第123話 再開
ウルトが蹂躙を開始した。
走り始めたウルトを止められる存在が居るはずも無く次々と数え切れないほどの魔物を撥ね殺していく。
完全に籠城戦に移行していたのか外に人間は存在していなかったので縦横無尽に駆け回る。
「ウルト、門の近くへ。俺とリンは一旦降りる」
『かしこまりました』
指揮官が居るなら門の上あたりだろうと思い指示を出す。
ウルトが指示に従い門の前で停車、俺たちが屋根に上がったタイミングでウルトは巨大化を開始。
壁の上の人と目線の合う高さまで大きくなった。
「驚かせてすみません。俺たちはオリハルコンランク冒険者チーム自由の翼です。そちらに行かせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ、どうぞ……」
飛び移れるだけのスペースを開けて貰えたので飛び移る。
「ウルト、戦闘再開」
『かしこまりました』
ウルトに指示を出して辺りを見渡しゴールドランクの冒険者証を身に付けている男に声をかける。
「ギルドマスターに会いたいんだけど案内してもらっていいかな?」
「え? あ、俺ですか? 分かりました」
まさか声を掛けられるとは思っていなかったのか少し取り乱していたがすぐに建て直して対応してくれた。
戦場はウルトに任せて俺たちは男の案内に従って街壁から降りて門からほど近い場所にあった冒険者ギルドへと足を運んだ。
「じゃあちょっと話通してくるんでちょっと待っててください」
「いや、紹介状もあるし俺が行った方が早いと思うからここまででいいよ。ありがとう。これお礼ね」
アポまで取ってくれようとする冒険者を引き止めてお礼としてショートソードを手渡す。
「これは……?」
「『素早さ上昇(小)』の効果が付与されてる剣だよ、使わないなら売ってくれても構わない」
男を見ると二刀流の軽戦士といった装備をしているのでそれにあった武器を選んでみたつもりだ。
「『素早さ上昇』って……こんな高価な武器貰えませんよ!」
「いいからいいから。ゴールドランクに道案内させたんだからそれくらいはね」
固辞しようとする冒険者にほとんど無理やり剣を握らせて別れる。
「相変わず甘いわね」
「そうか? 有り余ってるんだし冒険者へのお礼で一番喜ばれるものだろうしいいじゃん」
売るほどどころか腐るほどあるからね。
俺には使い道もないし。
「まぁあたしはクリードのそんなところも好きよ?」
「うん……ありがとう」
不意打ちはやめて欲しい、ドキドキしてしまう。
なんだか全部終わったら結婚しようとなってからリンが凄く素直に気持ちをぶつけてくるようになった。
決して嫌では無いし嬉しいことは嬉しいのだがやはり慣れない……
「ケイトのことは忘れなくてもいい、むしろ忘れてはダメ、たくさんケイトの話をしましょう」なんて男前なプロポーズをされてしまえば頷くしか無かったしな……
リンのおかげで精神的にかなりマシになったのは間違いない。
もちろん勇者たちに対しての怒りや憎しみはこれっぽっちも薄れてはいないけどね。
あいつらは俺の手で殺す。
そんなことを考えながら受付嬢にガレットさんに貰った紹介状を見せてギルドマスターへの面会を申し込むとすぐに案内された。
「よく来てくれたの、儂がソイソスのギルドマスターを預かるカートじゃ」
「はじめまして。自由の翼リーダーのクリードです」
「自由の翼メンバーのリンです」
お互い軽く自己紹介を交わして応接用ソファに腰を下ろす。
「それで一応報告は受けておるが本当に魔物たちを殲滅してくれたのか?」
「ええ。攻め込んできていた魔物のほとんどは倒したと思います」
話を聞けば初めは門の外で迎え撃っていたのだが24時間昼夜を問わずに襲いかかってくる魔物たちに兵士や冒険者は疲弊しきってしまいここ数日は門の外に部隊を配置出来ずに壁の上からの攻撃でなんとか凌いでいたのが現状らしかった。
かなり追い込まれておりもう数日も持たないかもしれないというタイミングで俺たちが現れたと。
タイミング的にギリギリだったな。
「それで……お主らはこのまま防衛に参加してもらえるのかの?」
「まだ終わりではないと?」
あれだけの数を倒したのに?
さっき受けたウルトから2000を超える数の魔物を屠ったと報告を受けたのだけど……まだ残ってるのか?
「うむ。初日に指揮を執っていたと思われる魔族とその周囲を守っていた儂らの見たことの無い魔物たちは最近姿を見せておらん。おそらく奴らが本隊だと思うのじゃが……」
指揮を執っていた……つまりこの魔物の大軍勢を率いていた魔族か。
おそらく魔王に仕える幹部だろう。ちょうどいい。
「ではそいつらは俺たちが受け持ちます。そいつらを倒すまでは防衛戦に協力します」
「おお! やってくれるか! 流石はオリハルコンランクの冒険者じゃ」
それからいくつかの確認をして執務室を後にした。
「ディムたちは救護所か……」
「かなりの深手って言ってたけど……大丈夫かしら……」
カートさんにディムたちのことを尋ねると部下に確認して調べてくれた。
どうやらディムたちはかなり初期から応援に駆け付けていてまだ外にでて応戦していた時に魔物の攻撃を受け救護所に担ぎ込まれたらしい。
教えてもらった救護所へ足を運ぶとそこは思ったほど慌ただしくないようで職員のような人に尋ねるとすぐにディムたちの所へ案内して貰えた。
「クリードさん! 来てくれたのか!」
俺たちがディムたちに近付くと向こうも気付いたのかベッドから体を起こして迎えてくれた。
どうやら怪我をしているのはディムだけでクレイとロディは付き添いのようだ。
「ディム……怪我したって聞いたけど大丈夫なのか?」
大丈夫もなにも上半身は包帯だらけ。
かなりの重傷だったと思われる。
「まぁ見ての通りだ。五体満足だし問題無い。一応俺もゴールドだから優先して治療も受けられたしな……」
「まだ完治はしてないのか?」
「今は完全に籠城戦ですからね、魔法使いたちの魔力を温存する意味でもある程度回復した人たちは薬草任せですね」
ディムの代わりにロディが答えてくれた。
ロディも壁の上からの攻撃に参加していたが魔力切れで一旦引いてきたらしい。
ディムの様子を見たら仮眠して魔力の回復に務めて回復次第戦線に復帰する予定だったらしい。
「そうか、とりあえず今日の戦闘は終わりだと思う。見える限りの敵は殲滅しておいたし」
ウルトが。
「本当ですか!?」
「本当だよ」
ロディは驚愕に目を見開いている。
さっきまで壁に居たのならどれほど敵が居たのかを実際に見ているから驚いて当然か。
「まぁ……とりあえずディムの傷治しとくな」
ディムに手を翳して回復魔法を使用、残っていた傷を完全に癒した。
「おぉ……クリードさん回復魔法も使えたのか」
体を動かしてみたりぺたぺたと傷があった場所を触りながら感嘆の声を上げる。
「まぁね……それで……話さないといけないことがある」
俺がそう言うとディムたち3人は真面目な顔でこちらを見つめてきた。
「それは……クリードさんとリンさんの2人しか居ないことに関係が?」
「そうだね……ここではちょっとアレだし場所を変えよう」
俺の提案に3人は頷いて立ち上がった。
「なんか話しづらそうだし……俺たちの泊まってる部屋で話そうか」
「そうだね……案内してくれ」
ディムたちに案内されて3人が泊まっているという宿に入った。
ついでに俺たちも部屋を取ってディムたちの部屋に集まった。
「実は……」
とても話したくない。しかし隠すわけにもいかないので全てを包み隠さずに話すことにした。
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