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「・・・小町さん、そろそろお昼休み終わります。」
研究室の部屋の中、私に準備されたデスクに突っ伏して今日も昼寝をした。
二十歳の頃から夜はほとんど眠れていない。
会社の日は毎日のようにこうしてお昼休みに仮眠を取っている。
経理部の時は従兄弟でもある中岡部長・・・姫の旦那である透(とおる)が起こしてくれていた。
その透の部署でもなくなり、今日から研究室での仕事が始まる。
午前中、1つのチームでのミーティングに出席したけれどサッパリ分からなかった。
それでも議事録だけは作成し、チーム長の矢田(やだ)さんに提出はした。
私のことを起こしてくれたのはそのチーム長である矢田さん。
少し心配した顔で、優しい笑顔で、眼鏡の奥にある小さな目で私を見てくる。
「寝不足ですか?」
「そうなの、夜は眠れなくて。」
「病院で睡眠薬を処方して貰えますよ?」
正論を言われてしまい苦笑いをするしかない。
「あまり夜は寝たくないからいいの。」
「寝たくないんですか?
何かしているんですか?」
「何もしないために寝たくないだけ。」
そう言って笑いながら立ち上がる。
「起こしてくれてありがとう。」
「いえ、すみませんでした。」
何故か矢田さんの方が謝ってくる。
日焼けしていない真っ白な肌に真っ白な白衣。
白衣の裾が茶色く変色している。
「そこ、汚れてるよ?」
「・・・あ、さっき缶コーヒーを落として。
その時ですかね。」
矢田さんが困ったように笑いながら白衣を脱いだ。
その白衣を私が受け取る。
「ここではほとんど仕事は出来ないから、これくらいはやる。」
「すみません。」
また謝られ、それには少しだけ気になる。
“ありがとう”ではなく“すみません”と言う人なのだと思う。
「どういたしまして。
何をしたらいいのか分からないから、指示を出してね。」
こうして、加賀社長の一人娘である私は研究室での仕事をスタートさせた。
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