第119話 どうしてこうなった?

 どれくらい時間が経っただろうか……


「ごめん……いや、ありがとう」

「気にしないで。それで……少しはスッキリした?」

「うん……」


 リンの胸から離れると俺の涙と鼻水でベトベトになっていた。

 申し訳ない……


「これからはちゃんと言うのよ?」

「はい……」


 リンは自分の服の惨状に気付いたようで浄化魔法で綺麗にしてもう一度俺の顔を見た。


「それで、その色欲の能力どうする?」

「え、いや……」


 覚えてたのか……

 どうするって言われても……


「あたしのスキルを得るって大義名分も出来たし……あたしはいいわよ?」


 いいわよ? じゃねーよ……


「リン、俺は……」

「知ってるわよ。けど……うん、その穴埋めでもいいから……」


 先程とは違い俺の事を抱き締めるのではなく体を寄せてくる。


 俺はケイトの事が好きだった。

 それは自覚もしていたし魔王が倒れたら気持ちを伝えるつもりだった。


 もちろんリンの事が嫌いな訳では無い。

 だけど……ね。


「クリードは自分のためには手を出せないのかしら?」

「自分のためって言うか……ほら、今は……ね?」


 ハッキリ断れないのも情けないが、男の子だもん。


「なら……あたしのためなら?」

「リンのため?」


 はて、いきなり何を言い出すのだろう?


「クリード、あたしの年齢知ってる?」

「そりゃ知ってるけど……」


 それがどうしたの?


「クリードの居た世界では分からないけど、この世界で25を過ぎた女は行き遅れって言われるのよ」

「なんか前にも言ってたね」


 行き遅れの大魔道士……


「そうそう。だから抱いて責任を取りなさい!」


 ビシィッと指を突きつけられた。

 ホント何言ってんの!?


「クリードは寂しさを埋められてスキルも得られる! あたしは行き遅れとか言われなくなって将来の不安が無くなる! win-winよ!」

「なにが!?」

「なにがじゃないわよ! 第2夫人でも側室でもなんでもいいから貰いなさい!」

「第2もなにも第1が居ねえよ!」

「サーシャちゃんが居るでしょ!」

「なんでサーシャが出てくるんだよ!」


 ゼェゼェと肩で息をする。

 なんだか久しぶりに大きな声を出したような……そんなことは無いか。


「プッ……ふふふ」

「あはははは!」


 リンが吹き出すと同時に笑ってしまった。

 なんだか心地いい。そうか、笑ってもいいんだ。


「ありがとうリン、なんだかスッキリした」


 ケイトのことを忘れることは出来ないけどなんだか自分の中で一区切り付けることが出来た気はする。

 もちろん怒りはある。勇者共は確実に殺すし目の前にしたら冷静では居られない自信もある。


「ふぅ……やっと笑ったわね」


 そういえばこんなやり取りしてたな、懐かしい気分だ。


「なら抱く?」

「なんでそうなる……」


 ため息が漏れる。

 本気なのか冗談なのか分かりづらいからやめて欲しい。


『マスター……私は出現した装備品の確認をしようと思います。壊れているものや使い道のない効果の付与された装備品は置いていこうと思いますので。そういえばグリエルで手に入れた装備品も確認して選別が必要ですね。私はその作業に入りますので2時間ほど集中しようかと思いますがよろしいでしょうか?』

「よろしくねぇよ」

「よろしいわよ」


 ウルトまで何言ってるんだ……


 その後なんやかんやあったが俺のスキルに【トリプルマジック】と【魔法威力上昇(極)】が追加されてしまった。



 転移の魔法陣を通って迷宮から脱出、急いで聖都へと戻りアンドレイさんを通じてウルトが選別した装備品を献上した。


「これほどの装備品を……いいのかい?」


 アンドレイさんは目の前に積み上げられた魔法効果の付与された装備品を前に戦々恐々としている。


「俺たちは使いませんし……防衛の役に立ててください」


 この街は一度攻められている。

 勇者がサーシャを拉致して逃げるための援護の意味もあっただろうが1000に近い数の魔物に囲まれたのだ。

 幸い弱い魔物ばかりだったこととウルトの活躍で被害は全く出ていないが俺たちが離れたあと再び攻められないとは限らない。


「それはありがたいが……対価は?」

「俺たちが魔王を倒した後で考えます」


 事ここに至って新たな勇者を召喚して鍛えて魔王にぶつけるという考えは俺とリンには無い。


 サーシャを助け出して【生浄化結界】の力を借りてウルトで轢き殺す。

 これが俺とリンで一致している考えだ。


【聖女の祈り】は絶対に使わせない。


「分かった、受け取ろう。対価についても最大限の努力はさせてもらう」


 アンドレイさんと別れて「ある物」を受け取るため教会へ向かう。


 ライノス邸は聖都中心部にほど近い場所にある。

 同じく中心部に位置する教会へはすぐにたどり着いた。


「クリード殿、リン殿!」


 教会の敷地内に足を踏み入れると教会内を警備していたソフィアに声をかけられた。


「ソフィア、お疲れ様」

「ありがとうございます。迷宮は如何でしたか?」

「攻略してきたよ。自我は無かった」


 一言二言交わして奥に案内してもらう。


「これはクリード様、リン殿、教会になにか御用でしょうか?」

「司教さん、アレを引き取りたいんですけど構わないですか?」

「アレと申しますと……」


 アレが何を指すのかを少し考えていたようだが、俺の表情を見てピンと来たらしい。


「こちらとしても処分に困っておりましたのでそれは構いませんが……」

「お願いします」

「分かりました。どうぞこちらへ」


 司教に案内してもらい協会の地下へ。


「こちらです」

「どうも」


 案内された部屋の中で「ソレ」を回収。【アイテムボックス】を開いてそこに放り込む。


「ありがとうございました」

「いえ……お気を付けて」


 この司教とは何度か会議で顔を合わせていたし魔族騒動の時にも同席していたから話が早くて助かる。


 司教とも別れ協会出入口に向かうと、そこではリンとソフィア、さらにアンナも待っていた。


「アンナも来てたのか」

「仲間はずれは嫌ッスからね!」


 アンナも明るく振舞ってはいるがいつも通りでは無い。


「クリード、2人も了承したわよ?」

「なにを?」


 アンナと挨拶を交わしていると横からリンが口を出してきた。、了承?


「アレよアレ。迷宮の……」

「ッッッ!?」


 何の了承取ってるんだよ!?


「クリード殿、お願いします。私たちを連れて行けないのならせめて私たちの力だけでも……」

「いや……気持ちはありがたいけど俺は力のためにっていうのは……」


 致すなら責任が……


「クリード、言ったでしょ? ここはクリードの居た世界じゃない。この世界では一夫多妻は一般的よ」


 確かに聞いた。


 この世界での男性の死亡率は俺が考えていたより遥かに高い。

 なので悪い言い方をすれば男が足りず女が余ると……


 だから甲斐性のある男は複数の妻を娶るのは義務だと……


 さらに俺の場合異世界から召喚された勇者の1人だ。

 その直系の子孫というのは一般人より高い才能を有している場合が多いらしい。


 まさにその高い才能を持った異世界人の直系の子孫のリンが言うのだから説得力がすごい……


 まぁそういった理由で俺は沢山妻を持ってたくさん子供を残すのが望ましいと……


「話はわかるけど……ソフィアとアンナはいいのか?」

「むしろ望むところです」

「アンナ・クリードって良くないッスか?」


 いいんだ……


「じゃあソフィア、アンナ、あたしたちは例の宿に今夜は泊まるから、仕事が終わったら来てね」

「分かりました」

「了解ッス!」

「えぇ……」


 俺を置いてきぼりで女性陣の中で話が纏まってしまったようだ。


 宿に到着するとリンは「ちょっと用事を済ませてくる」と出掛けてしまった。


 数時間もしないうちに戻ってきたが実家にでも戻ってたのかな?


 その夜はなんやかんやで色んなことがあり翌早朝に俺とリンは聖都を発った。


 これはもう何がなんでもサーシャを助けて魔王を倒し生きて戻らなければならない。


 はぁ……責任が重い……



 《【魔法適性(聖属性除く全て)】を獲得。【合成魔法】を獲得。【魔力極大ブースト】を獲得》

 《【騎士の矜恃】を獲得。【槍術(上)】を獲得。【隠密】を獲得》

 《【衝撃緩和】を獲得。【挑発】を獲得。【攻撃反射】を獲得》

 《【見切り】を獲得。統合進化【見切り(特)】を獲得》

 《【気配察知】を獲得。統合進化【気配察知(極)】を獲得》



 あと【絶倫(強)】仕事しすぎな……

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