第70話 大悪魔
翌日、よく食べよく眠りしっかりと英気を養えたので出発、安全地帯から次の階層へ進む扉を開いて階段を下る。
「長いな」
「長いですね……」
後部座席で並んで座っているサーシャとの会話、他の階層に比べて明らかに階段が長い。
もしかして次の10階層が最下層なのだろうか?
「あ、見えてきましたよ」
「他の階層の3倍くらいあったな」
ようやく10階層に到着、今までの階層は階段があるのは小部屋といった感じだったがここは通路だ。
左右に道は無し、ウルトに乗ったまましばらく道なりに進んでいく。
途中分かれ道などは一切存在せず、また魔物も1匹も現れない。
ウルトの【万能感知】にも引っかかる魔物は居ないそうだ。
「あ、扉」
助手席に座るケイトの声、目を凝らして前方を見てみると確かに薄らと大きな扉が見えていた。
「明らかに扉も大きいですね」
「これは本当に最下層かもしれないわね」
扉の前にたどり着き一行に緊張が走る。
『マスター』
「よし、行こうか」
『かしこまりました、突入します』
短くウルトとやり取りして指示を出す。
ここまで来たのだから行ってみるしかないだろ?
ウルトがゆっくりと扉に近付くと、扉は勝手に開いて通れるようになった。
全員が生唾を飲み込み緊張しながら進むと、中には身長2メートル程、頭に2本の角を生やし背中にはコウモリのような羽、見るからに悪魔と言うべき存在がそこに居た。
「魔族……いえ、悪魔?」
呟いたのはサーシャだ。
この世界にも悪魔は存在するのだろうか?
《良くぞここまでたどり着いたな人間よ……人間?》
ウルトの中に居るのにアイツの声が頭に響く。
俺たちを褒めるような内容のはずだが最後に疑問形、アイツからはウルトしか見えないもんね……
『貴方は?』
《我は強欲を司る大悪魔マンモンである。人間よ、姿を見せよ》
そう言われましても降りるのは……ね。
てか強欲の大悪魔って七つの大罪かよ。
《どうした? 心配せずとも手は出さぬ》
ふむ……
「どうしよう?」
「姿を見せないと話が進まないのでは?」
少し話し合いとりあえず俺とケイトが降りて様子を見ることにした。
1番素の防御力の高い俺と対応力の高いケイトが行くのが1番安全だろうという判断だ。
それに何かあってもウルトが守ってくれるだろうしね。
《ようやく姿を見せたか……まだ4人居るだろう?》
「居るけどまぁ安全かどうかも分からないからな」
まずは対話を試みる。
声をかけてきたのはアチラだし見た感じ交戦の意思は感じられない。
とはいえ油断する訳にもいかないので何が起こっても大丈夫なように集中する。
《ふむ、なるほどな。まぁわからんでもない。ではまず話をしようか》
マンモンと名乗った悪魔はこちらの意見に納得したのか頷いてその場に座り込んだ。
《主らは座らぬのか?》
「え……いや……」
困惑しているとウルトが近付いてきて【変幻自在】を使用して形を変化させる。
簡単な机と椅子の形に変化して『どうぞこちらへ』と着席を促した。
《かたじけない》
悪魔は立ち上がり促された椅子に腰を下ろした。
俺とケイトも頷きあって対面に腰を下ろす。
《まずは良くここまでたどり着いた。賞賛に値する》
「どーも……」
この悪魔の狙いはなんだろうか?
《それからこの部屋から出るには我を倒す以外に方法は無い。故に主らの命はここで潰えることとなる》
「は?」
え? 出れないの?
なら何でこいつは会話を求める? さっさと戦えばいいじゃない。
《主らでは我には勝てぬ。だが我も主らを殺すつもりは無い》
こいつは何を言ってるんだ? ここから出る手段は無くてマンモンも俺たちを殺す意思は無い……閉じ込めて餓死でもさせる気か?
「何がしたい」
《我は永き時をここで過ごした。話し相手も無くやることも無い。だから我は話し相手が欲しいのだよ》
「だからお前は俺たちを殺さない、と?」
《そういうことだ。もちろん主らが我を殺そうとするのは自由だ。殺さぬよう相手をしてやろう》
どうする? ウルトでドンするか?
いや殺さないように相手してくれるなら修行相手にはちょうどいいのか?
ある程度修行相手にしてからウルトでドン、アリかな?
こいつから感じるプレッシャーは半端ない、本気で1対1で戦えば2秒も立っていられない気がする。
明らかに機昨日戦った1つ目大巨人より遥かに格上。
「本当に殺すつもりは無いんだな?」
《無いと言っている。我が欲しているのは主らの命では無い》
まぁこう言ってるし、とりあえず戦ってみようか……
「ケイト」
「分かったよ……」
ケイトも覚悟を決めたようだ。
俺は全員をウルトから降ろして状況を説明、全員で戦う意志を固めてマンモンに向き直る。
《ふむ、まずは一戦、かかってくるが良い》
マンモンは立ち上がりこちらに体を向けて両手を広げる。
何らかの攻撃が来るのかと思ったがどうやら構えただけらしい。
「いくわよ!」
リンが合図とともに多数の炎の弾丸を生成、打ち出す。
マシンガンのように連射される炎の弾丸の射線に入らないように俺、ソフィア、ケイトの3人はマンモンに接近、リンが魔法の射出を止めるタイミングに合わせて同時に斬りこんだ。
《甘い》
背後から突き出されたソフィアの槍を回避、向かって左から斬り込んだケイトの剣を手の平で受け流し右から振り下ろした俺の剣を掴んだ。
「【雷神剣】!」
掴まれた瞬間剣に雷の魔力を流し込み雷神剣を発動、これで掴んでるマンモンにも電撃ダメージが入るはず……
《効かぬよ》
だが効果は無い、マンモンは剣を掴んだまま俺に拳を打ち出してくる。
防御を――
咄嗟に剣から片手を離して防御しようとするが間に合わない。
すさまじい力で腹を殴られ為す術なく壁に叩きつけられた。
「ぐあっ!」
「クリード様!」
俺が吹き飛ばされるのを見たサーシャが声を上げ俺に走りよってくる。
その姿をマンモンは見つめているが攻撃してくる気配は無い。
「サーシャ様!」
アンナがサーシャを護るためにマンモンとサーシャの明らか間に入るのが見えた。
「ぐっ……」
直ぐに立ち上がろうとするが頭を打ったのか下半身に力が入らない。
剣は……ある、おそらく殴り飛ばした時に掴んでいた手を離したのだろう。
「すぐに治療します!」
駆けつけたサーシャに回復魔法を掛けてもらう。
数十秒としないうちに痛みも不快感も消えて立ち上がれるようになった。
回復魔法すごい。
「うわぁ!?」
体の調子を確かめているとケイトの悲鳴、どうやらマンモンに蹴り飛ばされたようだ。
女性を蹴るのは良くないと思います!
すぐに【瞬間加速】を発動、マンモンに向け加速しながら斬り掛かる。
「【剛腕】!【魔力撃】!」
剣に流す魔力を風に……
「【風神剣】!」
雷神剣は効かなかった、なら風神剣で体勢を崩して……
《今度は風か、器用な事だがそんなそよ風で我の体勢が崩れるとでも?》
先程と同じように片手で掴まれカウンターの拳。
今度は何とか左腕を挟み込んで防御するがやはり殴り飛ばされる。
しかし僅かでも防御出来たおかげか先程みたいに壁に叩きつけられることも無く体を捻って壁に着地、その勢いを殺さないように壁を蹴り再びマンモンに襲いかかる。
「【魔力撃】!!」
風神剣も雷神剣も通用しない、なら小細工は辞めて普段魔力撃に込める数倍の魔力を流し込み振り下ろす。
《うむ、それは痛そうだ》
マンモンは両腕を交差させ防御の姿勢。
これでは俺の攻撃確実に防御される。
だけど、それでいい。
《ぬっ?》
俺の攻撃を両腕で受けた瞬間、【隠密】で気配を消していたソフィアの突きがマンモンの脇腹に刺さる。
そっちに注意が行ったな?
「【身体強化】!【魔力撃】!」
さらに背後からケイトの全力攻撃、これなら……
パキィィイインと甲高い音が響き剣先が宙を舞う。
ケイトの全力で振るわれた剣はケイトの力とマンモンの硬さに耐えきれず半ばから折れてしまったようだ。
ヤバい、今のケイトは隙だらけ……今攻撃されたら!
《む……すまぬ》
マンモンはケイトに攻撃するどころか謝罪した。
……アレ?
《武器も壊れた事だ、終いにしよう。お前も先程殴った感触から骨にヒビくらいは入っているだろう、治してもらえ》
「え……あぁ……」
言われて気付く、左腕が熱い……
今まではアドレナリンが出ていて感じなかったのかもしれないが指摘された途端痛くなってきた……
マンモンはそのまま戦闘の意思はないと示すように無防備に歩いて俺たちから距離を取り地面に座り込んだ。
《どうした? そっちの女は回復魔法が使えるのだろう?》
マンモンが顎で示したのはサーシャ、まぁ俺に回復魔法掛けてるとこ見てたしな……
「す、すぐ治しますね!」
「お願い」
サーシャに怪我を治して貰い改めてマンモンに向き直る。
《では一戦交えたところで話をしよう。我は会話を望んでいる》
本気で殺すつもりで攻撃したんだけどな……
アイツにはなにも堪えていないらしい。
とりあえず俺たちは会話に応じることにした。
ウルトでドン! はまぁ今日じゃなくてもいいだろう。
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