第44話 美味しいクレープ

 ヴォーロスと一緒に、守り神さんの居る祠へ戻ってきた。

 夜行性という話だからか、まだ鬼人族さんたちのお供物はそのまま残っている。

 朝に作っておいた石の家に入り、そのまま様子を見ることにしたんだけど……暇ね。

 動かないから寒いし……と思ったので、寝転ぶヴォーロスの上にダイブ。うん、暖かい。

 暫くウトウトして……気付いた時には周囲が薄暗くなっていた。


「おはよう、セシリア」

「あはは、ごめんね。ちょっと暖まらせてもらおうと思ったら、たっぷり寝ちゃった」

「大丈夫だよ。僕も半分寝ていただけだからね」


 もふもふヴォーロスの背中から降りると、周囲を伺おうとして……クゥっとお腹が鳴ってしまった。

 私、寝てただけなのに! 何もしてないのに……まぁでもお腹は空くよね。


「……さ、先にご飯にしましょうか」

「うん。クレープだっけ? 楽しみー!」


 持って来ていた大きな包みを解くと、中からお皿に乗ったいろんなクレープが。

 下の方にあるのは少し崩れちゃっているけど、味は変わらないから良しとしよう。


「いっただっきまーす」

「いただきまーす」


 ヴォーロスと一緒にクレープを食べ進めていると……ふと家の外から視線を感じた。

 何だろうと思って目をやると、出入口として開けていた隙間から、緑色に光る何かが浮かんでいるのが見える。


「――っ!?」


 驚き過ぎて、声も出せないまま手にしたクレープを投げてしまい、放物線を描いて緑色の何かに向かって飛んで行ってしまった。

 あぁっ! 私のクレープっ!

 食べ物を粗末にするなんて……えっ!? 宙に浮いた?

 一体何が起こっているのかと、よく目を凝らしてみると……


「んーと、猫?」

「にゃー!」


 宙を舞っていたクレープを、緑色の何か……というか、黒猫が見事に口で咥え、美味しそうに食べ始める。

 とりあえず、クレープが無駄にならなくて良かったんだけど、


「なぉーん」

「えっと、お腹が空いているの? ……食べる?」

「にゃー」


 もっと欲しいと言わんばかりに、黒猫が擦り寄ってきた。

 はぁぁぁ……モフモフにゃんこ、癒されるー!

 タマネギを使っていないクレープを選んで、黒猫に食べさせていると、


「セシリア? ……って、その猫!」

「あ、お腹を空かせているみたいだったから。大丈夫。ちゃんと、猫が食べちゃダメなものは、あげてないわよ」

「そういう意味じゃなくて……あっ! 来たっ!」


 突然ヴォーロスが立ち上がり、私を通り過ぎて出入口へ。

 その直後、ヴォーロスが小さく声を上げ、何かがぶつかってきたかのように、身体が揺れる。


「くっ……待った! 落ち着いて!」

「フーッ!」

「違うんだ。よく見て! 君の子供は、ご飯を貰っているんだ」


 えーっと、声からして嫌な予感しかしないんだけど……やっぱり怒っている大きな黒猫というか、おそらく親猫が居るっ!

 ごめんね。仔猫……っていうほど小さくはないけど、この猫ちゃんに危害を与えたりする気は一切ないからねっ!?

 親猫はヴォーロスの言葉がわかるらしく、横から私とクレープを食べる猫を見て……あ、膨らんでいた尻尾が細くなった。

 落ち着いてくれたのかな?

 そう思って胸を撫で下ろした直後、親猫の姿が消え、綺麗なお姉さんが現れた。


「おぉぉぉ……食べ物がこんなに! マヘスも美味しそうに食べて……良かった。お主は鬼人族ではなく、人間族のようじゃが……この子が食べられる物を持って来てくれたのか。礼を言う」


 ちょ、ちょっと待ってね。

 理解が……理解が追いつかないから。

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