状況の説明
「ふむ。シオン様は現在おいくつでしょうか?」
「シオンは今五歳ですが、魔法を習うのは早いでしょうか? 危険なら遠慮しますが……」
「平民だと大体十歳から魔法の練習をしますが、魔力の高い貴族の子だと五歳から始める者もおります。きちんと習得すれば危険ではございません」
「魔力は……高い方だと思います」
ハインツのこめかみがピクっと動く。アンやハインツよりもシオンの魔力は高い。【鑑定】と心の中で唱える。
ハインツ ラドクリス
年齢:五十二
種族:人族
職業:クライスト家執事
魔力4
体力5
スキル:言語、 短剣、投擲、算術、作法、ダンス、リュート
魔法属性:土
魔法:生活魔法、土魔法
固有スキル:時間配分1
称号:時間厳守の
一般人の平均ステータスが分からないけど、アンよりも強い。気になるのは、固有スキルの体内時計。
時間配分――時間配分1: 分刻みまで時間を正確に認識、測ることが可能
それは称号の時間厳守の要も付くような固有スキルだ。
「シオン様の件は、一度ロワーズ様に確認させていただきます。お返事は後ほどさせていただきます」
「お手数をおかけしますが、よろしくお願いいたします」
ハインツは礼をすると、アンを残して天幕から退室した。二人よりも魔力の高いシオンは大丈夫だと思うけど、どうだろう。
アンが微笑みながら尋ねる。
「エマ様、お茶のお代わりをお持ちしましょうか?」
「まだ疲れているから、もしよかったら少し休みたいのだけれど……お茶は後でもいいかな?」
「はい。それでは、失礼します」
アンも天幕を出てシオンと二人きりなる。この機会にシオンに状況をいろいろ話したほうがいいよね。
「シオン、少しお話しをしようか? 分かる範囲でならなんでも答えるから」
「うん……わかった」
二人で朝食をしたテーブルに座る。シオンには、リンゴジュースとクッキーを出した。また目を輝かせながらクッキーに集中するシオン。クッキーは後から出せばよかったかなと苦笑いをしながら声をかける。
「シオンは、私と初めて会った時のことを覚えてる?」
「うん。みちで。でも、いまとちがう」
「そうみたいなの。シオンもあの時とは自分が違うのは分かるよね?」
自分の手足にあった傷や髪の色を確認して頷くシオン。思ったよりも反応が冷静だ。きっと賢い子なんだろう。包み隠さず正直に今の状況を伝えたよう。
「どうやら私たちは、日本というか地球とは別の場所に来たみたいなの。それで髪とか目の色が変わってしまったようよ。後、年も若くなってしまったみたいなの」
「めのいろも?」
「そうそう。シオンも私と同じ菫色――紫色になっているよ。とってもきれいな色だよ。あとで鏡を見せてもらおうね」
シオンがはにかんだ笑顔で下を向いた。美少年の照れ笑いゲット。
「それでね、今はロワーズさん……昨日会った騎士さんたちを覚えてる? その人たちに、少しの間お世話になることになったの。ここには二週間ほどいて、その後は北の砦って場所に行く予定でいるのよ」
「かっこいいおにいさんたち?」
「うん。そうそう」
ロワーズたちの印象は悪いかと思ったけど、そんなに気にしてないみたいで良かった。ここまでの説明は大丈夫そうだ、問題はここからだけど。
「それでね……この世界には魔法があってね。ここにいる間、シオンも魔法使える許しが出たら二人で勉強しないかなって思って。どうかな?」
「まほうってアニメでみたまほう? ぼくもつかえるの?」
アニメありがとう! 魔法って何とか尋ねられても、手から火が出るやつとか頭の悪い回答しか出てこなかっただろうから。
「どんな魔法が使えるか、詳しくは分からないけれど、ロワーズさんにシオンも魔法を教えてもらえるか今聞いてるから。使えるのなら勉強したほうがいいでしょう?」
「うん。ぼくも、まほうつかいたい」
シオンは視線を合わせずに下を向いているけど、ちゃんと返事をしている。初め会った時よりも前進かな。
「それでね。落ち着いたら家に帰る方法を――」
「ぼく! いえにかえりたくない!」
家に帰る方法を探そうかと言いかけた言葉をシオンが大声で遮る。
本心では虐待する親の元なんかにシオンを返す気はさらさらなかったのだが、虐待されてる子供はどんなに酷いことをされても親を求めるって聞いたことがあった。だから、もしシオンが帰りたいのなら地球への帰り道を探そうかと思ったけど……どうやら家に帰りたくないという意思はハッキリしてるようだ。どちらにしろ、私たちの容姿はこんなに変わってしまったのだ。転移なのか転生なのか分からないけれど、地球で天然の銀髪なんていないに等しい。転移の副作用でまた元の容姿に戻れるかもしれない。でも、別の副作用が発動するかもしれない。そんなリスクを冒してまで帰りたいと思うほど私も地球に未練はない。
「そっか。うん。シオンの気持ちは分かったよ。でも、もし後でいつか帰りたくなったら遠慮せずに教えてね……と言っても帰り方は分からないんだけどね」
はははと力なく笑うとコクリと頷くシオン。もうひとつ引っかかっていたのはシオンの姓についてだ。鑑定には私の姓は表示されているのにシオンの姓は表示されてない。うーん。でも、今日はもうこれ以上は聞かないほうがいいだろう。もう少し慣れてから姓についてはやんわりと尋ねよう。
その後は、シオンとゆっくり天幕で過ごした。この世界では昼食を取らないようで、高血圧クッキーが夕方前に配膳された。夕食前にはアンがリリアの仕立てた子供服を届けてくれた。昨日の今日で服が完成したの? リリア凄いな。
夕食は、野菜とソーセージがゴロゴロ入ったスープにライ麦パン。お腹もいっぱいで、シオンと一緒にベッドに潜り込み意識を手放した。
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