シオンのスキル
目をパチッと開け天井を眺める。知らない天井だ、などとは言わない。昨晩は、あの後、シオンのステータスも鑑定……枕を濡らしてそのまま意識を手放した。
ベッドの端にいるシオンの顔を眺めながらもう一度ステータスを確認する。
シオン
年齢:五
種族:人族(異世界人)
職業:なし
魔力5
体力1
スキル:防御、精神耐性(強)、苦痛耐性(強)、病気耐性、 寒さ耐性、 暑さ耐性、悪臭耐性、 料理、掃除
魔法属性:全
魔法:なし
固有スキル: 自然治癒1
ユニークスキル:
称号:異世界の迷い人
虐待の後遺症ともいえるステータスを見て、また悲しくなる。シオンは五歳と表示されているけれど、初めにあった時より今は顔が幼い。もし、私と同様に年齢が半分ほど若返っているのならば、初めて会ったときのシオンは十歳だったということになる。
「でも……あれは体格的にも十歳には見えなかった」
それに何故かシオンの姓は表示されていない。うーん。どういうことだろうか……シオンの異様な耐性スキルはひとまず置いておこう。気になるのは、ユニークスキルの
これも虐待から身を守るために生まれたユニークスキルかもしれない。この世界にどれだけ危険が潜むのかはまだ分からないが、日本よりも安全ではないだろう。シオンが危ない時に隠れることの可能な場所が創れるのなら、かなり重要なスキルだと思う。
モソモソとベッドの上で動き始めたシオンの目が開く。
「おはよう。シオン」
目を大きく見開きながら一時停止するシオン。ぐっ、寝起きが可愛い。
「今、何時か分からないけど、起きて準備しようか」
コクコクと頷くシオン。天幕の外からは騎士達が朝の訓練をしているのだろうか、掛け声が聞こえる。
ダウンジャケットを着て外を覗くと、タイミングよくハインツが天幕の入り口にいた。
「わ、おはようございます」
「エマ様、おはようございます。朝食をお持ちいたしました」
ハインツが朝食の準備を始める。
「トウモロコシの煮込みとライ麦パンです。お茶もお出しいたします」
トウモロコシの煮込みはグリッツだ。グリッツは、アメリカ南部に旅行した時によく食べた、お粥みたいな食べ物だ。中に人参と豆っぽいのも入ってる。それからハムだろうか? 【鑑定】と心の中で唱えればヴォンと音がする。
ホッグのハム
豚か。塩気は多そうだけどの淡白なグリッツとは味に合いそう。言語翻訳が勝手に仕事をしているようで、トウモロコシやライ麦パンは鑑定にも覚えている名前で表示された。
「ハインツさん、ありがとうございます。それでは、いただきます」
両手を合わせて『いただきます』をすると、シオンも慌てて手を合わせる。その様子にハインツが不思議そうに首を傾げる。
「私たちの故郷では食材の命を頂くこと、作って頂いた方々に感謝とお礼の気持ちを込めて、食べる前に『いただきます』と挨拶します。食べ終わったら、ご馳走さまと言います」
「それは、とても良い習慣でございます」
ハインツが微笑みながら言う。グリッツを一口味わうとやはり塩味のみの味付けだけど、ほんのり甘さがして優しい味がした。
シオンはカトラリーの握り方や食べ方を教わっていないようで、皿を上げ啜りながら流し込むように早食いをする。驚いたハインツの視線がシオンに集中してしまう。
「シオン。ゆっくり食べていいからね。食べ物はどこにも逃げないよ。スプーンはこうやって持とうね。その方が食べやすいよ」
好きなように食べさせた方がいいのかもしれないが、早食いはきっと喉に詰まらせてしまう。皿をテーブルに置いたシオンがスプーンでゆっくりとグリッツを食べる。
朝食後はハインツがお茶を準備しながら今日の予定を説明する。
「本日、ロワーズ様は騎士の訓練のため、野営地に戻られるのは夕刻頃になります。魔法の練習は明日以降にとのことでしたので、本日はゆっくりとお過ごしください。何かございましたら、アンを控えさせておりますので、お申し付けください」
ハインツがアンを天幕の中に呼ぶ。なんだか本当に好待遇で感謝しかないが、多分アンは私たちに付けられた見張り役でもあるのだろう。
「ハインツさん、アンさん、お世話になります。それで、魔法の練習なんですが、シオンも一緒に参加することは可能でしょうか?」
今後、何かあった場合のためにシオンが自分の身を守れるようにしておかねばならない。
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