第2話 ショックで思い出した前世の記憶
『いらっしゃいませー! 冷蔵庫ですね? 今でしたら、こちらのモデルが……』
『え!? 洗濯機売り場へ異動ですか!? わ、分かりました。急いで勉強します……』
『こ、今度は健康家電!? ま、また異動ですか……』
……
今のは……夢?
頭が真っ白になった瞬間、見た事の無い光景が頭の中に流れ込んできた。
とてつもなく広い場所で、変わった服を着た人を相手に、何かを売って……待って! 私、この光景を知ってる!
そうだ! 私は家電量販店で販売員をしてたんだけど、ブラック過ぎる職場でどんどん人が辞めていくから、そのシワ寄せが私にも来て……。
「……はっ! えっと、ここは辺境の地ジャトランで、私は土の聖女のセシリア・ルイス。だけど、前世は日本で働いていて……えっと、これって異世界転生って事!?」
どうやら、追放された先が想像以上に酷い場所で、ショックで前世の記憶を取り戻してしまったみたい。
えっと、異世界転生とか転移ものだと、とりあえず食べ物と水の確保よね。
体力が無くなって動けなくなる前に、水だけでも確保しなきゃ。
前世で読みまくっていた小説や、よく見ていたマンガやアニメのおかげなのか、途方に暮れていたはずの未開の地で、やるべき事が沢山頭に浮かぶ。
その考えに従い、海から離れる様にして歩いて行くんだけど……思っていた以上に何もない。
唯一の救いは雲が出ていて、日差しが強くないっていう事くらいかな。
暫く歩き、海からかなり離れた所で、水の音が聞こえて来た。
「……川っ! きっと川があるんだっ! えっと……こっち!」
水の音が聞こえてくる方向へ歩いて行くと……あった! 川だ!
「えっと、そのまま川の水を飲むのは怖いから、本当はろ過とかをしたいんだけど、とりあえず状態異常の防御魔法っと」
自分自身に状態異常を防ぐ土魔法を使用したので、これでお腹が痛くなったり、毒になったりはしないはず。
見た目は凄く綺麗な水を両手ですくい、口へ運ぶ。
……うん。冷たい普通のお水だ。
これで水は確保したから、次は寝る場所よね。
川から少しだけ離れると、土魔法で石を生み出す。
平らな床用の石に、壁となる石。それから、ちょっと薄めにした屋根用の石を生み出すと……
「完成! とりあえずの家!」
私の身長より少し高いくらいの、二畳くらいの家というか、石の箱を作り出した。
窓は無いし、所々に隙間もあるけど、土魔法で出入口を防げば、夜になると現れる魔物も心配せずに眠れるはず。
うん、頑張った。
とりあえず、少しだけ隙間を開けて土魔法で出入口を塞ぎ、ちょっとだけ仮眠を取る事に。
後は食料があれば完璧だけど、それにはアテがあるからね。
そんな事を考えながら就寝していると、石の隙間から差し込む夕日で目が覚める。
「ん……ちょっと寝すぎたかも。やっぱり歩きっぱなしだったから、疲れてたのかな?」
石の家から出ると、川の傍まで行って立ち止まり、何を食べたいか考える。
こっちの世界だと小麦が主流だけど、日本の記憶を思い出してしまったので、お米が食べたい。
……って、流石に飛躍し過ぎた。
もっと簡単に食べられる……リンゴ! うん。これなら、そのままかじっても良いし、しぼってジュースにしたり、加熱しても美味しいよね。
リンゴをイメージしながら、土魔法の植物の種を生み出す魔法を使うと、手の中に小さな種が現れる。
「出来た出来た。次はこれを埋めて、たっぷりのお水を注いで……仕上げに、作物を成長させる魔法!」
普段のお仕事では広域に広げていた魔法を、この種一つに集約したから、一気に芽がが出て木が育ち、あっという間に沢山の紅いリンゴが育った。
そこからリンゴを採ると、パクっとかじりつく。
「……美味しい。やっとご飯が食べられた」
リンゴを二つ食べ、とりあえずお腹が満たされたので、川で水浴びをしながら、服を洗い……今日は就寝する事に。
明日は、小麦かお米を作ろーっと!
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