第155話 御前会議(下)

「な、なるほど……聖女3人による【聖浄化結界】がとても有効だとは報告を受けていたがそこまでか……」

「そうですね。効果がありすぎて相手が魔王とはいえ気の毒になるレベルでした」


 しかもなんか喋ってる途中に斬っちゃったし。


 ちょっと……色んな意味で気の毒な魔王だった。

 まぁ勇者を拐かしたりその結果俺の仲間を死なせるようなことになったので当然慈悲は無い。


「今後魔王が現れた際はこの戦法を用いれば楽に勝てるかと」


 魔王には……ね。

 魔王に挑むまでが大変なんだけどね。


「そうだな。それならば王国と帝国にも伝えておいた方がよいのかもしれんな」


 お、いい流れかも。


「陛下、その件ですが、私が向かってもよろしいでしょうか?」

「そうだな……赴くのであればクリード侯爵が行くのが適任であろうな」


 誰よりも早く誰よりも安全に移動出来るしね。

 説明も当事者である俺が行うのが望ましい。


 さらにイリアーナを送り届けることもできるし迷宮も攻略したい、何としても俺たちが行けるように話を進めよう。


「イリアーナ嬢も早く帝国に送り届けないといけませんし、明日にでも出立しようかと思うのですが」

「よろしい、許可しよう」

「あと、帝国の迷宮も攻略してきます」

「それはよろしくない」


 あ、ダメ?

 流れでよろしいって言ってくれるかと思ったけどダメか……


「一応書状を認めよう。それであちらの許可が下りるかはわからぬが交渉してみるといい。決して勝手に攻略しないように。いいな?」

「かしこまりました」


 頭を下げて了承する。


「侯爵様、私からも微力ながら皇帝陛下に進言させて頂きます」

「イリアーナ、助かるよ」


 よし、帝国の聖女イリアーナが協力してくれるなら何とかなるかもな。

 あとは俺がしっかりと迷宮攻略後のメリットデメリットを提示出来れば……多分大丈夫。


「してクリード侯爵、帝国の迷宮を攻略したいのは結婚式のあの件に関わりがあるのだな?」

「そうですね。全ての迷宮を攻略して神の座に赴けば実現可能な願いを1つ叶えてもらえるらしいので……」


 それが実現可能かは分からないけど可能性があるなら俺はやる。


 よめーずは今後増やさないと心に決めているが願いが叶うならそんな誓いは反故にされるだろう。


「どうしても叶えたい願いがあるのだな?」

「はい。どうしても」


 その為なら帝国を敵に回しても構わない。


 国王は俺の瞳をじっと見つめて小さくため息を吐いた。


「出来れば敵対はしてもらいたくないのだがね……」

「俺も好き好んで敵対するつもりはありませんよ」


 迷宮さえ攻略させてくれるのならそれでいいのだ。


「はぁ、分かった。そうならぬよう私も尽力しよう」

「止めないのですか?」

「止めても止まらぬだろう?」

「まぁ……」


 必要とあらばこの場のよめーずとアンドレイさん以外の全ての人を斬ってもいいよ?

 いやダメだ、そんなことしたらよめーずに嫌われる……


 ケイトのこととなると歯止めが効かなくなる。気を付けないと……


「今ちょっとゾクッとしたぞ!? 今なにか変なこと考えただろう!?」

「陛下どうされました? 落ち着いて下さい」


 ちょっと思っただけなのに大袈裟だな、というかよく気付いたな……

 国王は一度俺に刃を向けられているからその辺敏感になってるのかね?


 まぁ俺のせいで取り乱してるみたいだし宥めておこう。

 どの口がって話だけどね。


 まぁひとまず話も纏まったし俺の仕事は終わりでいいだろう。


「すまぬ、取り乱した。さて、クリード侯爵の話はこれで以上か?」

「はい」

「うむ。では他のものでなにかあるものは居るか?」


 国王の問いには誰も手を挙げなかった。


「では解散とする」


 パラパラと立ち上がり国王と教皇に一礼して部屋を出ていく貴族たち。

 もっとこう……領地での報告とかそういうのがあると思ってたんだけど、これじゃ完完全に俺の話を聞くためだけに集まったみたいだな。


「では私も戻ろうか……書状も認めんといかんしそれに退位の時期についても相談しなければならんのでな」


 退位? 国王退位するの?


「何故クリード侯爵が不思議そうな顔をしているのだ……お主との約束だろうが……」

「あ……」


 そうだった。

 あの時騎士団長を斬りたく無くなって適当なこと言ってお茶を濁したんだったな、完全に忘れてたわ。


「あの時は……私も気が立っていたので……申し訳ありません」


 聖都全体を人質に取られていたようなものだったのだからあれは今思えば仕方なかったようにも思える。

 なのにこの国王様は俺に自分の首を差し出そうとしたんだよな……


 刃を向けたことは覚えていたけどそんな約束したことは忘れてたよ。


「忘れておったのか……まぁ約束は約束だ、今のこの慌ただしい時期を乗り越えれば息子に王位を譲ることに変わりはない。息子が王位を継いだ後はクリード侯爵にも息子を支えてやってもらいたい」


 息子、王太子ねぇ……

 この会議にも出席はしていたけど終ぞ一言も喋らなかったな……


 支えてやって欲しいと言われてもね、避けられてる気がしてならない。

 まぁ理由は分かってるからこっちからは何も言えない。


「微力を尽くします」

「魔王を滅ぼした勇者のセリフがそれか……まぁ私は先に失礼するよ」

「はい。お疲れ様でした」


 去っていく国王様に向け頭を下げて見送る。


「さて、帰ろうか」


 完全に見えなくなったところでよめーずに向き直り帰宅した。


 その日の夜、皆で夕食を食べている時に使者が来て国王様の認めた書状を手渡された。

 これを帝国皇帝に渡せばいいらしい。


「わざわざありがとうございました。城に戻られるなら転移でお送りしますよ」

「それはとても魅力的ですし是非体験してみたいのですが、馬車で来ておりますので……」


 そりゃそうか、いくら近いとはいえ歩いては来ないか。


 丁寧に使者を見送り屋敷に戻る。

 出発の準備はとうに終えているしあとは寝るだけだ。


「さて……頼むぞ【絶倫(極)】」


 俺は決死の覚悟を胸に寝室へと戻ることにした。

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