第112話 内通者

 逸る気持ちを抑え会議が始まるまでの時間を過ごす。


 ソフィアに頼みアンドレイさんに俺も会議に参加することを伝えてもらっているので参加することに問題は無い。


 あとは……その場に内通者が居るのかどうかだな。


「クリード、お願いだから見付けてすぐに攻撃はやめてね。拘束よ」

「分かってるよ……即時拘束でいいだろ」


 情報を集めることが第一、恨みを晴らすのはその後でだ。


「クリードくん、行こうか」


 アンドレイさんと一緒に会議場へと移動する。


 アンドレイさんはとりあえずサーシャに命の危険が無さそうだと分かると今までと変わりのない対応をしてくれている。

 娘が攫われたのに落ち着いているなんてすごい人だと思う。


『マスター、発見しました』


 入城してすぐ、ウルトからイヤホンを通して報告があった。


「クリード……居たのね?」

「あぁ、ウルトが発見した」


 一瞬俺の顔が強ばったのだろう、リンがすぐさま声を掛けてきた。


「冷静に……ね」

「分かってるよ」


 一度深呼吸してアンドレイさんと同じ控え室に入る。


「アンドレイさん、おそらく会議に魔族、もしくはその手先が居ます。俺たちは発見次第そいつを捉えます」

「魔族……? きみは見て分かるのかい?」

「分かります。そいつが俺たちが聖都に居るって情報を流したから襲撃されたのだと思います」


 今まで会議に参加する時はライノス邸にウルトを置いていたからな……

 連絡用にと思っていたけどそれも間違いだったな……

 最初からウルトを連れてきていれば違和感のある魔力を感知出来たはず……甘かった。


「分かった。あまり周りに被害が出ないようにお願いする」

「もちろんです。会議場に入ってきた場合即座に捕らえます」


 注目は俺に集まるだろうから拘束するのはリンの魔法の予定だ。

 ソフィアとアンナは警護という名目で会議場の出入口前で待機、リンが魔法を撃った瞬間対象を直接拘束してもらう。


 段取りの最終確認も済み城の文官が俺たちを呼びに来たので会議場へ移動、ターゲットはまだ会議場には居ないみたいだ。都合がいい。


 中には既に多くのお偉方が入室していて入ってきた俺たちを見て近くの人とヒソヒソと小声で話している。


 内容は……聞こえはしないけど聖女を攫われた俺たちに対しての陰口だろうな。


『近付いてきています』


 案内された席に着いてリンにアイコンタクトを送り入口を注視する。

 入口から少し離れてはいるが見えやすい席で良かった。


『入ってきました、後ろにいる緑色の服を着た男です。人間ではありませんね』

「リン、後ろの緑の服の男だ。人間じゃない」

「了解」


 小声でリンに伝えるがリンから直接緑色の服を着た男は狙えない。

 一緒に入ってきた国王と王太子が邪魔なのだ。


「アンドレイさん、あの陛下の後ろの緑色の服の男に見覚えは?」

「……我が国の宰相だ」


 宰相……見たことあるはずだけどあんなだったかな?


 国王様たちは壁沿いに歩いて上座へと向かって歩く……今だ!


 リンが指を突き出して電撃を放つ。

 入口から少し離れている、ソフィアたちより俺が行った方が早い。

 リンの魔法に合わせて机を蹴り緑の服の男に飛び掛りながら【無限積載】から【不殺】の効果の付与された剣を取り出して斬り掛かる。


「うわあああ!」

「いぎっ!!」


 突然の俺たちの行動に驚いたのか王太子が腰を抜かして叫ぶ。

 それを無視してリンの魔法を食らって動きの硬直している男に一撃入れてから確保。手早く拘束する。


「き、貴様!」

「なにをするか!」


 中にいたお偉方も事態に気付き俺たちを非難する言葉を叫んでいる。


 周りの罵声を気にせず緑の服の男を動けないように拘束して立ち上がった。


 気を失っているので走り寄ってきたソフィアとアンナに監視を任せて口を開く。


「お騒がせしてしまい申し訳ありません。この男は人間ではありません」


 罵声を飛ばしていたお偉方も俺の言葉を聞いて意味がわからなかったのかだんだん声が小さくなっていく。


「聖女サーシャがこの街に滞在している情報を流したのはその男でしょう。もしかすると留め置くように水面下で動いていた可能性もあります」


 会議場内に居たお偉方は信じられないといった目で俺と宰相を交互に見ている。


 国王様は難しい顔で、王太子殿下は目をいっぱいに見開いてこちらを見ている。


「陛下、殿下、なにかご存知でしょうか?」


 言葉だけを聞けば丁寧に話しているが、殺気を込めて質問すると国王様は冷や汗を流し王太子に至っては顔を真っ青にしてガクガク震えている。


 これは……グルか?


「ふむ、クリードと言ったか? 証拠はあるのかね?」


 そういえばこの王は勇者たちが出発したという情報が流れてきた途端に声が小さくなったな。

 今思えば俺とサーシャを合流させろというポーズだけを取っていたのかもしれない。


「証拠……ねぇ」

「クリード、これは幻術ね。あたしに任せて」


 リンは宰相に手を向けて光の魔力を放つ。


 それを浴びた宰相の姿は人間のそれから銀の髪、黒い肌に長い耳、俺の想像するダークエルフのような姿になった。


「魔族!?」

「なんだと!?」


 今まで俺たちを非難していたお偉方だが魔族の姿を見て矛先を変える。


「さて陛下、これ以上の証拠は必要ですか?」

「ぬぅ……」


 洗脳など操られているような感じは無い、自らの意思で協力していたのか?


「さて、知っていることを洗いざらい吐いて貰いましょうか? 俺には余裕が無い」


 剣を王の首に突きつける。

【不殺】の効果があるので死ぬことは無いがそんなものはアチラには分からないだろう。


 王は諦めたように大きく息を吐いてから口を開いた。

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