第21話 対決ゴブリンキング

「リンの魔法が炸裂したら俺が出るから。極力キングの攻撃は俺が受け持つから攻撃は任せるよ」

「了解です。私があの剣での攻撃を受けてしまうと槍ごとたたきなかられそうですね……」


 弱気な発言だなと思いソフィアの顔を横目で見てみると、言葉とは裏腹に笑みを浮かべていた。


 え? ソフィアって強敵と戦うことに喜びを感じるタイプなの?

 普段無表情なのにこんな時に笑うとかバトルジャンキーなの?


「撃つわよ!」


 若干困惑しているとリンから声がかかった。

 着弾したら突撃……自分のやるべき事を考えながら様子を見ていると、背後から数発の大きな火球がゴブリンキングに向けて打ち出された。


 着弾の瞬間を待ちながら腰を落としていつでも飛び出せる姿勢。

 今! と思い飛び出そうとした瞬間、ゴブリンキングは手に持つ剣を器用に振るい火球を打ち払ってしまった。


 ありゃ?


 作戦ではこの魔法でダメージを与えつつ視界を奪ってーって感じだったけど効果無しかよ……


 一瞬戸惑いで固まってしまったが効果がないなら仕方ない、改めて飛び出すために大きく息を吸い込んで――


『マスター、私も出ます』

「あふぁ!?」


 驚きに驚きが重なって肺に溜めた空気が抜けて変な声が出てしまった。


 ソフィアは怪訝そうな顔でこちらを見ている。

 左耳につけたイヤホン越しの声だったので聞こえなかったのだろう。


『作戦では魔法での攻撃、目眩しでしたが失敗の様子。ならば私が突撃してダメージだけでも与えてきます』


 なるほど、ちょうどウルトは少し離れた位置に停まっているのでゴブリンキングの視界からは外れている。

 ゴブリンキングの意識も完全にこっちに向いているので奇襲の成功率も高そうだ。


「ソフィア、魔法での攻撃と目眩しに失敗したからウルトが突撃するって」

「なるほど、それは効果的かもしれませんね、クリード殿に合わせますのでお願いします」


 ソフィアも了承していつでも飛び出せるように腰を落としたのでウルトに指示を出す。


「よし、頼む。ウルトの突撃に合わせて俺とソフィアも出る」

『かしこまりました。行きます!【ヒットエンドラン】』


 そう言ってウルトは動き出したけどちょっと待て!

【ヒットエンドラン】ってなんだよ? 技名か!?


【ヒットエンドラン】て野球か? いや違うよな。

 ヒット=当てる……ヒットエンド=当てて……ラン=走る……


 当て逃げ!?

 おい待てその技名はやめろ!!

 トラックとしてそれはダメだろ!? 俺も運転手として認められないぞ!?


 俺の絶望など露知らず……まぁあまりにアレ過ぎて声が出なかったから伝わらなくて当然なんだけど……

 ウルトは加速しながらゴブリンキングに襲いかかった。


「よし、体制が崩れたら行こう!」

「はい!」


 今度こそと集中して見ていると、急にウルトの姿がブレた。


 ズドォォォオオン!!


 えげつない衝突音が響き渡った。

 俺の視界からはゴブリンキングが消えゴブリンキングがいた場所にはウルトが鎮座していた。


「……は?」

「……え?」


 再び飛び出すタイミングを失う俺たち。

 揃って視線を右にやると数十メートルも吹き飛び地面を転がっているゴブリンキングの姿があった。


「……え?」

「……は?」


 唖然とゴブリンキングを眺めていると震えながら立ち上がろうとしている。

 トドメは俺たちかな? と駆け出した瞬間にウルトの第2撃。

 今度は撥ね飛ばすのではなくゆっくりと踏みつけて乗り越えて言った。


 ウルトのタイヤがゴブリンキングに乗っかった瞬間ゴブリンキングの大絶叫が聞こえてきた。


「えぇ……」


 後輪まできっちり踏みつけながら通り過ぎたウルトは、バックでまさかのおかわり……


 前輪が綺麗にゴブリンキングの首を捉えており、ウルトが通り過ぎた時にはゴブリンキングの首はあらぬ方向に向いていた。


『生命反応の消失を確認しました』

「いや……ちょ……えぇ!?」

「まさかの出番無しですか……」


 呆然とするしかない俺たち、後ろに下がっていたサーシャたちもそこに合流してきた。


「まさか……ウルト様おひとりで倒してしまわれるなんて……」

「魔法が全く効果無かったのも予想外だったけど、これはまた……」

「言葉も無いッス」


 三者三様の感想を述べるがほぼ全てに同意である。

 いや安全に討伐出来たのはいいことなんだけど……ねぇ?


 何か違う感が半端ない。


『森の中から死体を回収してきます。ゴブリンキングの討伐証明も右耳でよろしいのでしょうか?』


 そんな中当然のようにいつも通りのウルトの声。

 今しがたゴブリンキング討伐という大仕事をこなした直後なのに……頭が下がる思いだ。


「出来れば首と魔石、あとはあの剣を持ち帰りたいのだけど……」

『魔石は他のゴブリンと同じ場所でしょうか?』

「えぇ、魔物の魔石は全て心臓付近にあるわ」


 ウルトはリンから回収部位、魔石の場所を確認すると悠然と移動を開始した。


 ウルトが森の中に消えて作業を終了させて戻ってくるまで俺たちは一言も発することは出来なかった。

 ウルトの強さ予想外すぎる……


 考察すると、初めの体当たりは【瞬間加速】で加速して当たる直前に【重量操作】で自身の重さを最大値に変更。

 それにより速さと重さで信じられない衝撃力が発生したものと思われる。


 更に踏みつけにも【重量操作】を使っていたのだろう。

 あのゴブリンキングの絶叫も頷けるというものだ。


 これ……ほんと俺の存在意義はあるの?

 勇者パーティが居なくてもウルト単体で魔王倒せる気すらしてるんだけど?


『ただいま戻りました。ゴブリンキングの首と魔石を回収した後ゴブリン、ホブゴブリンの死体を降ろします』

「あぁ、ありがとう……」


 ウルトがゴブリンキングから首と魔石、剣を回収しそこに死体を降ろす。


 ウルトがその場から離れると入れ違いにリンが進み出て山になった死体を魔法で燃やし尽くした。


「よし、これであとは帰るだけなんだけど、その前にウルト、ゴブリンキングの持っていた剣を出してもらっていい?」


『かしこまりました』


 ウルトはリンの前に大剣を出現させる。


「改めて近くで見ると大きいわね……」


 全長は俺の身長より少し短いかな?170センチ位はありそうだな。

 幅も結構あるしこれぞ大剣! って感じだな。


「それでその剣がどうしたの?」

「鑑定魔法を使うのよ。魔物が持っている装備品って魔法効果のあるそうびが多いの。これもいい効果が付いていれば高く引き取って貰えるし下手に呪いなんかかかってたら嫌だし確認よ」


 なるほど、魔剣的なやつかな?

 しかしスキルじゃなくて魔法なんだな鑑定って。


 リンが大剣に手のひらを向けると大剣は淡く光出した。

 ほぅ、これが鑑定魔法か……


「うん、効果は【状態保存】ね。呪いの類はかかってないわ」

「【状態保存】? それって劣化しないってこと?」


 だとしたらめちゃくちゃ有用じゃない?


「それで間違ってないわ。けど見てこの剣の刃の部分、全然鋭くないのよ」


 リンがそう言うので見てみるが確かにあんま切れそうじゃ無いね。

 試しに指を押し付けてみたけど切れる素振りは無い。


「掛かってる魔法は有用だけど、剣としては微妙ね」

「うーん……これって重さで叩き斬る系の剣だろ? ならこんなもんじゃないの?」

「そうかもしれないわね、けど……」

「クリード様この剣持てますか?」


 横で見ていたサーシャが興味津々に聞いてきたけどこれめちゃくちゃ重そうだぞ?


「持ってみようか」


 まぁ期待されたなら試すくらいは……と思い柄に手をかけるが相当重い。


「ぬぉぉ……」


 両手でしっかり握って気合いを入れて持ち上げ構える。

 あかん、腕ぷるぷるしてる……


「あらクリードすごいじゃない、そのまま振ってみなさいよ」


 リンは笑いながら言ってくるがこっちとしては笑い事じゃない。

 一旦剣を肩に担ぐように構え直して一息吐く。

 え? マジでこれ振るの?


 みんなから期待の目で見られると断わるに断りきれず一度試しに振ってみる事にする。まぁあ使えたらかっこいいし……


「フッ!」


 短く息を吐きながら気合一閃。

 地面スレスレで止めるイメージで振り下ろしたが、案の定止められずざっくりと剣先が地面にめり込んだ。


「ふぅ……これは無理だよ。重すぎ」

「クリードならもしかしたらって思ったんだけど……」

「振れるだけでもすごいですよ!」


 私じゃ持ち上げることも出来ません! と力説するサーシャだが、誰1人サーシャがこの大剣を持てるとは欠片も思っていない。


「まぁ用事は済んだし、王都に戻りましょうか」


 そうして俺たちは王都に帰還した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る