第68話 初めての手傷?

 8階層ボス部屋に突入、中で待ち構えていたのは3つの首を持つ魔物、ケルベロスだった。


 首を真上に向けているがアレは雄叫びでも上げているのだろうか?

 外の音声が聞こえないのでよく分からない。


「ヤバいッス! アイツ炎を!」

「ウルト!」

『問題ありません』


 ケルベロスが3つの首から燃え盛る炎を吐いて来るがウルトは慌てない。


 何事も無かったかのごとく炎の中に突撃、そのまま炎を斬り裂いてケルベロスに突進、そのまま弾き飛ばして息の根を止めた。


「……」

「……」

「……わーお」


 流石にこれは全員が絶句、こいつは一体何なのだろう、ウルトが攻め込めば魔王とか倒せるんじゃない?


 8階層のボスケルベロスすらあっさり倒して安全地帯でローテーション。

 サーシャを運転席、ソフィアを助手席に乗せてウルトは進んで行く。


 9階層に降りてすぐに気が付いた。

 魔物の気配……多くない?


「ウルト」

「ウルト殿」


 ソフィアも気付いたようだ、ソフィアも【気配察知】持ってるからな。


「どうしたの?」

「魔物の気配が……」

「姿見えてないのにすごい数の気配感じるよ」


【気配察知】を持たないリンが聞いてくるがちょっと冷や汗流れるくらいの数がいるぞ?


『私の【万能感知】の範囲内で確認出来ている反応は1527です』

「1527!?」


 サーシャやアンナ、ケイトもウルトからの報告を聞いて声を上げるほどに驚いている。


「これは溢れ出しオーバーフローの前兆? それとも最下層が近いからか?」

「どうだろうね……でも何とかしないと不味いよね」


 報告に戻る意味は無い、報告しても対応出来るのはどうせ俺たちしか居ないし。


「ウルト、やれるか?」

『勿論です』

「なら殺れ。鏖殺だ」

「イエスマイマスター」


 ウルトって俺が頼むと嬉しそうだよな、特に戦闘系だとテンション上がる気がする。

 声はいつも平坦で変わりないんだけどなんか感じるね。


 俺の指示を受けたウルトは戦闘に使えるスキルを全て発動、ものすごい勢いで魔物を駆逐し始めた。


 次々と撥ね飛ばされ【無限積載】に積み込まれて行く魔物たち、一瞬だけどんな魔物か確認出来るのだが1つ目巨人とオルトロスが大半、たまに土人形、ゴーレムのような魔物も居た。


 ゴーレムは撥ね飛ばして倒すと土塊になってしまい素材という素材にはならないのだがオークキングとは比べ物塗らないほど大きく色の濃い魔石を持っている。

 魔石ってそんな高く売れないけどこれは幾らの値が付くのだろうか? 楽しみだ。


「アイツ初めて見る魔物ッスね」

「どれ? あぁ、あの牛みたいな奴ね」


 アンナとリンが指差す方向には二足歩行の巨大な牛のような魔物が居た。


「ミノタウロス?」


 二足歩行の牛みたいな魔物と言えばそれしかないよな。


「ミノタウロスッスか?」

「もしかしてクリードくんの居た世界にも居るの?」


 居ないよ。


「空想上の物語なんかによく出てくる定番の魔物だね」

「へぇ……どんな物語があるのかしら?」

「うーん……俺は違う世界で剣とか魔法とかで戦う物語が好きだったけど、他にも恋愛ものだったり少しの手がかりから真実にたどり着く推理ものだったり色々あったよ?」


 説明とか無理、そこまで読み込んでないしね。


「そうなの……読んでみたいわね」

「僕は恋愛もの読んでみたいな。クリードくんの世界の恋愛に興味あるし」

「そうなんだ、俺はこっちの恋愛はもちろん物語とか全くわかんないから興味はあるな」


 この世界では剣と魔法のファンタジーとか流行らんだろうし……いや英雄譚とかは流行るのかな?


「興味あるの? ならこれ貸してあげるよ」


 ケイトは自身の【アイテムボックス】から1冊の本を取り出し差し出してきた。


「ありがと、後でゆっくり読むよ」


 多分話の流れ的に恋愛小説だろう。

 なんかケイトがそういうの持ってるのは少しイメージと違うけど趣味は人それぞれだし……って話逸れまくりだな。


「話戻して……ミノタウロスって俺の居た世界の創作物なら肉がとても美味いってことが多いんだけど、食えるかな?」

「どうかしら? ミノタウロスなんて聞いたこともないし、そもそも未発見の魔物みたいだし、後で試してみましょう」


 9階層の安全地帯で食べてみようと言うことになり話は終わり、視線を前に向けてウルトが撥ね飛ばしていく魔物を眺める作業に戻った。


「あ、ミノタウロス発見」

「あれはゴーレムって言ってたわね」

「クリードさん、あの巨人はなんて言うんスか?」

「うーん……ギガンテスとかかな?」

「へぇ……もしかしてクリード様他の魔物の名前も分かりますか?」


 他の魔物ねぇ……


「双頭の狼はオルトロス、三つ首のはケルベロス、他なんか居たっけ?」

「6、7階層に出現したトカゲ人間みたいなのは?」

「あぁ、トカゲはリザードマンとかかな? それで狼男はワーウルフ、虎の奴はワータイガーとかって表現されるのかな?」


 見たまんまだけどね。


「なるほど、クリード様の世界ではそういう分野も発展しているのですね」

「まぁね、それこそスマホなんかで小説とかも読めたりしたし……」


 そこまで言ってハッとした。

 慌てて周りを見るとみんなの視線が俺に……と言うより胸ポケットに入れているスマホに注がれる。


「この世界じゃ読めないよ。電波っていう情報をやり取りする物が無いからね」

「そうなの……残念ね」


 諦めてくれたようで助かった。

 正直ウルトに頼めば俺が読んだことあるやつなら再現してくれそうだけど、それをやると永遠にスマホ返して貰えなくなりそうだからね。


『マスター、間もなく完了します』

「早いな」


 とはいえ9階層に来てから2時間ほどか、それなりに時間は掛かっているように見えるけどウルトじゃなかったらこんな数の魔物2時間じゃ絶対倒せないからな。


「あれはゴーレムですね」

「あれはオルトロスです」


 サーシャとソフィアは見える魔物を指差して俺が教えた魔物の名前を言い合っている。楽しいのか?


「そういえばミノタウロスって少ないね」

「そうね、レアな魔物なのかしら?」


 そういえばどうやって【無限積載】に積まれているものを確認すればいいのかな?

 ウルトに聞けば早いか。


「ウルト、ミノタウロスは何匹積んでる?」

『8匹です。スマートフォンに【無限積載】の内容を確認出来るアプリを入れておきましたのでご確認下さい』


 アプリまで作れるのか……


 ポケットからスマホを取りだしてホーム画面を開くと確かに底にはそこには【無限積載内容物】というアプリが表示されており、タップしてみると非常にわかりやすいようにカテゴリ分けされていた。


「うん」


 そっと閉じてポケットへ。

 あとでゆっくり確認しよう。


『マスターからのご命令完遂致しました』

「え? 終わったの?」

「はい。この階層で私が認識した魔物は全て討伐完了、現在この階層に魔物は存在しません」

「こわ……」


 ほんとに全滅させたのね……


 命令を完遂したウルトはそのままボス部屋に侵攻、中にはギガンテスより更に巨大な1つ目の巨人がそびえ立っていた。

 目測で10メートル以上、手には金属製の大きな棍棒を持っている。

 この場合金棒か?


『マスター、あの金棒はミスリル製のようです。さすがにあの質量で攻撃を受けますと私もダメージを受けかねません』

「マジか……もしかしてこいつがこの迷宮のボスなのかな?」

『それは分かりません』


 だよな。


「それで……勝てそうか?」

『勝ち負けならば勝てると判断します。しかしダメージを受ける可能性も高い。なので戦闘するのならば……』

「降りた方がいいか?」

『いえ、多少揺れると思いますので皆様転倒しないようお気をつけ下さい』


 ……ん?


『それでは戦闘を開始します』


 ウルトがそう言うと、どんどん視点の高さが上へ上へと上がっていく。

 あっという間にフロントガラスからは1つ目大巨人の顔が同じ高さで見えるようになっていた。


 ……え?


 ここまで大きくなること出来ないんじゃ? 確か通常大型トラックサイズ〜ミニカーサイズまで変化可能って……

 いやさっき見た時なんかスキル統合進化がどうこう書いてたな、そのせいか……


 考察している間にもウルトは突進、しかし1つ目大巨人もウルトの体当たりを甘んじて受けることは無い。


 口を大きく開いて雄叫びを上げて……聞こえないけど。

 右手に持つ金棒を振り上げて横薙ぎに振るってきた。


 その攻撃をウルトは左のミラーステーで受ける。

 その威力でミラーステーが破壊……されてないな……


 ウルトはその攻撃の威力を利用して急旋回、カウンターのように半回転してトラックのおしりの部分で1つ目大巨人の右側面を叩いた。


 そのまま1回転、吹き飛ばされていく1つ目大巨人を正面に捉え加速。

 一瞬で大巨人に追い付きそのまま自分と壁で挟み込むように叩き付けた。


 1つ目大巨人は穴という穴から緑色の血液を噴出させるがウルトはまだ止まらない。


 挟み込んでいる状態でさらに前進、1つ目大巨人にめり込んでいくのがフロントガラスから鮮明に見えてしまった。

 グロい。


 しばらく前進を続けたウルトだったが突如後退、もしかして反撃か!?


『生命反応の消失を確認、撃破しました』

「……え? あ、はい」


 ウルトはそのまま後退、1つ目大巨人の落とした金棒も回収した。


「ウルト、傷は?」

『はい、一度攻撃を受けた際左ミラーが少し曲がってしまいました。申し訳ありません』


 何に対して謝ってるの?

 ミラーを覗き込むがいつもと角度に変化は無いように見えるよ?


「他は? それにミラー曲がってなくない?」

『他にはありません。ミラーですが当然戦闘中に直してあります。マスターの愛車である私のミラーがズレている事などあってはなりませんので』

「あ……はい……」


 もう考えるのはよそう。


 9階層のボスを倒したことで奥へと続く扉が解放された。

 さて扉の向こうは終点なのかまだ続くのか……


 俺たちはウルトに乗ったままその扉を通過した。

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