第30話 二人の要救助者

「む? セシリアよ。助けに行くのか?」

「もちろん! 困っている人が居るなら、助けてあげないと」

「わかった。セシリアが助けるというのであれば、我も手伝おう。セシリアよ。我の上に乗るのだ」


 前にヴォーロスに乗せてもらって、凄い速さで走ってくれた事があったけど、今度はセマルグルさんに乗せてもらえるらしい。

 ヴォーロスには毎日寝る時に抱きついているけど、セマルグルさんは余り抱きつかせてくれないからねー。

 やっぱり、猫系だからかな? 猫って身体を触られるのを嫌がる子も居るもんね。

 ……って、猫の事を考えている場合じゃなかった!


「セマルグルさん! お願いします!」

「うむ。では行くぞ!」

「セシリアとセマルグルは先に行って。後から僕も追いつくから」


 セマルグルさんが大きな翼を羽ばたかせ、地面から離れていく。

 凄い! こんな風に空を飛べるなんて!

 これで、人が襲われていたりしなければ、物凄く良い空のお散歩なんだけどね。

 そんな事を考えていると、


「もう、ダメだぁぁぁっ!」


 再び悲鳴が聞こえてきた。

 声がした方を見て見ると、男の人が二人、草むらで大きなアリに囲まれている。

 あのアリは、確か闇魔法を使うんだっけ?

 なので、二人の周りに魔法を反射する結界を張る。


「な、何だ!? これは……結界魔法か!?」

「い、一体何が起こっているんだ!?」

「か、神様じゃないか!? 俺たち、ここへ来てから散々な目にあっただろ? デカいカエルみたいな魔物に食われそうになったり、夜中にサソリが出てきて、死にそうになったりさ」

「お、俺たち、助かるのか!? 魔物に食料を全て奪われたけど、無事に三日目を迎えられるのか!? 相棒……俺たち、未だ運に見放されていなかったんだな」


 混乱する二人がアリをそっちのけで、涙を流しながら抱き合い始めたけど……その結界は、魔力を反射するだけだから、物理攻撃は通しちゃうからね?

 そんな中、セマルグルさんが地面に急降下していくと、それに気付いたのか、アリたちがワラワラと逃げていく。


「す、凄い! あのブラッディ・アントが逃げるようにして、どこかへ去って行ったぞ!」

「おぉ、神よ……助けてくださり、ありがとうございます」


 天に向かって、男性が祈りを捧げ始めた所で、


「さて。一応助けてやったが、お主たちは何者だ? 昨日の船で来たようだが、どういう理由でここへ来たのだ?」


 地面に降り立ち、私を降ろしたセマルグルさんが二人に近付いていく。


「えっ!? まさか、昨日のグリフォン!? しかも喋った!? グリフォンが喋るだなんて……そ、そうか。このグリフォンは神の遣いで、俺たちを守る為に神様から派遣されたんだよ! だから、昨日このグリフォンが大タコと戦っていたのも、俺たちが乗る船を守る為だったんだ!」

「なるほど。つまり俺たちは、神に選ばれた人間! この世界に無くてはならない存在として、グリフォンを使役出来るようにしてもらえたんだ!」

「そうと分かれば……おい、グリフォン。俺たちは喉がカラカラで、空腹だ。水と食い物を持って来い!」


 えーっと、何を勘違いしたのか分からないけど、セマルグルさんにそんな言い方は失礼だと思うんだけど。

 実際、セマルグルさんの背中しか見えないけど、何となく怒っているように思えるし。


「おい、何をしているんだ!? 早く、水と食い物を取りに行けよ! 俺たちは神に選ばれし……ぐほぁっ! ……えっ!? た、体当たりされた!?」

「今のは、かなり手加減してやっているからな? ……セシリア。この愚か者どもは、助けなければならないのか?」

「う、うん。流石にこのまま放っておくのは可哀想だし……水分と食べ物なら、私が用意しましょう」


 とりあえず、土魔法で瑞々しいトマトを生やしてあげると、


「く、食い物だっ! ……う、旨いっ! 何だ、このトマトはぁぁぁっ!」


 二人の男性が凄い勢いでトマトを食べ始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る