第73話 調子には乗らない方がいい

 マンモンと出会ってから1週間経った。


 ケイトは魔剣を完全に制御しつつあるし俺も骨にヒビが入ったくらいなら治せるようになっていた。

 やはり実践形式での訓練は成長が早い。


 ソフィアもどんどん攻撃力を増しているし【隠密】の使い方が上手いとマンモンに褒められている。


 アンナはマンモンと1対1で対峙しても数分耐えられる程に防御の技術を高めている。

 俺が1対1で対峙した場合ダメージ的には耐えられるけどすぐに殴り飛ばされるからタンクとしては役に立たないんだよな……


 《ではやろうか》


 今日は数日振りにパーティ全員での戦闘だ。

 ここ数日は個人練習ばかりだったからなんだか懐かしい。


「じゃああたしから行くわね」


 パーティ戦の基本、まずは魔法による攻撃がリンから放たれた。

 初日と同じように炎の弾丸を連射、明らかに初日より威力が上がっているように見える。


 さらに炎の弾丸は放ちながら上空に大きな氷の槍を生成、完成と同時に炎の弾丸の射出を止めて氷の槍を打ち出した。


 《ぐぬ……》


 これにはさすがのマンモンもダメージを受けると感じたのか防御の姿勢を取る。


 だが氷の槍は着弾の直前に消失、マンモンは氷の槍に意識が向いていたのでコチラに対しては無防備だ。


「【剛腕】【雷神剣】【瞬間加速】!」


 3つのスキルを重ねがけして突進、加速した速度を活かして駆け抜けるように攻撃を仕掛ける。


 そういえば3つの攻撃スキルの重ねがけってソフィアとケイトは出来ないらしいよ。


 《ぬおっ!》


 完全に隙をさらした側面から【瞬間加速】を用いた奇襲攻撃だったがマンモンは反応、魔力を込めた腕で防御される。


「【魔力撃】!【身体強化】!」


 普段ならここで【隠密】で気配を消しているソフィアの攻撃の番だが敢えて順番を入れ替えてケイトの攻撃。


「【魔神剣】!」


 俺がよくやる【魔力撃】に属性を乗せる方法ではなく純粋に【魔力撃】に込める魔力の量を増やし破壊力を劇的に上昇させるケイトの新技だ。


 パターンでソフィアの奇襲を警戒していたマンモンはこれに反応が僅かに遅れる。

 何とか防御は間に合ったが俺に対して隙だらけだ。


「【剛腕】!【魔神剣】!」


 もちろん【魔神剣】は俺も使える。

【弱点看破】の効果でダメージを与えやすい位置を予測、そこへ向けて攻撃を繰り出した。


 《ぐっ……!》


 マンモンの軸足に最速最短で俺の最強の攻撃がヒット、刃が僅かにだがくい込み鮮血を散らした。


「【剛腕】【疾風加速】」


 俺からケイトへ、ケイトから俺へ、さらに背後でアンナが【挑発】を発動、これでマンモンの意識からソフィアが完全に消える。


 背後に回り込み【隠密】を解除、スキルでパワーとスピードを上昇させ槍に付与されている【魔力撃】を発動させ渾身の突きをマンモンに叩き込んだ。


 《うおおおおぉ!》


 その突きを背中に魔力を集めて防御、だがその分他の部分の魔力が薄れた。


【魔力視】と【弱点看破】の効果でその隙を見つけた俺は即座に攻撃を放つ。


「【風神剣】!」


 風を宿した刃はマンモンの脇腹を浅くだが斬り裂いてさらに斬りあげによる攻撃だったのでマンモンの足が地から離れて吹き飛んでいく。


 さらに吹き飛ぶマンモンに向けてリンの大量の魔法が降り注ぐ。

 マンモンは吹き飛びながらも体制を整え魔力を纏い防御、しかし俺たちの連続攻撃にかなりダメージを受けたようだ。


 《見事。たったこれだけの時間でここまで成長するとは思わなかった。ここからは少しだけ本気を出してやろう》


 ボロボロな姿で立ち上がりマンモンは黒い玉を出現させ手を突っ込む。


 引き抜かれた手には真っ黒な刀身の長剣が握られていた。


 《殺さぬよう気を付けるが死ぬなよ?》


 そう言ってマンモンはこちらに踏み出し突っ込んでくる。


 速い!


 何とか踏ん張って一撃は受け止めるがそれまで、剣を受けるのに集中しすぎた俺はマンモンの繰り出した蹴りに反応出来ずあっさりと壁に向けて蹴り飛ばされてしまった。


「あがっ!」


 頭だけは強く打たないように守りながら壁に激突、すぐに自分に回復魔法を掛けながら立ち上がるがその時には戦闘は終わっていた。


 ソフィアとアンナは血塗れで倒れているしアンナも吹き飛ばされている。

 マンモンはリンの首元に剣を突きつけて止まっていた。


 《ふむ、この速度と力にはまだ着いて来れぬか》


 剣を降ろしながらそんなことを呟くが冗談じゃない。

 剣を抜いてからのあの踏み込みは反応するだけで精一杯だった。

 むしろ良く一撃受け止められたと自分を褒めたいくらいだ。


 《見事な成長ぶりだがまだまだ伸び代はある。精進せよ》


 その言葉で今日の戦いは終わり、食事を摂りながら反省会を行うが純粋な力の差はどうにも埋めがたい。


 色々と意見を出し合いその都度試すが上手くいかない。

 アンナを前に出して前線でタンクを……と試して見たがそれをすると簡単にサーシャとリンがやられてしまう。どうしたもんかね……



 それから数日後に事件は起きてしまった。




 剣を使い始めたマンモンの動きにも慣れてきて見えるようになって来ていた俺は少し調子に乗っていた。


 マンモンの振るう剣を受け止めては躱し、カウンターを放つ。


 当然勝てはしないが何かを掴めそうな感じがしていた俺は攻撃の手を緩めることなくなくさらに攻め続けていた。


「おらおらおらおらぁ!」


 そう、調子に乗っていたのだ。


 《ぬっ……》


 マンモンも煩わしそうにしながらも俺の攻撃を捌く。

 捌いて捌いてカウンターを放った時その事件は起きた。


「ぎゃぁぁぁああああ!!!」


 部屋の中に俺の絶叫が響く。

 マンモンはそれを見てオロオロしている。


 《す、すまぬ!》

「腕がァァァ俺の腕がぁぁ……」


 地面に転がるのは剣を握ったままの俺の右腕。

 肘から先がスッパリと切り落とされていた……

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