第4話 ライトニング・ベア
「美味しいっ! な、何ですか、このブドウは!?」
「え? 普通のブドウだよ?」
「しかし、中に種が無いから果肉の味をしっかり楽しめますし、皮に渋みが全くない! 今まで食べたブドウの中で、一番美味しいブドウですよっ!」
熊さん……もといヴォーロスさんが、美味しい美味しいと言いながら、凄い勢いでブドウを食べていく。
美味しいのは美味しいけど、ごく普通の皮ごと食べられる種無しブドウなんだけどな。
生やしたブドウの木が一本だけだったからか、ヴォーロスが実を全部食べてしまい、
「……はっ! ぼ、僕は何という事を……本当に申し訳ない!」
我に返った途端に、物凄く謝られてしまう事に。
「あの、大丈夫だから。また生やせば良いし」
「いえ、いくらなんでも、これは何かお返ししないと……」
「あ、じゃあ、この辺りで人間の村とか街があったら教えてほしいな」
何だかヴォーロスが申し訳なさそうにしていたので、だったら……と、道案内を頼んだんだけど、何故か物凄く困っているみたいだ。
「えーっと、村とかの中までは入らなくても良いよ? 近くまで行ければ、十分なんだけど……」
「あの、非常に申し上げ難いのですが……この辺りに人間は住んでないんですよ」
「…………え? じょ、ジョークかな? く、熊ジョーク……」
「だと良かったんですけど、この辺りは見ての通り延々と平地で……あ、この川を上がって行けば、森があるくらいですかね」
おぉぅ……流石未開の地。村どころか、人が住んで無いときたか。
どうしよう。ヴォーロスの話では森があるらしいから、木は手に入るんだよね?
木を使って舟を作って……って、どっちに行けば人が住んで居る場所に辿り着くのっ!?
そもそも、ジャトランっていう場所が何処かも分かっていないのに、あの大きな海へ手作りの舟で人の住んで居る場所を目指すなんて自殺行為でしょ!
そんな事をするくらいなら、いっそここに住んでしまった方が良いんじゃない?
一人だったら、孤独で泣きそうになるけど、幸い喋るモフモフ熊さんが居る事だし。
「……ヴォーロスって、家族とか居るの?」
「僕ですか? いえ、僕の種族は大人になったら家族の元を離れないといけないという習わしなので、一人ですけど?」
「じゃあ、毎日ブドウを食べて良いから、一緒に住まない? というのも、私もここから家に帰る事が出来なくて、独りぼっちなのよ。だから、村を案内する代わりに、一緒に居て欲しいなーなんて」
「僕は良いですけど……というか、お返しがそんなので良いのですか!? 僕が貰ってばっかりですよ!?」
「あはは。気にしない、気にしない。こう見えて私、土の聖女って呼ばれていて、いろんな魔法が使えるし、魔力も沢山あるから」
「魔力……ですか。僕はライトニング・ベアっていう種族で、雷魔法が使えて魔力も沢山あるんですけど……これもお返しにはならなさそうですよね」
雷魔法が使える熊!?
凄い。熊さんなのに魔法が使えるんだ。それなら、日本の――異世界のリンゴを食べて知恵を得たって言っていたけど、元々賢い熊さんだったみたいね。
「……ん? ちょっと待って。ヴォーロスは雷魔法が使えるの?」
「えぇ。この爪の先から、雷を発する事が出来まして、これで川の魚を一網打尽にしたり出来ますけど……魚、お好きですか?」
「うん! あ、待って待って。今食べたいって意味じゃないの。その雷の魔法って、威力を弱くしたり出来るのかな?」
「もちろん。本気を出したら川の魚が全滅しちゃうので、ある程度威力を抑えられますよ。じゃあ、早速……」
「だから、違ーう! お魚は後でいただくとして、ヴォーロスの雷魔法で、私たちがすっごく幸せになる気がしてきたのよ。ちょっとアイディアが浮かんでね」
「はぁ……」
土の聖女である私は、土で壁を作ったり、石を生み出したりと、土に関する物を生み出す事が出来る。
土に関する物……つまり鉱物も生み出す事が出来る訳で。
もしかしたら未開の地の生活が、物凄く快適になるかもっ!
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