歩み
「お前、団長の連れだぞ。やめろ。いつか、本気で殺されるぞ」
カルロスがディエゴに耳打ちするのを聞こえないふりして、隣に座るシオンのはだけたマントを整える。
黒に金色の刺繍が施されたマントを羽織ったロワーズとレズリーがこちらへやってくると、急にカルロスとディエゴがピンと背を伸ばし胸に手を当て敬礼をした。
「団長、お疲れ様です」
「うむ。カルロス、ディエゴ、二人は本日エマ嬢の護衛に徹してくれ。頼んだぞ」
「「はっ」」
今まで生きてきて護衛、しかも騎士の護衛なんてされたことはない……なんて考えていたら、視線を感じ顔をあげる。ロワーズがなんか近い。
「ち、近っ」
上から下まで私を見て、ロワーズが頷く。
「ふむ。リリアの仕立てがよく似合っている。濡れ鼠や痴女より幾分見れる格好になったな」
おい! 痴女だけではなく、濡れ鼠ってなんだ! 濡れ鼠って!
「ロワーズ様。女性に失礼ですよ」
いつの間にか戻って来たリリアがお茶が用意しながらロワーズを諫める。
「ふむ。そういうものか。悪かったな」
「大丈夫です。ありがとうございます」
ロワーズが隣に座ると手袋外しながら穏やかな声で話す。
「して、野営地で何か不便はあるか? 必要な物があれば、遠慮なく申し出るように」
「いえ、もうこれ以上はご迷惑をかけられません。すでに十二分にお世話になっております。それよりも、なぜこんなに親切にしてくださるのでしょうか?」
「エマには聞きたいことが山ほどある。それ故、北の砦まで同行してもらう。それまでは私の客人である。それに……何もない雪降る森に女と子供を放置するほど腐ってはいない」
「ありがとうございます。もう暫くご好意に甘えさせていただきます」
言い方は堅いが、基本はいい人なのだろう。シオンも彼のことを怖がっているようには見えない。
それにしても、正装したロワーズもレズリーが美丈夫過ぎて困る。ロワーズはオリーブ色の髪に琥珀色の目、顔のパーツも整っておりバランスも良い。眉間のシワが玉に
レズリーもベンチに座るとジッと私を見つめ尋ねる。
「エマちゃんの話し方はとても丁寧で俺の知っている平民のそれではないね」
普通の平民ですよと反論しようとしたら、練習場の騎士達から大きな歓声が上がった。ロワーズが拍手しながら言う。
「始まったな。今日は新人がトーナメント式で競う。誰が勝ち抜けるか見物だな」
雪が少し降り始めたので心配だったが、会場に使われる場所には雪が全く落ちてこない。何かの魔法か魔道具だろうか。トーナメント開始の合図だという炎が四カ所から上がる。
「あれもまほう? すごいね!」
シオンが私とトーナメント場を交互に見ながら興奮、ベンチに前のめりになり落ちそうになる。あ、危ない!
「シオン。気をつけよ。落ちて怪我をしてしまう」
「あ、ありがとう。ロワーズ……おにいさん?」
落ちそうになったシオンを抱え、再びベンチに座らせたロワーズ。不安そうに礼を言うシオンに優しく話しかける。
「ロワーズで良い。シオンも、魔法が使えたと聞いているぞ」
「うん。ぼくもつかえるよ。ほら、
シオンの灯りの魔法は初期の街灯とは違い、寝る前の遊びで覚えたのだろう私のLEDライト仕様になっている。明るくてとてもいい!
「こ、これは、報告は受けていたが実際に見ると本当に光輝を放っているな。それに、その年齢で詠唱は短縮したのか。覚えが早いな。なぁ、レズリー」
シオンの輝く灯りを見て言葉を失ったレズリーにロワーズが口パクで『ほめろ』と伝える。
「あ、ああ、生活魔法でここまでの灯りは見たことないよ。シオン、凄いね」
護衛の二人も驚いた顔をしていたので、この灯りは一般的よりかなり――異常なほど明るいのだろう。
ロワーズが、シオンを撫でよう頭に手を伸ばす。
「ひやっ」
シオンが小さく叫び身体を強張らせ目を瞑ると灯りの魔法も消えてしまう。すぐにシオンを抱きしめようと思ったけど、子守スキルなのか分からないが……きっとそれは正解じゃないと感じた。ロワーズが苦い顔で手を一度下げシオンに尋ねる。
「済まない。頭を撫でてもいいか?」
コクンと頷いたシオンの頭を優しくロワーズが撫で大丈夫そうなのを見て、小さく安堵のため息をはく。
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