第52話 まだまだ子離れできないバステトさん

「おやすみー!」

「おやすみ、セシリア」


 いつものように、ヴォーロスのモフモフに包まれて就寝した。……したんだけど、私の傍に居る猫の姿のバステトさんは良いのだけど、マヘス君がずっとウロウロしている。

 あー、そういえばバステトさんもマヘス君も夜行性か。

 バステトさんは、私たちに気を遣って静かにしてくれているのだろうけど、マヘス君は遊びたい盛りだし、難しいよね。

 だけど、マヘス君も私が寝る時間だと分かって居るのか、男の子の姿ではなく猫の姿なので、足音は気にならない。

 ただ、近くを歩いている気配はするけど。

 遊んであげたいけど、流石にもう夜も更けて来たしね。


「……マヘス君、おいでー」

「にゃー」


 身体を起こして呼び掛けると、マヘス君が嬉しそうに駆け寄って来たので、そのまま抱きかかえ……ヴォーロスの上にごろーん。

 抱っこして一緒に寝るという作戦を決行してみたんだけど……意外に大人しいわね。

 暴れられるかな? とも思ったんだけど、そんな事もなかったので、そのまま眠りに就いた。


 翌朝。

 私とヴォーロスが起きた時には、マヘス君も眠っていて、でも何やら視線を感じ……女性の姿になっているバステトさんだった。


「おはようございます」

「むぅ……おはよう」

「はぅ……おはよう、セシリア」


 さて、マヘス君がまだ眠っているし、どうしようかなと思っていると、唐突にバステトさんが崩れ落ちる。


「マヘスが……マヘスが母よりセシリアを選んだのじゃ。親離れはまだ当分先だと思っておったのに、急すぎて気持ちの整理が追いつかないのじゃ」

「あの、バステトさん。気が早過ぎますよ。マヘス君はどう見ても子供ですから」

「子供の成長は早いのじゃ。すぐに巣立ってしまうのじゃ」


 流石にこの年齢は無理だと思うんだけど。

 異世界っていうのと、猫っていう事を差し引いても、それでも早い気がする。

 あー、でも日本と違って、セシリアが元居た国も十五歳で成人なのよね。

 猫も成長スピードが人間と異なるか。

 ひとまず、猫の姿のマヘス君を抱きかかえ、静かにバステトさんに手渡す。

 マヘス君も、眠ったままでバステトさんに顔をくっつけているし、やっぱりお母さんの方が良いと思うんだよね。


「という訳で、私は朝食の準備をしますね。バステトさんは夜行性だと聞いていますが、朝食は食べられますか?」

「いただいて良いのか? であれば、是非お願いしたいのじゃ。セシリアの作る料理は旨いし、何より勉強になるのじゃ」

「あ、じゃあマヘス君を抱っこしたまま来てください。作る所をお見せしますね」


 バステトさんについて来てもらい、先ずはメインとなる食材――ポテトを収穫して水洗い。

 ササッと皮をむいたら、千切りにして少し塩を混ぜ、オリーブオイルをひいたフライパンへ。

 後はヴォーロスにお願いして、簡易コンロで加熱し、途中でひっくり返すだけ。

 時々焼き加減を確認し、焼き色が付いたらお皿へ移して、出来上がりっ!


「という訳で、ポテトのガレットの出来上がりー!」

「な、何と。一つの食材だけで出来てしまうのか。しかも旨そうな匂いなのじゃ」

「にゃ……にゃーっ!?」


 ガレットの匂いでマヘス君が起き……抱っこされていたからか、ビックリした様子でバステトさんの腕から飛び降りて、男の子の姿へ。


「おかあさん。だっこしないでよー!」

「えぇっ!? な、何故なのじゃっ!? な、泣くぞっ!?」

「だって、ボクもう、あかちゃんじゃないもん」


 あー、マヘス君は子ども扱いというか、赤ちゃんみたいに扱われるのが嫌だったのかな?

 要は、バステトさんがマヘス君に構い過ぎだったって事?

 まぁでも、割と最近卒乳したんだよね? ……だから、バステトさんの気持ちも分かるけどね。


「わー、美味しそー!」

「む、セシリアよ。我の分はあるのか?」

「もちろん。というか、もっと作るから大丈夫よ。次はチーズ入りにするわねー。あと、卵を乗せても美味しいのよー」


 ヴォーロスに続いてセマルグルさんもやって来たので、みんなで朝食を済ませ、眠そうなマヘス君やバステトさんも一緒に、電車で鬼人族の村へ。

 バステトさんたちは今度こそ祠に帰ったので、私はデュークさんにビネガー――お酢の事を聞きに行く事にした。

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