魔物の襲撃 後編
オークジェネラルの死骸から剣を抜きディエゴが息を上げながら駆け寄って来る。騎士の黒い制服からでも分かる青と赤の返り血が戦闘の激しさを物語っていた。
「はぁ、助かったが、お転婆なお嬢ちゃんだぜ」
「それが、本当のディエゴさんですか?」
「……団長には黙ってくれるとありがたい」
天幕の方ではハインツが切羽詰まる声で私の名前を呼んでいるのが聞こえた。
「ハインツさん! こっちです!」
「エマ様! 何故、天幕の外へ? それより、お怪我はございませんか?」
私の無事な姿を確認するとハインツの表情が焦ったものから安堵に変わる。執事服には、赤い血がべっとりと付いていた。
「大丈夫です。ハインツさんこそ血が――」
「返り血にございます。シオン様はどちらに?」
「シオンは大丈夫です。天幕で……隠れています」
「先ほど見た時――いえ、左様ですか。それではシオン様と合流いたしましょう」
息を整えながら顔についた血を拭くハインツは、いつもの表情に戻っていた。シオンの『隠れている』については、ハインツには何かしら疑問はあるようだが尋ねずにいてくれるようだ。リリアとアンも無事と聞き胸を撫で下ろす。
「カルロス! 大丈夫か?」
ディエゴが矢に打たれたカルロスを抱えてこちらへ連れてくる。先ほどまで地面に座っていたが急に倒れたようだ。肩に矢が刺さったままのカルロスの顔色があまりにも悪い。矢を鑑定する。
毒矢――すり潰された毒草の塗ってある矢。不潔
毒矢って……それに不潔って誰かの私見なの? 鑑定によく分からない機能オプションがついている。でも、今はそれどころではない。
「毒矢です」
「カルロス、歯を食いしばれ。矢を抜くぞ」
ディエゴが刺さっていた矢を抜くと、カルロスは呻きながら痛みに耐えたが意識を保てないようで何度も目を開けようとして閉じる。私にできることをしなきゃ。
「治療します」
毒消しのポーション――毒消しの薬草で錬成されたポーション
ポーションを飲むとカルロスの顔色が良くなり、意識が戻る。よかった。でも、カルロスの肩の傷口から見えるえぐれた肉が痛々しい。治療やポーションでは限界があるようで削がれた肉までは元に戻らないようだ。ディエゴがマントを脱ぎ傷口から溢れる血を止める。使ったことはないけど……光魔法が使えるのなら絶対、治療の延長のあれも使えるはずだ。
「すみません。失礼します」
集中して怪我の癒える行程を固める。消毒から筋肉や血管が繋がり、怪我が完全に治るイメージで唱える。
【
無数の光の粒子がカルロスの肩に集中すると傷口に吸い込まれていき、超速再生を見るかのように傷口が恐ろしい勢いで塞がっていく。私同様、ハインツやディエゴも目を見開いて互いを見合う。
ドドン
『光魔法のレベルがあがりました』
このレベルが上がるのはステータスに表示されないが、熟練度が上がったことだと勝手に思っている。このお知らせの後は、その対象の魔法がより扱いやすくなる。ハインツが私と目を合わせ真面目な表情で言う。
「これは、エマ様。光魔法まで取得されていたのですね」
「あ、はい。最近ですが……」
そういえば、シオン以外には言っていなかった。灯りの魔法で遊んでたら勝手に生えてきたんだし、その後もシオンと光の魔法で遊んでたらレベルが上がったのだ。光矢もヒールも今日初めて使ったけどね。ゲームとかラノベで読んだ、にわか知識だけど。
カルロスも無事に回復して立ち上がった。失った分の血は戻らないようで、足元はややフワフワしているが大丈夫そうだ。よし、シオンの元に戻ろう。
早足で天幕へ向かう。付いて来たハインツとディエゴたちに一人にして欲しいとお願いしたが、ダメだと即却下される。大勢で行ってもシオンが怖がるし、ユニークスキルが露見する確率を下げたい。どうにかハインツたちを撒こうと俊足スキルを使って天幕へ先回りしようとしたが、ハインツにマントを握られ移動できなかった。
「ハインツさん、案外俊敏なんですね」
「エマ様ほどではありませんよ」
ハインツの微笑みが逆に怖い。結局、天幕には私とハインツの二人で入ることになった。
「こちらで、待機させていただきます」
ディエゴたちが天幕の前で待機する。天幕の中に入ると、土魔法で固めたゴブリンの棺にハインツが気づき顔を顰める。
「エマ様。申し訳ありません。護衛がいながら、ゴブリンが中まで入ってきていたとは……」
「やめて下さい。非常事態だったのです。魔物のいる森の中で、今まで出てこなかったのが不思議だったのです」
「それも、何故か結界の一部が壊れており……魔物が入ってきたようです」
結界? そんなのがあったの? 確かに、塀が無いと思ってはいたが……タイミングよくロワーズが不在な時、それから北の砦に行く前日に壊れたの? 結界がどのような原理で動いているかしらないけど、貼り直せるのだろうか?
「エマ!」
「シオン大丈夫だよ」
「シオン様は何処から――」
急に何もない場所から現れたシオンにハインツが驚いた顔を隠せない。ハインツと互いに目を合わせ天幕には少し沈黙が流れた。
「シオンはこの通り無事です」
ハインツの視線が私に抱き着いて泣くシオンに再び戻る。
「ご無事で何よりでございます。シオン様、お手元が汚れております」
シオンはチョコを握り潰していたのだろうか? 溶けたチョコで手がベタベタだ。シオンと自分にも浄化の魔法をかけると荒々しく天幕にロワーズが入って来た。
「エマ! 無事か?」
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