第5話 最初の目標は冷蔵庫

「あの、お嬢さん。一体何をするつもりで?」

「まぁまぁ。ちょっと待っててね。まずは土魔法で銅を出しまーす!」

「銅? 糸のように細長いのですが……」

「いいのいいの。これを、クルクルーって、円形にしていきまーす!」


 いやー、懐かしいなー。

 小学校の理科の授業で作ったアレ! ……そう、モーター!

 銅線でコイルを作って、磁石と電池で回る手作りのモーターを土魔法で再現してみようと思うのよ。

 具現化魔法っていって、土や石みたいに銅や鉄だって好きな形に出来るから、コイルも凄く綺麗なのが出来た。

 磁石だって、要は石だからね。土魔法で生み出せちゃうし、唯一私には生み出せない電気は……ヴォーロスのおかげで解決っ!

 日本では家電製品を販売していたから、研修である程度の仕組みは知っているから、いろいろ作るわよっ!


「出来たー! ヴォーロス! ここに、すっごく弱い雷を出してくれない?」

「それくらい構わないですけど……お? 回った?」

「やったー! モーターが動いたっ! えっと、えーっと、何から作ろうかな。最初はやっぱり冷蔵庫かな? 食べ物は大事だもんね!」

「お嬢さん。冷蔵庫って?」

「やだー! ヴォーロスったら、お嬢さんだなんて他人行儀じゃない! 私の事はセシリアって呼んでね!」

「……はぁ。急にご機嫌ですが、お嬢……もといセシリアがそう呼べというなら、呼びますが」


 雷魔法と具現化魔法。

 うん。我ながら凄く良い組み合わせな気がする。

 王宮にだって、電化製品なんて無かったし、もしかしてここに居た方が快適な暮らしが出来そうじゃない?

 しかも、周囲に人が居ないから、電化製品を見られて、変に思われたりする事も無いし。

 土魔法で食べ物も手に入るから……よし! ここに立派なお家を建てよう!

 未開の地だもんね。誰も居ないもんね。この辺一帯を畑とかにしちゃっても怒られないよね!

 とりあえず、次は果物以外の食事をする為、小麦を作ってみよう。

 畑と冷蔵庫……異世界で食事の革命を起こすのよっ!


「えーっと、セシリア。何だか空を見上げながら、盛り上がっている所、悪いんですけど……」

「ん? どうかしたの?」

「さっきセシリアが作ったモーターとかっていう回る道具が、真っ赤になっているんだけど」

「えっ!? ……あぁぁぁっ! ヴォーロス、雷を止めてーっ!」


 大急ぎで川へ行き、水をすくって手作りモーターへ掛ける。

 ま、まぁ第一号の試作機としては、こんな物よね。

 後は大きさとか、雷を安定させる方法とか、これから調整すれば良いんだもん。

 み、未来は明るいわっ!


「ところでセシリア。さっきも聞いたけど、冷蔵庫って?」

「えーっとね。中が冷たい大きな箱で、その中へ食べ物を入れておけば、長持ちして傷まないのよ」

「あー、氷室みたいな物ですか」

「そうそう。氷室は箱の中へ氷を入れて冷やすけど、その代わりに電気――雷の力で冷やすのよ」

「なるほど。でも、それなら氷魔法で冷やせば良いのでは? 僕の知り合いに、氷魔法が使える者が居ますけど?」


 なっ!? こ、氷魔法っ!?

 くっ……そうだった! ここは異世界っ! 科学の代わりに魔法が発達しているんだっ!

 でも、せっかくだからモーターを作って冷却装置を……って、よくよく考えたら、冷蔵庫はかなりハードルが高い気がしてきた。

 ……うん。モーターの実験は続けるけど、他の物を作る事にしようか。


「えーっと、じゃあヴォーロスの知り合いの氷魔法を使える方を紹介してくれる?」

「構わないよ。えっと、後で声を掛けに行って来ようと思うんだけど、手土産として何か果物を貰っても良いかな?」

「もちろん! 持ち運ぶなら……ブドウよりリンゴの方が良いわよね」


 一先ず、お土産用にリンゴの木に再び実を付けた後、私は小麦作りに挑戦する事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る