第164話 皇帝陛下

 帝都に到着した日はそのままミュラー伯爵屋敷に厄介になり翌日、俺たちは帝城へと招かれていた。


「こちらへ……陛下がお待ちです」


 一応形式上なのか控えの間に通されたが10分程で呼び出しがかかった。


 案内されたのは応接室のような部屋、玉座の間での謁見スタイルでは無いらしい。


「よくぞ参られた。余がルブム帝国皇帝、ゲオルグ・フォン・ラーデマッハー・ルブム17世である」


 長い……

 皇帝陛下は予想に反して若い男だった。

 若いといっても30代半ば程度だろうか?

 長い絹のような金髪を背中の辺りでまとめている涼やかな目元をしたイケメンだ。


 正直ロリのじゃ系女帝もありうると思っていたのでちょっと残念だ。

 あれ? のじゃロリだっけ? どっちだったかな?

 ってそんなことはどうでもいい。


「お初にお目にかかります。アルマン教国にて侯爵の地位を賜りました、レオ・クリードと申します。皇帝陛下におかれましては……」

「よい。そういう堅苦しい挨拶は好かぬ。口調も楽なものでよいぞ」

「しかし……」

「構わぬ。余は貴殿を教国の侯爵としてではなく勇者として迎えたいと思うておる」

「はぁ……」


 いいのだろうか?


「ふむ、真面目だの……まぁよい、好きに話せ。この場での無礼は一切咎めないと約束しよう」


 そこまで言うなら……


「皇帝陛下がそこまで仰らられれるなら……」


 やっべ、噛んだ……こういう時は噛んでませんよ? という雰囲気を出すのが大切だ。


「クク……まぁよい。まずは掛けよ」


 皇帝陛下の対面のソファを示されたので「失礼します」と一言断り腰を下ろす。


「では……まずは聖女の救出とここまでの護衛、感謝の言葉も無い」


 皇帝陛下は軽く頷くように顎を引く。

 こういう高貴な身分の人って簡単に頭を下げてはいけないって知識としては知っていたけどいざ目にすると難儀だなと思う。

 俺はすぐにペコペコしちゃうし。


「勿体なきお言葉」


 頭を下げて皇帝陛下の言葉を受け取る。


「ついてはなにか褒美をと思うのだが、異世界人の欲する物が分からなくての」


 皇帝陛下はチラリと俺の隣に座るサーシャを見る。

 まさか……女はいらんぞ?


「私は教国にて爵位を持つ身、皇帝陛下からの褒美をいただく訳には……」

「だからこそ貴族としてではなく勇者として対応しておるのだが」


 むむ……

 俺が言葉に詰まると、サーシャがそっと俺の膝に触れた。


 あ、そうだ……


「皇帝陛下、恐れながら先にほかの要件を済まさせては頂けませんか?」

「ふむ、なにかな?」

「こちらを……」


 国王様から頂いた書状を2枚、テーブルに載せる。

 1通は聖女3人による【聖浄化結界】の有用性を伝えるもの、もう1通は迷宮攻略のお伺いだ。


「拝見させてもらう」


 皇帝陛下はまず聖女3人による【聖浄化結界】の有用性についての書状に目を通す。


「ふむ、なるほどな」


 書状に書いてあるのは聖女3人による【聖浄化結界】が効果抜群であること、そのため魔王戦のために余力を残すことを考えなくていいので道中の戦闘に全力を注げること、生きて魔王までたどり着くことが出来れば勝利、かつ聖女が3人居ればそもそも生存率が高いことが記されている。


「一理あるな、王国、教国両国が承認するなら帝国も賛同しよう」

「ありがとうございます」


 これが承認されれば聖女が無駄死にするリスクがかなり軽減されるはずだ。

 魔王を倒せても聖女が【聖女の祈り】を使って戦死してるとかバッドエンドだろ。


 ふと思ったんだけど、歴代勇者のほとんどが帰還を選んでるのって最終決戦で聖女を死なせてしまって国に戻るのが心苦しくて逃げるように帰還した説とかあるんじゃないかな?


 あまぁそれは置いておいて、歴代勇者の遺物を使える人間が現れればそもそも勇者召喚も必要無くなる。

 血筋、レベル、職業、どれが条件なのか分からないけどいつかは解明したいところだね。


「神器か……帝国にもかつての竜騎士の使っていた聖槍はあるが……」


 あるのかよ……ん? 竜騎士?


「皇帝陛下、質問よろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「オリハルコンランク冒険者、竜騎士ジェイドはその槍を扱えなかったのてしょうか?」

「ふむ、試したことは無いの……せっかくじゃし試してみようかの?」

「せっかく? 試す?」

「うむ、ジェイドは呼んであるからの……おい、聖槍とジェイドをここに」

「かしこまりました」


 なんで冒険者の竜騎士ジェイド呼んでるんだ? そして何故後ろのイリアーナはそわそわし始めたんだ?


 もしやイリアーナの言ってた婚約者って……まさかね?


 皇帝陛下の命令を受けた執事が部屋を出ていってすぐ、部屋の扉が開かれた。


 皇帝陛下は誰が来たのか確認せずにメイドに開けるよう指示を出す。


 開かれた扉からは、長い金髪をオールバックにして立派なカイゼル髭を蓄えた初老に差し掛かったであろう男性が入室してきた。

 その目は鋭く立ち振る舞いに隙がない。

 武具の類は身につけていないが明らかに強者とわかる風格があった。


 皇帝陛下のお言葉とこの風格、こいつが帝国のオリハルコンランク冒険者、竜騎士ジェイドで間違いないだろう。


「失礼します。陛下、お呼びで……イリアーナ!!」


 始めは皇帝陛下に向かって挨拶をしていたのだが、途中でこう……グリン! という感じでこちらを向いて血走った目をしてイリアーナの名を叫んだ。


 正直怖い。圧が半端ない。


「うおおお! イリアーナ! すまない! 儂が、儂が不甲斐ないばかりに!」


 男はその場で跳躍、俺たちを飛び越えてイリアーナのすぐ近くに着地してその両手を握り謝っている。


「すまん! すまんかったイリアーナ!」

「ちょ、ちょっと! お父様! もういいですから!」


 おとうさま?


「知らなかったのか? 聖女イリアーナは竜騎士ジェイドの娘だぞ」

「……え?」


 俺とよめーずの目が点になった。

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