第81話 やることは結構ある

 無事にガーシュにたどり着いた俺たちはまずは冒険者ギルドを訪ね避難民がいるかどうかの確認をした。


 すると思った通りかなりの数の避難民がガーシュまで逃げてきているようだったので子供たちを避難民の集まる場所まで連れて行ってもらった。


 それからすぐに俺たちはギルドマスターと面会する事になった。


「よく来てくれた、私がガーシュの冒険者ギルドマスタージェイクだ」

「はじめましてジェイク殿。私はリバークの冒険者ギルドから来ましたフィスと申します。こちらが――」


 へぇこのメガネフィスさんって言うのか……


「ミスリルランク冒険者か、来てくれて嬉しく思う。ありがとう」

「いえ……」


 ジェイクさんは俺たちにも頭を下げて丁寧に対応してくれた。

 正直こういうのは得意では無いからリバークのギルドマスターみたいな対応をして欲しいと思う。


 そういえばあのマスターの名前知らないな……


 そこから色々な話し合いが行われた。

 まずは物資、これに関しては目録を渡して確認してもらい後で俺が降ろす場所に行って降ろすだけなのですぐ終わった。

 検品とかも特に無いようなので降ろすだけだと。楽でいいね。


 次は俺が売る武器の話。

 とりあえず呪われてるっぽい武器や光ったり音が出たりなど戦闘に全く役立たない武器は除いて効果、形状問わず適当に100本納品した。

 全て金貨1枚での販売ということで大変喜ばれたが支払いは現金ではなく手形でお願いされた。


 まぁここは最前線だし余裕がある訳でも無いだろうから問題は無い。

 後日この手形を持って王都冒険者ギルドにでも行けばいい。


 最後は食料問題。

 大勢の避難民が押し寄せて来たため食料に不安があるそうだ。

 もちろん俺たちが持ってきた支援物資の中にも食料はあったが焼け石に水。


 王都からも物資は運ばれているらしいが王都は消費地であって生産地ではないためあまり量は無いそうだ。


「なぁサーシャ、俺たちの持ってる魔物譲ってももいいかな?」

「状況が状況ですし、それでも構いませんが格安でいいので対価は要求してください」


 あら、サーシャなら賛成してくれるかと思ったんだけど……


「この場合無償提供よりは購入の方が相手も気が楽になるものです」

「なるほど、そういうものか」

「そういうものです」


 サーシャから言われた通りリバークでの相場の2割で俺の持ってる大量の魔物を卸すと言うと大変に喜ばれた。

 しかし2割ではなく半額は出すと言われてしまった。

 サーシャの言っていた通り心苦しいものがあるらしい。


 俺としては無償でもいいと思ってたからいくらでも構わないんだよね。


 それと出来れば食用だけでなく防具の素材になるような魔物も欲しいと言われたので快く首を縦に振っておいた。

 これで在庫が掃ける……


 支払いに関してはその都度計算して手形発行もしくは現金払いでということで纏まった。


 とりあえずこれで俺たちの用事は済んだかな? いや一番大事なこと聞いてなかったな。


「それで俺たちは何をすればいいですか? 兵士さんや他の冒険者に混じってカブトムシの数を減らしてたらいいんですかね?」


 勇者も来てるって話だしグレートビートルは勇者に任せて大丈夫かね?


「そうだな……フライングビートルの数を減らしながらグレートビートルの捜索を頼みたい。発見したら出来れば戦闘せずに報告して欲しい」


 フライングビートル? あぁカブトムシの正式名称ね。

 それよりも発見しても戦わずに?


「それはいいですけど……なぜ?」

「いや、勇者殿がな……」


 聞けば参戦した当初はノリノリでフライングビートル討伐をしていたが徐々に飽きてきたのか最近はあまり討伐に出ずにボスを見つけたら報告しろ! とふんぞり返っているらしい。


 それでいいのか勇者……


「まぁ……うん、はい、わかりました……」


 報告してくれと言うならそれで全然いいんだけど……勇者たちで倒せるのか不安だな。

 そもそもカブトムシの群れを突っ切ってグレートビートルまでたどり着けるのかって話だよなぁ……


 もしかして俺が連れていくことになったり?

 頑張ってるならそれは全然いいけどさっきの話が本当ならすごく嫌だ。

 頼まれたら……まぁやるけど……


 個人的にはアレだけど困ってる人がたくさんいる訳だからそこは飲み込んでやるけど……


「それと、今日ここまで来るまでにかなりの数の遺体を回収しています。これらはどうしましょうか」

「それは……こちらでなんとかしよう。物資を降ろす前に広場で降ろして頂いてもよろしいですかな?」

「わかりました」

「案内の者を付けますので……おーい!」


 ジェイクさんが大声で呼び掛けると部屋の外から1人の男が入ってきた。

 この人が案内役みたいだね。


「クリードさん、行かれる前にこちらを」


 フィスさんから渡されたのは金貨2枚。護衛と輸送の報酬だな。


「確かに。ではまた」

「はい、またお会いしましょう」


 俺とフィスさんが話している間にリンがギルドマスターと話していたようだが……友人の安否確認だろう。

 部屋を出る時に浮かない顔をしていたのでまだ行方不明っぽいな、そっとしておいた方がいいのかな……


「ではこちらへ」


 まずは解体所、相場の5割という約束なので大体金貨1枚になるくらいに計算して魔物を取り出す。


 食用としてオークやラッシュボアを、素材としてオーガやリザードマンの死体だ。


 少し多めに出したので金貨1枚と銀貨3枚と計算結果が出た。

 今回は現金で受け取る事にして次は広場へ、先に声を掛けていたのか避難民がたくさん集まってきていた。


 その中心に1体1体丁寧に並べていく。


 知り合いか身内が居たのか縋り付くように泣いている人もいる。


 その中で遺体の前に跪き祈りを捧げるサーシャの姿が何故か神々しく見えた。


 そして最後にギルドの所有する倉庫に移動して持ってきた物資をそこに降ろす。

 検品は後日担当者がやるから不要、受け渡しのサインも求められ無かったのでこれにて今日やることは終了だ。


 もう日も落ちかけている、腹も減ったし早めに飯と宿を決めないとな……


「クリード、今日は外でウルトに乗って寝ない?」


 ちょうど飯と宿のことを考えているとリンからウルトで寝ようと提案があった。


「別にいいけど……なんで?」

「なんでってこの時間から探すのも大変だし、そもそも冒険者や兵士が集まってるんだから空いてる宿を探すことから大変よ?」


 あぁ、言われてみればそうか……


「なるほど……それならウルトで寝た方が楽か……」

「えぇ、食料にも余裕がある訳じゃ無さそうだからあたしたちは自分で持ってきたものを食べましょう」


 話を聞いていたサーシャたちも頷いているのでそれで決まり。

 俺たちは街を出てすぐにウルトに乗り込みそこで野営をすることにした。

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