第60話 地面が大好きなエレンさん

 セマルグルさんがエレンさんを咥えて空高く飛び立ち……数分経ってから戻って来た。

 草むらの上に倒れ込んだエレンさんが、「地面……地面だ。地面大好き」と言って顔を埋めているんだけど、大丈夫だろうか。


「セマルグルさん。何があったの?」

「いや……少し、物言いを正せと諭したのだが、喋ったのがマズかったのだろうな。あの女を落としてしまってな」

「えぇっ!?」

「いや、ちゃんと空中でキャッチしたぞ? だから、問題ない。うむ……問題ないのだ」


 えーっと、とりあえずフォローはしておいた方が良いわよね?


「エレンさん。大丈夫?」


 私が声を掛けると、エレンさんがビクッと身体を震わせ、凄い勢いで起き上がり、両膝を揃えて座り……こ、これは正座!?


「せ、聖女セシリア様! こ、これまでの私の言動を、どうか……どうかお許しをっ!」

「あ、あの……私は別に怒ってないからね?」

「ひぃっ! 空は……空は勘弁してくださいぃぃぃっ!」


 ど、どうしよう。正座のまま頭を地面に押し付けて……えっと、これはいわゆる土下座!?

 そんな事しなくて良いからね?


「あ、そうだ。ちょっと待ってね」


 エレンさんを落ち着かせるため、お湯を沸かして、ショウガとリンゴをすりおろした物を入れたら、砂糖を少し。

 それをコップに注いで、エレンさんへ。


「はい、どうぞ。身体が温まるし、リラックス出来るわよ」

「……? ……あ、温かいです」

「ゆっくり飲んで……えーっと、エレンさん。落ち着いた?」


 エレンさんが私とセマルグルさんを交互に見ながら、激しく頷くけど……本当に大丈夫かな?


「ところで、何か私に依頼があったのでは? ソースがどうとか」

「あ、はい。えーっとですね。実は……」


 落ち着いたエレンさんが、豆を使った調味料や食材を作っていて、マヨネーズみたいに流行らせたいという話をしてくれた。

 しかも調味料は、醤油だけでなく、お味噌まで作っているのだとか。


「ソイソースとミソは、エレンさんたちが作っているんですねっ! 凄いっ! 作ってくれてありがとうっ!」

「え? ソイソースはまだしも、ミソも知っているのか? いえ、知っているのですか?」

「えぇ。もしかして、豆腐や豆乳もあるのかしら? あ、私が言っている豆腐っていうのは……」


 エレンさんに豆腐や豆乳について説明すると、そのままトーフという名前で存在する事や、ソイミルクという豆乳があるという事を教えてくれる。


「……よく、トーフの事をご存じですね。かなり知名度が低いのに」

「そうなの? お味噌汁……ミソスープに、トーフを入れた料理なんて、毎日でも食べられるわよ?」

「あー、わかります。優しい味で、美味しいですよね」

「えぇ。ワカメや油揚げを入れても良いわよね。そういえば、ミソは赤ミソ? それとも白ミソ?」

「え? ミソは茶色ですけど」

「そうなんだけど……実物を見た方が早いわね! エレンさんが作っているというミソは、何処に行けば手に入りますか?」

「あ、それならここに。使ってもらおうと持ってきています」


 そう言って、エレンさんが大きな葉っぱに包まれたミソを取り出し……これは合わせ味噌っぽいかな?

 早速お味噌汁を作る事に。

 具は大根とネギだけのシンプルな物にして……あぁぁぁ、久しぶりのお味噌汁っ! 懐かしいっ!


「……材料が違うのですかね。我々が作るミソスープより、遥かに旨い」

「まぁセシリアが作ったからな。大抵の物は、セシリアが作るととんでもなく旨くなるのだ」

「そうだよねー。セシリアのご飯は、本当に美味しいもんねー」


 エレンさんだけでなく、セマルグルさんやヴォーロスもお味噌汁で、ホッとしたところで、


「エレンさん。おミソ……何か考えてみますね」

「おぉっ! ありがとうございますっ! 是非、お願いしますっ! ……とりあえず、ちょっと横になって良いですか? 色々あり過ぎて、疲労が……」


 エレンさんがぐったりしてしまったので、再び家で休んでもらう事になった。

 よく考えたら、遠いところから歩いて来たのだったわね。

 暫く、ゆっくり休んでもらう事にした。

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