第118話
大晦日、お正月はのほほんと過ごし。
一月も半ばを過ぎた頃。
理久とるかは、小山内家のリビングでテレビゲームに興じていた。
るかは学校帰りにそのまま寄ったので、制服姿だ。
相変わらずブラウスのボタンは外されていて、そこにリボンがゆる~くつけられている。
白いカーディガン(大きめ)を着ているものの、真冬とは思えないほどにスカートは短い。当然のように生足だ。
これでカーディガンのポケットに手を突っ込み、「さみぃ~」と震えているのだから、ギャルは強い。
「なんかさぁ、最近張り合いないよねぇ」
るかは理久の隣でコントローラーを操作しながら、そんなことを呟く。
ソファでふたり横並びになっているが、彼女はこちらにもたれかかるようにして座っていた。
寄り添うようにくっつき、顔はぺったりこちらの肩に密着している。
重いと言えば重いが、彼女がこんな体勢になるのはいつものことだ。
「そうだねぇ。みんな忙しくなったもんなー……」
理久も同じようにコントローラーをいじりながら、ぼんやりとテレビを観る。
大昔に遊んでいたテレビゲームを、なんとなく暇潰しでプレイしていた。
画面には、ふたりが操作するキャラクターが、本人たちの代わりに元気よく動き回っている。
ぽりぽりと頭を掻きながら、るかは口を開いた。
「まぁ受験生だもんねー……。わたしあんま受験勉強ってしたことないから、ピンとこないけど……。会えないのつまんないな~……」
るかの声は力が抜けていて、何とも退屈そうだ。
そういえば、去年もるかはのほほんとしていたし、のほほんとしながら難なく豊崎高校を合格していた。
万年学年トップは伊達ではない。
ただ、普通の受験生はそれなりに必死に勉強しているわけで。
彩花や佳奈も例に漏れず、ここ最近は張り詰めて勉強していた。
彩花は成績優秀なのでそれほど根を詰める必要はないかもしれないが、佳奈や周りの空気に感化されているらしい。
まぁ受験勉強なんていくらやっても不安は残るだろうし、やるに越したことはない。
だから今日、ここに彩花の姿はなかった。
学校で勉強してから帰るとあらかじめ伝えられている。
こういうことは最近多かった。
るかはこちらの顔を覗き込みながら、尋ねてくる。
「今は、理久がほとんど家事をやってるんだっけ?」
「そうだね。彩花さんには、勉強に集中してほしいし。あ、でも洗濯だけはやってもらってるけど」
「いくらなんでも、理久に下着を洗ってもらうのは彩花ちゃんも嫌だろうしねぇ」
るかはからからと笑う。
まぁそこは任されても困ってしまうので、「洗濯だけはやらせてください……」と言われて助かった。
小山内家は、基本的に理久と彩花が分担して家事を行っている。
しかし先日、勉強に集中する彩花を見兼ねて、理久はこんな提案した。
『彩花さん、しばらく俺に家事を任せてくれませんか』
『えっ。いえ、大丈夫ですよ。そこまで気にされなくても……』
『いえ、今が大事な時期なので。彩花さんには受験勉強に集中してほしいです。父さんたちにはもう言ってあるし、そこは遠慮しないでください。もし、俺が何かあったら、彩花さんにお任せすることもあるだろうし』
そう告げると、それでも彩花はしばらく悩んでいた。
けれど、最終的には『ありがとうございます。頼りにさせてもらいますね』とふわりと笑ってくれた。
きっと出会ったばかりの関係だったら、彼女は頷いてくれなかったと思う。
そこは素直に嬉しかった。
それが先日のこと。
今、彩花はしっかりと受験勉強に励んでいる。
「くそぉ~。理久たちは楽しそうだなあ。わたしも佳奈ちゃんに会いたいよ」
不満を言いながらコントローラーを動かしていたるかが、倒れ込むように理久の膝の上に頭を乗せてきた。
寝転んだままゲームを続行するるかは、どこか寂しそうだ。
会う口実を作るのが難しい現状では、そう簡単にるかは好きな人に会うことができない。
るかには悩ましい状況なんだろう。
「まぁまぁ。受験が終わったら、またみんなでどこか遊びに行けばいいよ。今は一番大変な時期だし、そっとしておかないとさ。きっと佳奈ちゃんも、誘ったら来てくれるだろうし」
理久がそう励ましていると、ちょうど理久が操作するキャラがやられてしまった。続いて、るかのキャラもだ。
ゲームオーバー画面になってしまう。
すると、るかが理久の膝の上に頭を乗せたまま、こちらに顔を向けた。
「……理久。なんか……。ん……。何か、あったの?」
るかの双眸がこちらをまっすぐに見ている。
相変わらず、彼女は鋭い。
いっそ自分の考えを話してしまおうかと思ったが、まだ頭の中は整理されていない。
しばらく考えてから、そっと答えた。
「ん-……。そうだね、ちょっと考えてることはある。考えがまとまったら、るかちゃんにも話すよ。助けてもらうかもしれないし」
「ん。りょーかい。わたしにできることなら、何でもするよ」
そう言いながら、るかは人の膝の上でくつろぎ始めてしまった。
深く聞いてこないのはありがたい。
なんとなくゲームに飽きた空気になったので、理久はるかの髪を指ですいた。
彼女のよく手入れされた髪は、気持ちよく指を撫でていく。
るかがくすぐったそうに笑った。
そうしているうちに、あることを思い出す。
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