めぐりめぐる
あらぱすりんこ
1
全ての物は巡り、途切れることなく続いていくという。
例えば、命は動きを止めた後も魂として再び巡る。例えば、小さな川に流れた手紙はいずれ海に流れて帰ってゆく。
こうした万物の巡りの中に、ナギもまた生きていた。
神の創り出した海を囲む六つの大陸の一つ、テルネリカにナギは生まれた。今は隣国のタルツィラヌで役人を務めている。
普段は故郷に帰ってくることは稀だが、年に一度、必ず帰ってくる日がある。それは晩夏の満月の日__母の命日である。
この世界には、それぞれ時、光、風、歌、海、夢と名付けられた民が大陸ごとに暮らしている。各民族は神から一つずつ“力“と呼ばれる特別な能力を持っている代わりに、代償として身体のどこかに違いが見られる。例えば、“光の民“と呼ばれるナギたちテルネリカの人々は、その物体のそれまでの移動の軌跡が見える代わりに、耳が聞こえない。
昔から人々は、互いの国と“力“を共有して発展してきた。ナギの勤めている役所でも、触れた物の感情が読み取れるパルンドゥの者とテルネリカの者が協力して事件を解決している場面を度々見かける。互いが補い合うことで、どうにか人間はここまで残ってきたのだ。
しかし、他国で“力“を使う際には一つ制約がある。
年に一度、自らの故郷に戻らなければ、大陸の外で“力“を使うことができないのだ。これは例外なく全ての人に適用されるもので、もしも一年以上戻らなくても故郷に戻ってきさえすれば再び“力“を使うことができるようにはなるのだが、ナギの場合は仕事柄“力“が必要になることが多いので、毎年故郷に戻らざるを得なかった。
どうしてこんなに面倒なことを神は定めたのだろう、と幼い頃にナギは問うたことがある。それはね、世界は巡っているということを思い出す為なのよ、と母は言った。「巡る」という言葉は母の口癖だった。
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