第176話 久しぶりの迷宮

「もう出発するのか?」

「はい。長い間お世話になりました」

「気にするでない。レオならば何時でも歓迎するからの。これを持っていけ」

「これは?」


 出発の朝、俺は皇帝に出発の挨拶と今までのお礼をしていた。


「通行手形だ。レオはオリハルコンランク冒険者でもあるから必要は無いかもしれぬがの。余からの気持ちである」

「ありがとうございます」


 この手形があれば帝国領内どこの街や関所でも通行料免除、最優先での通行が可能になるらしい。

 オリハルコンランクの冒険証でも同じことは出来るが、これを用意してくれた皇帝の気持ちが嬉しい。


「気をつけて行くが良い、また顔を出してくれよ?」

「かしこまりました」


 深く一礼して執務室を後にする。

 ここまでしてくれたんだ、必ず何かの形で恩返しをしないとな……


「戻ったよ。じゃあ行こうか」

「はい。準備は整っていますよ」


 借りていた部屋に戻るとよめーずは全員出発準備を終えて待機していた。

 もちろんイリアーナも居る。


「イリアーナ、ジェイドさんは何か言ってた?」

「家を引き払ったらすぐ教国に行くって」

「フットワーク軽いな……」


 ジェイドの奥さん、イリアーナの母であるペトラさんは空間属性にも適性があるそうで、引越しはそこまで大変では無いそうだ。

 ジェイド自身も【アイテムボックス】のスキルを持っているらしいので尚更だ。


「ジェイドさんたちの家も用意しないとな。その為にもさっさと迷宮を攻略してしまおうか」


 本来なら使用人の仕事を奪うことになるのであまり良くは無いが気持ちとして部屋全体に浄化を掛けて出発する。


 帝城を後にしてまずは冒険者ギルドへ。

 受付に冒険者証を見せて指名依頼を受注する。


「迷宮攻略依頼、1つにつき白金貨50枚って……」


 受付嬢の持ってきた依頼書を見て絶句する。

 出しすぎじゃないかな……


 報酬額に驚いたが同盟締結にはそれだけのメリットがあるのだと思うことにして出発。

 一応入る時に正規の手続きを踏んだので帝都を出る時にもちゃんと門から出る。


「じゃあ転移するから掴まってね」


 帝都から少しだけ離れた位置で立ち止まり【傲慢なる者の瞳】で迷宮の周囲を確認、即座に転移する。


「ここの迷宮はどの悪魔が居るのかしらね?」

「残ってるのは確か……嫉妬と怠惰だったかな? そのどっちかだね」

「以前仰っていた7つの大罪ですか?」

「7つの大罪?」


 そういえばサーシャたちには軽く話していたけど、ベラとイリアーナは知らないよな。


「俺の住んでた世界には7つの大罪って言葉があってね。その罪っていうのが傲慢、強欲、色欲、怠惰、嫉妬、憤怒、暴食なんだ」


 どの罪が一番重いかとかは覚えてない。

 むしろ7つ全部覚えてた俺にびっくりだ。


「7つの大罪……なるほど」

「確かに良くない」


 簡単すぎる説明だが、ベラとイリアーナはなんとなく理解したようだ。


「まぁその7つの大罪を司る大悪魔が迷宮の最奥に居るから、そいつらを倒せば攻略だね」

「旦那様はそのうち5つは攻略済み。あとは帝国領内にある嫉妬と怠惰を攻略すればいい、ということですのね?」

「そうだよ。まぁすぐに終わると思うけどね」


 ベラの質問に頷き返してポケットからウルトを取り出す。

 なんか久しぶりだな……


「ウルト、頼むよ」

『お任せ下さい。どうぞ』


 自動ドアのように観音扉が開いて乗り込みやすいようにステップも出現、全員が乗り込むと観音扉も閉じた。


「何回乗っても慣れないね」

「そうですわね……旦那様の神器は素晴らしいですわ」


 なにやらベラとイリアーナが話しているが、ウルトの実力はこんなものじゃないよ?

 最下層まで辿り着いた時の反応が楽しみだな!


「ねぇベラ、イリアーナ、ウルトで迷宮に入るの初めてなんだし、前に座ってみたら?」

「え? 前?」

「ええ、そこの席に座って……」


 なにやらリンが仕切ってベラとイリアーナに運転席、助手席を勧めている。

 初めてだし確かに前の方が楽しいかもね。


「よし、じゃあ出発しようか」

『かしこまりました』


 2人がシートベルトを締めたのを見てウルトに指示を出す。


 ヘッドライトを点灯して迷宮に突入、一切の揺れも無く進んでいく。


「レオ様! 魔物!」

「ゴブリンですわ!」


 へぇ、ここは1階層でゴブリンが出るのか。


 前の2人は第一魔物を発見して騒いでいるが、後ろに乗っているサーシャたちは何処吹く風。のんびりとお茶を愉しんでいる。


「気にしなくていいよ。まぁ見てて」


 騒いでいる2人に見ているように伝えると、すぐに大人しくなった。


 あっさりとゴブリンを弾き飛ばすウルト、それを見て唖然とするベラとイリアーナ。


「え……」

「なんですの?」


 ウルトは何事も無かったかのように進んでいく。


 その後も数度ゴブリンと遭遇するも障害にもならない。

 全て撥ね飛ばして行く。


 死体や魔石は放置。今更ゴブリンの魔石を集めてもね……


【万能感知】でフロアを把握しているウルトは冒険者を避けつつ階段へと真っ直ぐ進み数十分で1階層を走破、ボス部屋へと突入する。


「またゴブリンですわね」

「たくさんだね」


 ボス部屋には複数のゴブリン。

 ホブなどの上位種は居ないようだ。


『殲滅します』


 言うが早いか、ウルトはゴブリンの群れへと突撃。一撃で全てのゴブリンをなぎ倒した。


 ボスを倒したので安全地帯への扉が開く。

 扉を潜り安全地帯でキャンプを張っている冒険者たちが唖然とこちらを見ているのを無視してさらに先へと進んでいく。

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