尽くせ!」

『かしこまりました』


 今までの階層では出会った魔物以外は放置してきた。時間が勿体ないからね。


 しかしここは別だ。ミノタウロスが大量に湧くなら狩り尽くさないといけない。


「旦那様はどうなされたのでしょうか?」

「さあ? サーシャたちなら知ってるかな?」

「ベラとイリアーナは知らないわよね……あの魔物、ミノタウロスって言うんだけど、レオの大好物なのよね」

「好物?」

「あの魔物がですの?」


 2人はあまりピンと来ていないようだ。

 まぁ見た感じ美味しそうには見えないものね……


 夕食時に焼いて出そう。そうすればミノタウロスの美味しさも伝わるはずだ。


 1時間半程かけてミノタウロスを狩り尽くしたのでボス部屋へと向かう。

 さてどんなボスなのかな?

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