狡猾なエリーと土ポコ
会場から大声で番号が呼ばれる。二カ所に分かれた試合場にそれぞれ番号を呼ばれた騎士が並ぶ。
「それでは、トーナメントの第一試合を始める! 第一試合場マーク対ホセ。第二試合場アレン対エリー」
二箇所で同時にトーナメントが始まった。ルールの詳細は分からないが、相手に大きなダメージを負わすことは禁止らしい。
対戦している四人は全員が高校生くらいだろうか? ここからでは距離があり、彼らのステータスを鑑定することはできない。
第一試合会場では、マークと呼ばれた騎士が右下から剣を振り上げ回し蹴りをする。対するホセは剣を払い蹴りながら受け止める。蹴りの鈍い音が思ったより鈍く生々しい。シオンを見れば、会場から目が離せないようだがやや顔を顰めていた。
「ホセ! 何やってやがる!」
別の観客席から罵倒が飛べば、今度はホセが右から剣を振り下ろした剣を寸前の位置でマークが受け止める。二人の剣が交わる度に金属音が響き渡る。あの剣は真剣なのだろうか? 心配しながら試合を食い入るように見ているとロワーズが無表情で言う。
「心配するな。刃は潰している」
「そ、そうですよね」
それを聞いていたシオンもホッとする。潰していても当たればきっと痛いと思う。案の定すぐに剣が身体にぶつかる鈍い音が会場から聞こえた。ホセの剣がマークの腹に当たったのだ。かはっと吐く息の音がここまで聞こえると同時にマークの口から涎が出るのが見えた。やっぱりちゃんと痛そうだ。シオンがやや不安な表情で尋ねる。
「だいじょうぶ?」
「うん。見て。騎士さん、ちゃんと立ち上がっているよ」
安心したところで大きな歓声が第二試合場で上がり、シオンと共にそちらへ振り向く。こっちは、えーと……アレンとエリーという騎士だったかな。エリーは他の騎士と比べれば小柄な女騎士だ。小柄といってもたぶん私と同じくらいの背丈だろう。不利に感じられるその小柄な身体ではあるが、アレンの攻撃を楽々と避け優雅に宙を舞う。エリーは距離を取るとアレンの足元にポコポコと土ボコを出現させ砂埃で視界を霞ませた隙に横から剣を振り下ろした。あの土ポコは、エリーの土魔法だという。
ガキンと剣がぶつかりアレンが地面へと飛ばされる。悔しそうにアレンが地面から起き上がり叫ぶ。
「エリー! テメェは真っ向から勝負しろよ!」
アレンはそれなりの距離を飛ばされたのに元気そうだ。剣と魔法のトーナメントとは聞いていたが、なぜか両方を同時に使用する戦いだと思っていなかったのでエリーの戦い方には驚いた。隣にいたロワーズにスモールトークをする。
「魔法も使うのですね?」
「そうだ。戦いに出し惜しみはない。持っている力の全てを出し勝負する」
再び不意打ちの攻撃をくらい地面に転がるアレンをエリーが蹴り上げる。
「体格の差をものともせず、エリーさんは強いですね」
「エリーは小柄だが狡猾だ。自分の力をよく理解してる騎士だ。アレンの奴は率直過ぎる。エリーの腹黒さを少しでも学べればよいがな。しかし……アレンは頑丈だな」
エリーに何度となくバシバシ剣と蹴りをくらっても立ち上がるアレン。エリーが振った剣が手から抜け落ち場外へと飛ぶ。アレンは『もらったあぁぁぁ』と叫びながらエリーに斬りかかった。危ないと思ったが、アレンはいとも簡単にエリーに後ろに回り込まれ、首の後ろに
レズリーが拍手をしながらロワーズに嬉しそうに言う。
「アレンは、まんまと罠に引っかかったなぁ」
「エリーは、筋はいいが腕力が足りない。アレンは、真っ直ぐ過ぎるが力はある。今は犬猿の中みたいだが、同じ部隊に入れて様子を見よ」
「それじゃあ、マルコの部隊に入れときますね、団長」
どうやら、エリーはわざと剣を場外に飛ばしアレンの隙を狙ったらしい。やるな、エリー。
エリーとアレンの試合に集中していたので気付かなかったが、第一試合場も勝負がついたようでマークという騎士が場外に転がっていた。
トーナメントは二回戦、三回戦と順々に終わり、準決勝は明日行うということで今日のトーナメント試合は終了した。シオンは試合観戦ではしゃぎすぎたのか眠そうだ。
帰り際にロワーズ達にお礼用のクッキーと飴の入った麻袋を二つ財布から取り出し渡した。ロワーズは飴の出所を怪しんでいたが、ありがたく頂くと言ってハインツに預けていた。
シオンを抱っこして、リリアと護衛の騎士の二人に天幕まで送ってもらう。夕食後は、殆ど意識のないシオンの寝支度をしてベッドに入れた。
ひとりの時間になり今日の試合を思い出す。
(エリーの土ポコの魔法は面白かったな)
あれって私にもできるんじゃない? 一応、魔法属性は全だし。できるか試しに天幕の端にある土をスコップで掘るイメージで土ポコと唱えて魔法を発動した。
「おおおおおおお」
ポコっと土が盛り上がったことを小声で喜ぶ。成功した。土の魔法を使えたよ。
ドドン
『土魔法を覚えました』
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