お風呂
挨拶をしてロワーズの部屋を子供たちと退散してため息をつく。
ヨハンから滲み出る疑いの圧がとにかく凄い。正直、ヨハンとはしばらく会わなくても何も問題はないと思う。
アイリスが眉間に皺を寄せながら言う。
「あいつ何がしたかったんだ? エマ、腕は大丈夫か?」
「マーク、大丈夫よ。心配してくれてありがとう」
「いや、俺は別に……」
照れるアイリスの髪を見れば少々旅の汚れが溜まっている。シオンもだ。そして多分私も。
「今日は髪を洗おうか」
日本のような風呂はないけれど、部屋についている風呂スペースのような場所にはタライが設置されている。お湯を入れ簡易風呂として使えるようだ。エコバッグに入っているシャンプーとリンスをコピーする。
アイリスがタライを見ながら顔をしかめる。
「洗浄の魔法で綺麗になるだろ?」
「洗浄ではある程度しか綺麗にならないのよ。ちゃんと洗いましょう。マークとシオン、どちらが先に入る? お湯を準備するから二人で決めて」
「ぼくは……はいりたくない」
シオンが強張りながら下を見る。ああ、またトラウマを刺激したのかもしれない……。どうやら風呂に浸かるのが嫌なようだ。
「お風呂に浸かる必要はないから。でも、髪だけは洗おうか。服も脱がなくていいから。どう?」
「……わかった」
「じゃあ、先にマークから入ろうか?」
「お、おう」
シオンは少し時間が必要そうなので、先にマークを風呂に入れる。
水魔法と火魔法を使いタライにお湯を張る。アイリスも準備できたみたいなのでタライに入ってもらう。ボディソープを準備されていたリネンのタオルにつけ、泡立てる。リネンのタオルはゴワゴワしているけれど仕方ない。
アイリスが泡立ち始めたタオルをみながら目を見開く。
「すげぇな! それ、シャボンだろ。しかも香り付き。前に使ったシャボンはこんな匂いしなかったぜ」
このボディソープはフローラルの香りとしか書いていないけど、確かに良い匂いが広がっている。その香りのおかげでこの世界に来てからの緊張感がほどけ和んでしまう。明日、これもコピーしよう。
シャンプーとリンスはジャスミンの香りでこれもなんだか懐かしく感じた。風呂上がりのアイリスの髪を櫛で梳かしながら風魔法と火魔法でドライヤーをかける。
「見たことない魔法だな。俺は魔法の練習をしてこなかったから……あんまり分かんねぇけど、エマが凄いってのは分かる」
「マークが練習したいなら、シオンと一緒にすれば良いと思うよ。まぁ、すでに一緒に練習しているけどね」
「俺が?」
「そう。ほら、あの光の遊びよ」
「あれがか……そうなのか」
アイリスは風呂上りに疲れが出たのか無言になってしまったので、私も無言でアイリスの髪を仕上げる。最後にアイリスの毛先に少しヘアオイルを絡ませる。
「はい。終了ね」
「ありがとな。髪を洗ってもらうなんて何年振りかだ」
つやつやの髪を触りながらアイリスが嬉しそうに言う。
やはり洗浄より洗ったほうが髪は綺麗になると思う。洗浄の方が簡単だからこまめにそちらを使うだろうけど、これからも風呂が使える時には洗ってあげようと思う。タライの水に洗浄の魔法をかけ火魔法で温めな直しシオンに声をかける
。
「シオン、準備できたけど大丈夫そう?」
「……うん」
シオンのこちらに向かう足取りが重い。
シオンの頭がタライと並行になれるよう調節して服を着たまま頭だけ洗う。シオンの髪はまだ細く柔らかい幼い子供の髪だ。
シオンも始めは緊張していたけれど、途中からは魔法の話などを楽しそうにしていた。優しく丁寧にシオンの髪を洗い、ドライヤーをかける。うん、銀髪が輝いているね。
ベッドでゴロゴロするアイリスの元へシオンが駆ける。
「じゃあ、私も入るから。二人はそのまま寝てもいいし遊んでいてもいいけど、遊ぶ魔法は光魔法だけでお願い。光は顔に直接当てない事、分かった?」
「「はーい」」
タライのお湯を温め直し、入ってみるが腰までしか浸かることができない。まあ、仕方ない。風呂っぽいのに入ることができるだけでも嬉しい。
体の汗を流し、髪を洗う。二週間以上ぶりのシャンプーだ。洗浄とはまた違う爽快感に思わず声が出る。
「あー、気持ちいい」
想像以上におっさん臭い声が出てしまい、一人、笑い出す。身体は若返っても中身は中年だから仕方ない。
風呂から上がり、寝支度をしてベッドへ向かうと子供たちはすでに夢の国の住人だった。ブランケットを二人にそっとかけ、呟く。
「おやすみ」
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