第41話 ケイトとの約束
朝、コンコンと部屋の扉を叩かれて目が覚めた。
時間は8時過ぎ、どうやら寝過ごしたらしい。
「クリード様、おはようございます」
「おはようサーシャ、ごめん、すぐ開けるから!」
ベッドから飛び起き扉に向かう。
ちゃんとシャツもズボンも履いて寝たのでそのまま開けても問題無い。
「ごめん、寝坊した」
「おはようございます。大丈夫ですよ。起きてすぐですけど朝食は食べられますか?」
「うん、食べる」
基本的に朝には弱くない、今日はたまたま魔法の練習に熱中しすぎて気が付けば午前3時前だったこともあり寝過ごしただけなのだ。
アラームもかけ忘れてたしね。
食堂へ向かう途中御手洗に寄ってスッキリ、覚えたての浄化魔法を使って手と顔を含め全身を綺麗な状態に浄化した。
お待たせ、と一言だけ詫びて一緒に食堂に入る。
「おはようクリード。遅かったわね」
「おはようリン、寝るのが遅くなっちゃって起きれなかったんだ」
ごめんと謝罪しながら席に着く。
手が空いていたのかすぐに配膳して貰えたので早速食べることにする。
「クリード起き抜けでしょ? よく普通に食べられるわね……」
まだスープしか飲んでいないリンからそんなことを言われた。
そういえばリンって毎日朝イチはダルそうだよな。
「体質なのかな? 寝起きすぐに唐揚げとか脂っこい物でも食べられるよ」
「すごいわね……あたしには無理だわ……」
納得したってことは唐揚げあるの? この世界でまだ見たこと無いけどあるなら食べたいなぁ。
結局リンはスープと軽くサラダを食べただけで朝食を終えてしまった。
「クリードまだ食べられる? 食べられるならこれ貰って頂戴」
「いいの? ありがとう」
リンが手を付けなかった残りを貰って食べる。
ちょっと物足りないなと思っていたのでちょうど良かった。
「ふぅ、ご馳走様」
「クリード様は朝からよく食べますね」
ニコニコしながらサーシャがそう言ってきたが見ていて面白かったのだろうか?
「前の世界では肉体労働だったからね、食べれる時に食べとかないと体持たなかったから」
「私たちもそうですね。朝食は一日の糧、たくさん食べないと強くなれません」
「自分昔はあまり食べられなかったんで騎士団に入ってからは食事が1番辛かったッス……」
ソフィアは俺の言葉に同意、アンナは過去の経験を思い出して嫌そうな顔をしていた。
わかるよ。俺も高校時代の部活で限界超えて食わされてたからその気持ち。
「それより……工房に行くにはまだ少し早いわね、一旦解散して10時にロビーに集合でいいかしら」
時計に目をやると現在の時刻は8時45分、まだ1時間ちょいあるな……
「なら俺は受付でケイトの部屋聞いてみようかな? 居るようなら挨拶しておきたいし」
「あ、それなら私も着いて行きたいです!」
なんだろ? ケイトになにか用事あるのかな? あ、あの怪我してた人……ハンスだったっけ? の容態が気になるのか。
「私は裏庭で訓練してきます」
「自分も付き合うッス! サーシャ様にはクリードさんが着いてますし自分らが離れても大丈夫ッスよね?」
「大丈夫ですよ。用事が済んだら私も見学に行きますね」
ソフィアとアンナは訓練か、ケイトが居なかったり忙しそうなら俺もそっちに参加しようかな。
「あたしは部屋に居るから。何かあったら声かけてね」
リンは立ち上がり食堂を出て行く。
行動は早いな……やっぱりダルそうだし低血圧なのかな。
「リンって朝弱いのか?」
「はい、朝は毎日辛そうですね。朝は苦手らしいです」
サーシャはそう言って苦笑する。
まぁ朝弱い人は弱いからな。
「それより早くケイトさんに挨拶に伺いましょう」
「そうだね、行こうか」
立ち上がり受付に向かう。
ソフィアとアンナは一旦部屋に武器を取りに行ってから裏庭に行くそうだ。
「すみません」
「はい、なにか御用でしょうか?」
「ケイトというゴールドランクの冒険者が宿泊してると思うんですけど、ちょっと挨拶しておきたいんで部屋教えてもらえますか?」
あれ? この場合って呼び出してもらった方が良かったのかな?
「お調べしますので少々お待ち下さい」
受付の女性は宿帳らしき紙をペラペラ捲っていく。
「お待たせしました、3階308号室に宿泊されています」
「ありがとう」
受付に声をかける前にサーシャから教わった通りチップとして銅貨1枚を手渡す。
「ありがとうございます」
女性は軽く頭を下げてチップを受け取ってくれた。これで間違いなかったようだ。
階段を3階まで上がり部屋の前に到着したところでサーシャが変なことを言い出した。
「クリード様、少し離れて頂いてよろしいですか?」
「ん? なんで?」
「理由は後でお話しますので……」
なんだか歯切れが悪いがまぁ後で理由聞けるのならいいか……
俺は言われた通り少し離れる。しかしサーシャはもっと離れろと言わんばかりの顔でこちらを見ているので階段付近まで下がることにした。
それで満足したのか扉をノック、すぐに扉が開き一言二言会話を交わすと再び扉が閉じられた。
数分程待っていると再び扉が開いて中から人が出てきた、ケイトかな?
サーシャと中から出てきた人がこちらに向けて歩いてくる。
ケイトかと思ったがどうやら出てきたのは女性のようだ。
あのパーティに居た女性は確か盗賊のミナだけだったよな? なんでミナが?
そんなことを考えているうちに2人はどんどん近付いてくる。
あれ? ミナじゃないな……ミナは確かもっと背が低かったような……ってあれケイトじゃね?
え? ケイトって女の子だったの? 完全に男だと思って接してたんだけど……マジ?
「ごめんクリードくん、待たせたね」
「いや、言うほど待ってないよ」
ヤバいね、心臓バクバク鳴ってるね。
流石に男だと思ってたんすよなんて言えないから女だって知ってましたよって対応をしないといけない。
「そっか、ならよかったよ」
ケイトは笑うが違和感……目の下にクマがあるな。
「それよりなんか疲れてない? クマすごいけど大丈夫?」
一瞬目を見開き驚いたような表情をして俯くケイト。
どしたよ、なんかあったのか?
「ちょっとゴタついててね……気分転換に少し体動かしたいんだけどちょっとでいいから付き合ってくれないかな?」
「それはいいけど……」
「なら裏庭に行こう!」
わざとらしく元気な声を出して俺とサーシャを引っ張るケイト。
サーシャと目を見合せるが彼女も分からない様子なので黙って引っ張られておく。
裏庭ではソフィアとアンナが軽い模擬戦のようなものを行っているようだがまずはケイトだ。
「ごめん、今日は剣術を教えるって感じじゃなくて軽く打ち合いってことでいいかな?」
ケイトは2本の木剣を手に出現させて1本をこちらに投げ渡してきた。
「それはいいけど……」
「話は後でね」
どしたん? 話聞こか? と続けようとしたが遮られてしまった。
ストレス溜まってるのかね?
「分かったよ。じゃあ……」
軽く何度か振って構える。
「好きに打ち込んで来ていいからね」
ケイトも中段に構えたのでならば行かせてもらおうかな。
足に力を入れて飛び込み斜めに一閃。
力より速さを意識した一撃だ。
「フッ!」
ケイトはしっかりと木剣でガード、俺の木剣を弾いてカウンターを放ってきた。
この動きはこの前見てる!
半歩引いてカウンターを回避、カウンターに対してカウンターを放つような感じで木剣を振り下ろすがこれも上手く捌かれる。
うーむ、どうしたら突破出来るかな?
距離を開けて思考するがそもそもの技術が違いすぎるのでまず不可能。
ならば身体能力に任せたゴリ押し?
剣術を習うのにそれは……と思ったが今回は教えるとかじゃないってケイト自身が言ってたな。
ならば見様見真似のなんちゃって剣術ではなく今まで魔物と戦ってきた戦い方で挑んでみよう。
そう決めて再びダッシュ。
綺麗な一撃を放つのでは無くそのまま駆け抜けるように一閃する。
ケイトは急な動きの変化に少し面食らったようだがしっかりと剣筋を見て対応してくる。
俺は足をとめずに攻撃を続ける。
上段からの振り下ろし、受け流される。
流される勢いに逆に乗っかって横にステップして木剣を横に一閃、1歩引いて回避される。
踏み込んでの切り上げ、受けられた、と思ったら力の方向を返られバンザイの姿勢にさせられてしまう。
あ、詰んだわ……
膝も半端に伸びていて回避は不可。
防御しようにも両手はバンザイ、これは無理……!
俺の木剣を上に流してそのままの流れで綺麗にカウンターが迫ってくる。
俺はそのカウンターを……しっかり見ながら脇腹を打たれた。
「ご、ごめん! つい……」
「いやいいよ、痛くないし」
俺に一撃決めてから焦ったように謝ってくるケイトに問題ないと伝える。
作業服は着てないけど耐久力Aは伊達じゃない。
多分その木剣が折れるくらい叩きつけられてようやく痛みを感じるくらいだと思う。
「え? 痛くないの?」
「おう、全く。耐久力には自信があるんだ」
痛くないアピールに両腕をあげて見せるがこれアピールになってない気がするわ。
「クリードくんって魔法剣士だよね? タンク職じゃないよね?」
「ソウダネ」
一瞬何のこと? って思ったけどそういえば魔法剣士ってことにしてたんだった。
「うちのタンクのクレイでも無防備に木剣受けたら痛がるのに……タンクより硬いアタッカーって……」
なんか納得いかないって顔でブツブツ言ってるけど仕方ないよね。
でもまぁ思い詰めた感じは薄れてるし少しはスッキリしたのかな?
「クリード様、そろそろ時間です」
「え? もう?」
サーシャに目を向けると頷いている。
ソフィアとアンナの姿は無い……
「ソフィアとアンナは?」
「リンさんを呼びに行ってもらっていますよ」
そういうことか……
「ごめんケイト、ちょっとこれから予定あるから戻ったらまたやろう!」
「いやこっちこそいきなりごめん。そうだね、戻ったらまた部屋に呼びに来てくれるかい?」
「分かった!」
木剣を返すとケイトは汗を拭いながら宿に戻って行った。
しまったな、覚えたての浄化魔法掛けてあげれば良かったかもしれない……
とりあえず自分に浄化魔法を使っているとサーシャが驚いたように声を上げた。
「クリード様!? まさかもう浄化魔法を使えるようになったのですか!?」
「うん、昨日の夜サーシャが戻ってからも練習してたら使えるようになったんだ。おかげで寝るのが遅くなっちゃって寝坊したんだけど……」
アレは失敗だった。
これからはあまり夢中になり過ぎないようにしなければ。
「すごいです! 流石クリード様です!」
サーシャに褒められて気分良くしているとリンたちが姿を現した。
さぁ工房に行きますか!
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