第42話 工房に行こう

 5人揃ったので工房へ向かう。

 歩きながらの話題はどんな装備を作ってもらうかという内容だがそれ昨日迷宮から街に戻る時にも話してたよね?

 ちなみに俺は一般的なロングソードを所望している。


「この辺のはずだけど……あれかしらね」


 リンが指差した先にはハンマーの絵が描かれている看板。その下にはギルドの公認マークも描かれている。


「すみませーん」


 扉を開き中に入るとそこは店舗のようになっていた。


「いらっしゃい。整備かい? 注文かい?」


 カウンターに座っているのは筋骨隆々な中年男性。店員と言うより職人と言われた方が納得出来る出で立ちだ。


「ここならミスリル製の装備を作ってもらえるって聞いてきたの。これ紹介状ね」


 カウンターに近付き紹介状を手渡す。


「紹介状ねぇ……姉さんミスリル製の装備って簡単に言うけど高いぞ? それにオーダーされても材料が無いと話にならねぇ。あとは今立て込んでるから少しばかり時間が掛かるぞ」

「どれくらいかしら? それとミスリルなら持ってきたわよ。クリードお願い」

「はいよっと」


 俺もカウンターに近付いて空いているスペースにミスリルを出現させる。

 全てではなくとりあえず5キロ分だ。


「おぉ!? ミスリルを持ち込みか、さっきのは失言だったみたいだな!」


 すまんと軽く頭を下げて謝罪された。


「謝罪はいいから注文お願いできるかしら? 頼みたいのは剣と槍を1本ずつ、全身鎧と大盾、軽鎧を2着ね」

「ふむふむ、それならこの量じゃ足りねぇな……せめてこれの倍は必要だな」

「倍でいいのか? ならこれで」


 先に出したミスリルを避けて更に5キロ追加で出現させる。


「まだ持ってたのか! それで誰がどれなんだ?」

「俺は剣と軽鎧を頼みたい。名前はクリード」

「私はソフィアです。槍と軽鎧を所望します」

「自分はアンナッス! 全身鎧と大盾お願いするッス!」


「クリードにソフィア、アンナだな……よし、なら採寸と形状の希望を聞くからクリードはこっちに来てくれ。姉ちゃんたちは女の店員呼ぶからそっちでやってくれ……おーい!」


 店員は奥に向かって大声で呼びかける。

 すぐに若い女性の店員が現れてソフィアとアンナを連れて別室に移動した。


「さて、まずは採寸からだな。出来たら鎧下を着た状態で測りたいんだが鎧下は持ってるか?」

「鎧下というか、これの上に鎧を着けたいんだけど大丈夫かな」


 ウルトに作業服を出してもらい羽織って見せる。


「ほぅ、珍しいな、上着の形のマジックアイテムか……分かった、ならそれの上から着れるように測るから動くなよ」


 それからしばらく時間をかけて全身くまなく採寸された。


「よし、次は形状だな、まずは鎧の形はどんなのがいい?」

「動きを阻害しないのが1番かな、あとは急所だけしっかり守れればいいかな」

「適当だな……あんま拘りはない感じかい?」

「無いな、センスもある方だとは思わないし任せるよ」


 そう言うと店員は大きく笑って了承してくれた。


「任せとけ、出された要望に応えつつかっこいいの作ってやるよ」

「頼む」

「おぅ! じゃあ次は剣だな。どんな剣がいい?」

「普通のロングソードでいいかな」

「兄さん普通って言っても長さや重さ、重心なんかあるんだぜ? 口で説明しづらいなら何本か見繕ってくるから握ってみて俺の質問に答えてくれや」

「分かった、任せる」


 店員は奥に引っ込み何本かの剣を持って戻ってきた。


「まず長さだな、どの長さがちょうどいいと思う?」


 店員の持ってきた剣を握ったり軽く構えてみたりして確かめていく。


「これかな? 重さと重心もこれが1番合ってると思う」

「重さと重心もそれでいいのか?」

「これでいい」


 俺が選んだのは見た目普通のロングソード。


 俺にはまだ剣の拘りも無いからな……

 拘りが出来るのはこれからだろうし。


「分かった、じゃあその剣をベースにミスリルで打ってやる」

「よろしく頼むよ。期間と料金はどれくらい?」

「そうだな……この剣と兄さんの軽鎧だけならミスリル持ち込みで金貨1枚と大銀貨5枚ってところかな。期間は5日は欲しいところだ」


 俺のだけじゃなくてソフィアとアンナの装備もあるからな……

 とりあえず料金だけでも支払っておこうかと財布を取り出したところでストップをかけられた。


「クリード、今回の装備依頼は全額共有資金から出すからクリードは出さなくていいわよ」

「いいのか? 結構高いし自分で出すよ?」

「この前の探索でかなり貯まってるからね、今のところ宿代と食事代くらいしか使い道無いんだから甘えておきなさい」


 そう言われると……まぁ……


「分かったよ、じゃあお願いね」


 俺はあっさり引く男、財布を再びウルトに積み込んでもらう。


「あとはソフィアとアンナ待ちね……クリードとサーシャちゃんは先に戻っててもいいわよ?」

「え、でも」

「残っていてもやること無いでしょ? 戻ったらケイトと訓練する約束もしたって聞いてるしあとはお金払っていつ出来るか聞くだけだから」

「まぁなら居ても居なくても同じか……それなら戻って訓練してた方が有意義だね」

「そうそう。あ、サーシャちゃんは戻る前にお金だけ渡してちょうだいね」


 サーシャは収納魔法で財布を取り出してリンに手渡す。


「ありがと。じゃあ後でね」

「はい、また後で」


 リンと別れて宿に戻る途中に軽く昼食を済ませてから戻ることにしてサーシャと適当な店に入って食事を済ませた。


「ありがとうございました」


 2人分の代金とチップを支払い店を出るとサーシャからお礼を言われた。


「ご馳走様でした。でもクリード様、私も報酬受け取ってますし自分の分くらい自分で払いますよ?」

「いいのいいの、別にすると手間だしそれに俺はウルトの分と合わせて2人分貰ってるんだしたまにはこうやって使わないとね」


 仲間の倍貰ってるからね……

 ウルトは必要なもの無いとか言うから使い道が……


「そうですか、ウルト様はなにか必要な物とか無いのですか?」

「それこの前聞いたら『物は要りません。それよりもっとマスターからの命令が欲しいです』とか言われてさ……反応に困ったよ」


 ウルトのモノマネをしながらそう答えるとサーシャはクスクスと笑ってくれた。


「なんか想像できました。ウルト様のモノマネも上手ですね」

「そう? すべらなくてよかったよ」


 宿に戻りながらも会話は続きあっという間に宿に到着した。


「ではケイトさんを呼んできますので少しだけ待っていてくださいね」

「分かったよ、お願いね」


 またも階段付近で待機を命じられたので大人しく待機する。

 女性の部屋にいきなり押しかけるなんてマナー違反ですしね!


 でもまぁケイトが女だって気付かなかった俺も悪いかもしれないけどケイトの一人称が「僕」なのが1番いけないと思います。

 従って俺は悪くない。ヨシ!


「お待たせーって変な顔してどうしたの?」

「なんでもないよ」


 危ない顔に出ていた、ポーカーフェイスしないと。


「そう? なら裏庭行こうか。それより早かったね、パーティ全員で出掛ける用事だから夕方くらいまでかかると思ってたよ」

「あー、工房に新しい装備の発注に行ってたんだ、ソフィアとアンナは時間かかるかもだけど俺はあっさり決めたからね」

「そうだったんだ、いいね。僕もそろそろ装備新調したいんだけどね……」


 また歯切れ悪くなったな、どうしたんだろう?

 資金難で装備買うお金無いとか?


 でも5階層まで達してるなら資金難ってこともあんまり無さそうだけどな……

 ケイトは【アイテムボックス】のスキル持ちっぽいから特にそう思うんだけど。ハイオークとか高く売れるし。


 まぁそれは俺が心配することじゃないな!


「よし、じゃあやろうか」

「よろしく。朝みたいにやるのか?」

「今回はちゃんと教えるよ。元々そういう約束だしね」


 ケイトは朝と同じように木剣を取りだして俺に手渡す。


「まずは素振りからだね、しっかり教えるから頑張ってね!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る