第72話 成長

 《さて、話もひと段落着いた。ソフィアとケイトに武器を見繕おう》


 最初の会話を冗談と切り捨てたマンモンは何事も無かったかのように話を進める。


 《槍と剣だな、それでいてそれなりの金属で出来ていていい能力の付いた武器は……》


 マンモンは空中に黒い玉を生み出してそこに手を突っ込む。


 《うむ、いくつかあるな》


 黒い玉から手を引き抜くと、そこには一本の槍が握られていた。


 《この槍は柄は鋼だが穂先は魔鉄で出来ている。能力は攻撃時自動で【魔力撃】が発動される。これに自前で【魔力撃】を重ねれば我を傷付けることも可能な武器だ》


 ソフィアは槍を受け取り少し離れた場所で感触を確かめるように素振りをする。


「いい槍です。頂いてよろしいのですか?」

 《構わぬ、精進せよ。次はケイトの剣か……》


 再び黒い玉に手を突っ込むマンモン、探しているのかゴソゴソしているようにも見える。


 《ふむ、これなんてどうだ? 【戦闘狂】の効果が付いていて握ると戦闘意欲が異常なほど高まるがこれを制御出来るようになれば先程言った心の乱れも改善出来ると思うぞ》


 マンモンが取り出したのは真っ赤な刃のロングソード。

 見るからに呪われていそうだし付与されている効果もなんだか呪いっぽい。


「心の乱れ……うん、使ってみるよ」


 鞘に収めた剣を受け取りケイトも少し離れた位置へ移動する。


 大きく深呼吸して鞘から抜き構える。

 しばらくそのまま構えていたが、見ているとだんだんケイトの頬に赤みがさしてきた。


 それからうずうずするように体が動いている。

 これは【戦闘狂】の効果で戦いたくなってきてるのかな?


 《ふむ、呑まれたか……》


 マンモンは立ち上がりケイトの前へ、するとケイトはなんの躊躇も無くマンモンに斬り掛かった。


 《技もキレも無い、これではダメだ》


 マンモンはそう言いケイトの手から剣をたたき落とした。


「あれ?」


 自分の両手を眺めて困惑するケイト、呑まれていた時の記憶が飛んでるのだろうか?


 《完全に剣に呑まれたな。今後それを抜く時は我の前でだけだ。我から離れた所では絶対に抜くな》

「う……わかったよ……」


 呑まれた自覚はあるのか、ケイトは大人しく頷いた。


 《さて……それではどうする? 早速戦うか?》


 マンモンの問に俺たちは頷きあって構える。

 ウルトはテーブルと椅子を元に戻して離れた位置へ移動、静観の構えだ。


「行くぞ!」


 剣を抜いて突撃の体制を取るが俺の後ろからものすごい速度でケイトが飛び出した。


「やぁぁあああ!」


 大きな声を出しながら斬り掛かるが簡単に受け流される。

 初手はリンの魔法の予定だったんだけど……また呑まれてるな……


 まぁ呑まれたものは仕方ない、ケイトだけに戦わせる訳にもいかないので俺とソフィアも前に出る。


 先程言われた直線的すぎる動き、そこに注意しながら攻撃を仕掛けるが簡単に捌かれてしまう。


 それからあっという間に3人揃って吹き飛ばされて戦いは終了。

 先程の戦いより酷いものだった……


 《ケイト、この剣は難しいか? 他の剣にするか?》


 マンモンはケイトにそう尋ねるがケイトは首を横に振る。


「いや、すぐにでも使いこなしてみせるよ」


 腰の剣に目をやり柄頭に手を置く。

 すぐに高揚したのか慌てて手を離している。


 使いこなせるのか? と少し不安になったがケイトの強い瞳を見て何も言わないことにした。


 それからのケイトは常にマンモンの近くに居るようになった。

 確かに呑まれたら危険だし攻撃されても問題無いマンモンの近くなら安全なんだろうけど……

 それって俺でも同じじゃね? 俺の耐久力と作業着の防御力ならあの状態のケイトの攻撃受けてもかすり傷一つ負わないし……

 いやよそう。


 俺は主にソフィアやアンナと訓練、時折ケイトが倒れているのを見てその間にマンモンに挑んでみたりと訓練を続けた。


 翌日……


「クリード様、大丈夫ですか?」


 マンモンにボコボコにされた俺を治療しながらサーシャが尋ねてきた。

 大丈夫もなにも、見ての通りかな。


「生きてるから大丈夫」

「それは大丈夫なのですか?」

「生きてさえいればサーシャが治してくれるから」


 そんな馬鹿なことを言いながらもすぐに回復、サーシャの回復魔法は本当にすごい。


「無理はなさらないでくださいね?」

「それは俺よりマンモンに言って欲しいかな……」


 アイツ容赦無いからな。


「そうだサーシャ、回復魔法教えてくれない?」

「回復魔法ですか? クリード様も光属性はありますので使えるとは思いますが……」


 なんで今更みたいな顔してるな。


「マンモンと戦ってて思ったんだ。前線で戦いながらソフィアやケイトの回復が出来ればかなり楽になるなって。今まではあんま戦いでダメージ受けること無かったから気にしてなかったけどね」

「確かに戦線は安定するでしょうね……わかりました。これから寝る前に少し練習してみましょうか」

「ありがとう」


 よし、話してるうちに回復したしもういっちょ行くか!


 その日はそれから数度マンモンにボコられて訓練は終了、寝る前に30分ほど回復魔法の仕組みや使い方のレクチャーを受けて泥のように眠った……


 それから数日、毎日同じような訓練の繰り返しではあるが進捗はあった。

 まずケイトが魔剣の制御に徐々に成功し始めている。


 初日など抜いた瞬間に呑まれていたが今では10分ほどは呑まれずに戦えるまでになっている。


 アンナも何度もマンモンの攻撃を受けて防御に磨きがかかっておりソフィアに至ってはマンモンに傷を付けることに成功していた。


 サーシャはみんなの回復に務めながら時折聖属性魔法をマンモンに向けて放ち瘴気を浄化して弱体化しないか試していたりする。

 浄化した端から湧き出してくるので効果は無い模様。


 ちなみにマンモンから【聖浄化結界】なら効果があると教えられて実践したらマンモンが立っているのも辛そうな状態に陥ったのでそれから【聖浄化結界】は使っていない。

 訓練で使うと訓練にならないからね。


 リンはリンでほぼ毎日1人で訓練している。

 1日の大半を瞑想に費やし魔力コントロールの向上に務めているようだ。

 たまに練習で放つ魔法は今までより強力になっているような気がする。


 俺は俺でまだマンモンに傷は与えられていない。

 しかし回復魔法の方は順調に成長している。


 なにせ気を抜いていたら一瞬、しっかり気を張っていても数分でボコボコになれるのだ。

 練習台には事欠かない。

 その練習台が主に自分だというのは置いといて……

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