挿話11 気付くのが遅かった短剣使いのコーディ
「お、おい! どうするんだよっ! あの女、ライトニング・ベアまで飼いならしていたぞ!?」
「無理に決まってんだろ! 俺たちは、あのアリにすら勝てないんだぞ!? あのアリがダッシュで逃げ出す程の魔物なんだ! 逃げるしかねーよっ!」
何処をどう走ったか分からないが、とにかくライトニング・ベアから逃げようと遠くへ走り……気が付いた。
「し、しまった! 薄暗いと思ったら……も、森の中に入っちまった!」
「……それって、つまり即死魔法を使うデス・トレントが居るのか! 早く引き返すぞ……って、あれ!? いつの間に、こんなに森の奥深くまで入って来たんだ!?」
「いや、森の中だって気付いてすぐに足を止めた……って、木の方が動いてないか? 森の入り口がどんどん遠くに……って、動く木!? つまり、この木は全部デス・トレント!?」
ヤバい、ヤバい、ヤバい!
えっと、即死系の魔法は成功した途端にアウトだ!
だが幸いな事に成功率は高くなくて、精神を集中し、心を落ち着かせれば良いって、ジャトランへ来る前に言っていたよな。
深呼吸して……あれ? 甘い香りがする。何だ? ……って、これはバーサーク・モスが飛んでるじゃないか!
確か、この鱗粉を吸い込んでしまうと、常に怒り狂う……お、落ち着け。
手で鼻と口を押さえ、ゆっくりで良いから、確実に一歩ずつ森の外へ……って、あれ? 今度は森やバーサーク・モスが逃げ出した?
「あぁぁぁっ! ライトニング・ベアが追いかけて来たぁぁぁっ!」
「おーい。アンタたちは、セシリアに何か用があったんじゃ……」
「に、逃げろぉぉぉっ!」
「えぇー。セシリアに敵意を向けていたのが誤解っぽいから追いかけて来たのに……もう知らないよ?」
遠くでライトニング・ベアの声が聞こえて来たが、とにかく全力で逃げる。
よし! やっぱり木だけあって、デス・トレントの方が遅い!
この木を囮にして、ライトニング・ベアから逃げるぜ! と思っていたら、
「ごはぁっ!」
「ぷげぇっ!」
デス・トレントの大きくしなった枝が俺たちを薙ぎ払い、吹き飛ばされた所で木の魔物たちが遠くへ逃げて行く。
くそっ! 囮にするつもりが、囮にされるなんてっ!
だが、幸いな事にライトニング・ベアは追って来ていないようで、何とか助かったらしい。
「良かったな、相棒。何とか逃げ切ったぞ」
「うるせぇっ! 何が相棒だっ! たかだか白金貨数枚で俺をこんな地獄に連れて来やがって!」
「ぐっ……やりやがったな!? 俺は提案しただけだ! その金に目がくらんで、ついて来たんだろうがっ!」
「げふっ……てめぇ! 死にたいらしいな! 覚悟しやがれ!」
互いに全力で殴り合い、双方の顔がボコボコに腫れたところで、ふと我に返る。
「待て! どうして俺たちは殴り合っているんだ!?」
「……本当だ。協力して、生きて脱出しないといけないのに」
「……あれだっ! バーサーク・モス! あいつの鱗粉にやられたんだっ!」
「なるほど。だが、俺の方が多く殴られたから、あと一発殴ったら仲直りだな」
「痛っ……ふざけるなよ!? そもそも、避けないお前が悪いんだろうがっ!」
鱗粉の効果が切れても殴り合いが続き、ようやく冷静になった時には、またあのアリに囲まれていた。
「もうやだ! 帰りたいっ! 金なんて要らないから、家に帰らせてくれっ! 田舎に帰って真面目に働くからっ!」
「神様! 先程の結界を……神様ぁぁぁっ!」
だが、どれだけ待っても結界は張られず、アリたちに攻撃されまくる。
「……あのさ、もしかしてさっきの結界って、セシリアって女が張ってくれたんじゃないのか? 土魔法が得意だって話だったし」
「じゃあ、やっぱりセシリアが……いや、セシリア様が女神で、そのセシリア様を捜しているあの男が悪人なのかっ!?」
「よく考えたら、ライトニング・ベアやグリフォンを従えるなんて、やっぱり女神様とかじゃないと、出来る事じゃないよな。……助けてセシリア様ぁぁぁっ!」
白金貨欲しさにセシリア様を嘘吐き呼ばわりしてしまいましたが、俺たちが間違っていました!
だから、助けてください、セシリア様っ!
俺たちは、二人でセシリア様の名前を叫びながら、必死で魔物たちから逃げ回る事になってしまった。
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