挿話2 真実を知る第二王子ルーファス

 セシリアを連れ戻すまで、王宮に足を踏み入れる事を禁じられ、父が部屋を出て行った。

 しかし、父の話は本当なのか?

 土魔法で作物の収穫量を増やし、鉄を生み出すなど、そんな事が出来るとは思えないのだが。


「あの、ルーファス様……」

「おぉ、オリヴィア。すまないね。いきなり父が入って来て、驚いただろう。だが、安心しておくれ。父は僕と君との婚約をとても喜んでいたから」

「婚約……ですか」

「あぁ。新たな聖女となり、僕と一緒に王宮で暮らそう」


 とりあえず、オリヴィアを引き留めなければ。

 要は、セシリアの代わりを務める、土魔法が得意な者を連れて来れば良いのだろう?

 そんなの騎士団や魔法学校、それから冒険者ギルド辺りを探せば幾らでも出て来るはずだ。

 しかし……おかしいな。プロポーズに近い事を言ったのに、オリヴィアが俺の胸に飛び込んで来ない。


「ルーファス様。先程、国王様が出てこられた際に、家へ戻るようにと言われまして」

「な、何だって!? 何故だ!?」

「理由は仰られておりませんでしたが、いずれにせよ思っていた以上に気持ち悪……こほん。私の体調が優れませんので、一度公爵家に帰りますね」

「そうか。では、馬車で家へ送らせよう。少し時間をもらい、父を説得して必ず君を迎えに行く。だから、ちょっとだけ待っていておくれ、マイハニー」

「うわぁ……」


 国王である父を説得してでも迎えに行く……この言葉がかなり嬉しかったようで、オリヴィアが驚き、自らの腕を抱きしめて歓喜で身体を震わせる。

 よし。オリヴィアの心は掴んだ。

 後は土魔法の使い手だけだな。

 先ずはメイドを呼び出し、オリヴィアの馬車を手配させると、別の馬車を用意させ、先ずは騎士団長の元へ。


「これは、ルーファス様。今は戦の予定は無いはずですが、いかがされましたか? 剣の稽古であれば、若い者を付けさせますが」

「いや、そうではなく、土魔法が得意な者を探していてな。出来れば若い女性が良いのだが」

「ルーファス様。魔法の勉強は真面目にされましたかな? 狩りに連れて行くのであれば、水が出せる水魔法か、移動を補助する風魔法の使い手の方が宜しいですぞ」

「だから、狩りでもないんだ。戦いに行く訳ではなく、土魔法の使い手を探しているんだ」

「はて……ルーファス様。土魔法の使い手であれば、婚約者であるセシリア様の右に出る者は居りませんぞ?」


 いや、そのセシリアの代わりを探しているんだよっ!

 騎士団長は、俺が幼い頃から剣の師匠であり……まぁ強く言えないし、ぶっちゃけ苦手だ。

 何にせよ、騎士団に土魔法を得意とする者が少なそうなので、次の場所へ行く事に。

 次は本命、魔法学校だ。


「ルーファス様。久しぶりですな。生憎、今は女性教師が皆授業中でして」

「何故、俺が女性教師を探して居ると?」

「おぉ、時が経つのは早いですな。若い女の先生じゃないと、勉強をしない! と駄々をこねておられたクソガ……こほん。お坊ちゃんでしたのに」

「……遠い昔の事だ。忘れたな」


 全く記憶に無いが、まぁ俺が幼少の頃の話だろう。

 五歳とか六歳とか。可愛いじゃないか。


「ほんの二年前の事ですが……それはさておき、何の御用でしょうか?」

「……あー、土魔法を得意としている者を探している。年齢は問わないが、出来れば若い女……こほん。いや、誰でも良いから紹介してくれ」

「土魔法ですか。得意としている者でしたら、居ると言えば居りますが……」

「なんだ? 別に若くなくても構わないのだぞ?」

「男性でも宜しいですかな?」


 男に聖女が務まるかぁぁぁっ!

 いや、しかし聖女としてオリヴィアが表向きには仕事を行い、裏でその男が土魔法を使った仕事をするというのはアリだな。


「どんな奴なんだ? 王宮で宮廷魔術師として雇いたいのだが」

「宮廷魔術師? なるほど。ですが、それは無理ですな。我が国は鉱山などが無い為、土の力が弱いのか、土魔法を使える者が少ないのです。数少ない土魔法の教師をこの学校から出してしまうと、土魔法を教える者が居なくなってしまいますからな」

「ぐっ……では、ある程度未熟でも良い。学生には居らぬのか?」

「居りますが……まだ九歳の女児ですぞ? ただ、将来はセシリア様のように土の神に愛され、聖女と呼ばれるようになりたいと言っている、可能性溢れる子供ですが」

「九歳は流石に……待て。土の神に……とは何の事だ?」

「ルーファス様。もうお忘れですか? 聖女となり、神の魔法が使えるようになる者は、それぞれの神の試練を乗り越えて祝福された者だけです。神の試練をクリア出来る者は、十年に一人出るかどうか……と教えたではないですか」

「という事は、土の聖女と呼ばれていたセシリアは、実は凄い奴なのか?」

「それはもう。神の試練は古来からのしきたりで女性しか受けられず……私も女性として生まれて居たら、試練に挑戦してみたかったのですがね」


 待て。という事は、どれだけ探しても、セシリアの代わりが務まる者は居ないのか!?

 ど、どうすれば良いのだぁぁぁっ!

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