保護

「レズリー、今は密偵の話であり、北の砦へ向かう準備が最優先だ。しかし……魔力の著しく高い平民はまた問題である。処遇を決めなければな」


 ロワーズが唸りならがため息をつく。地面に座っているアイリスは強がっているけど、目の奥には怯えが見える。右手を上げ、声を上げる。


「あの……私に提案があるのですが」

「……申してみよ」


 ロワーズが眉を顰め言う。そんなおかしな提案ではないから大丈夫なはず……。


「北の砦への道中、それから北の砦でシオンのお友達が欲しいのです。彼なら年齢も近いですし、いかがですか?」

「……処遇が決まるまで、この子供の面倒をエマが見たいという意味か?」

「はい。といってもお金がないので、北の砦で何かしら仕事を頂けたらなと思ってます。無ければ砂糖でも売ります」


 ロワーズがしばらく考えレズリーと視線を合わせながら頷く。


「砂糖は売らなくてよい。仕事も無理してする必要はないが……したいのなら何か職を融通する。クライスト家はどちらにしても魔力の高い平民を保護している……だが、その子の意見も尊重する。小僧、お前はどうしたい?」


 アイリスに尋ねても、多分速攻で断ると思う。そのままアイリスの好きなように放置してもよいのだけど……今後、人攫いに合ったりするかもしれない八歳の女の子を放置とか白川家の恥だ! そんな大層な家じゃないけど……。

後、仕事は必要だ。そうでないとまた囲いの愛人と勘違いされそう。自分と子供二人の生活費くらいは稼ぎたい。

アイリスがケッと声を出し、腕を組む。


「そんなのは決まってる。い――」

「あ。そうだ! マーク君に一つ言い忘れたのだけど、恥ずかしいからちょっと内緒話するね」

「あ! なんだ――」


 アイリスの言葉を遮り、誰にも聞こえないように耳打ちをする


「あのね。着いてきてくれたらアイリスちゃんのことは秘密だよ」


 アイリスが驚いたような顔を向けられたのでウインクをすれば、唇を噛みながら返事をした。


「こ、この人と一緒に行きます」

「決まりだね。私はエマ、こちらはシオン。よろしくね」


 軽く拍手をして自己紹介すると頭の中に声が響いた。


ドドン

『子守のレベルが上がりました』


 子守? 脅しじゃなくて?

 咳払いしたロワーズと視線が合う。ジト目凄いな。いろいろと尋ねたさそうなロワーズに満面の笑みを向ける。


「……何をコソコソと相談したのか分からないが、一先ず、我らと行動をする限りはエマが魔力の高いその子を保護する分に問題はない」


 とりあえずアイリスを預かる交渉を成立したようだ。良かった。

 シオンがアイリスの元へ向かい自分から自己紹介をする。


「ぼく、シオン。よろしくね」

「……俺はマークだ」

「え? マークくん? でも」

「シオン、後でお部屋に戻ってマーク君と話そうね。今日は、みんな疲れただろうから」


 シオンも鑑定が出来たのか、それとも勘で女の子だと気づいているのだろう。シオンに微笑むと、きちんとその意図を汲んでくれたのか元気に返事をする。


「うん。わかった」


 これですべての鑑定の依頼が終了した。やっと鑑定地獄からの解放、今日はぐっすり眠ることができそうだ。小さく欠伸をすれば、急に隣に立ったロワーズが尋ねる。


「あのマークという子供、何を隠しているのだ? 何か怪しいことがあれば子供でも容赦できない」

「子供は威圧的に尋問しても何も答えませんよ。それは私も同じです。マークに危険要素はありません」

「しばらく、様子を見させてもらう。そのつもりでいてくれ」

「好きなだけ観察して下さい」


 アイリス自身に危険なスキル等はない。それは事実だ。


ドドン

『嘘も方便のレベルが上がりました』


あっ、そう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る