野菜の日記

野菜

ガラポン抽選会アルバイト

野菜と申します。

怪談やオカルト好きの大学4年生。

野菜という名前は本名をもじって付けた。


野菜は、大学生である。

今現在はアルバイトを辞め、無職大学生になってから一年が経過しようとしている。


無職大学生でいられる理由は、決して家が富豪だとかそういうわけではない。

なんなら授業料も生活費も全て自分で賄っている。


何を隠そう、アルバイトをせずに生きれている理由は、単純に友人がいないからである。

大学1年生から2年間の間、友人がいないことで、アルバイトのシフトを大量に組み入れ、なおかつ稼いだお金が飲み会や旅行に消えることがなかった。

その結果、新しく変わった店長のパワハラが原因でアルバイトを辞めるまでに100万円ほど貯蓄することができた。

しかし、もうすでに貯蓄が底を尽きかけている。


そこで、野菜は短期のアルバイトを行うことを決めた。


その短期バイトというのが、3日間商店街で行われるガラポン抽選会のアルバイトである。


業務内容は簡単、3000円分のレシートを持った客にガラポンを回させ、商品を渡す。

これだけである。

給与は10時から19時までの業務で8800円×3日、合計26400円。

友人のいない大学生がある程度の日数生きていくには十分な額である。


このアルバイトを行きつけのカフェのマスターから紹介された時、自分は二つ返事で引き受けた。

食い気味に返事をしてしまったことで、一つ返事になっていたかもしれない。


当日、指定された場所に向かうと、マスターの知り合いで商店街を管理者する会社の社員だという30代くらいでスーツ姿の男が、現れた。


社員A:

あのー、野菜さんですか?


野菜:

あ、よろしくお願いします。

ガラポンのやつですよね?


社員A:

あ、そうです。

よろしくお願いします。

ガラポンの場所こっちなんでついてきてください。


野菜:

はい。わかりました。



歩いてすぐにある空き店舗の軒先に、3つの机、そして机の上にそれぞれ3台ガラポンが用意されていた。


その場所には、同じく社員のようなスーツを着た男が40代くらいの男、そして野菜と同年代に見える女の子が2人いた。


社員A:

今日はよろしくお願いします。


野菜・女子A・女子B:

よろしくお願いします。


社員A:

今日は野菜さんと女子Aさんが、初めての参加で、女子Bさんがガラポンは2回目?ですかね。

それじゃあ、今回は初めての方もいらっしゃるので、女子Bさんは知ってる話かもしれませんが、ガラポン抽選会の説明をしますね。


短期のアルバイトだからだろうか、自己紹介の時間はなかった。



社員Aの説明をまとめると、こうだ。


対象店舗で3000円分買い物したレシートで一回ガラポンを引くことができる。

レシートは複数枚で3000円超えててもOK。


使ったレシートの裏には、「使用済み」のスタンプを押す。

また、5900円など少しの買い物でもう一回ガラポンを引くことができる場合は苦情防止のために一声「あと〇〇円でもう一回引くことができるがどうするか?」と確認する。


ガラポンの賞はそれぞれ


金玉:温泉旅行券

紫玉:商店街お買い物券10000円分

黄色玉:商店街お買い物券5000円分

青玉:商店街お買い物券3000円分

緑玉:商店街お買い物券1000円分

黒玉:商店街お買い物券500円分

赤玉:〇〇グループ商品券500円分

オレンジ玉:パイナップル賞

白玉:ハズレ


商店街お買い物券の期限は8月末まで。使えるお店一覧のチラシを一緒に渡す。

赤玉の〇〇グループの商品券は、使えない店舗もあるので、「使う前に店員に使えるか確認を取ってほしい」と伝える。


金が出たら当選者に「当選者が出ました!」とパネルに書く用の当選者名と住んでいる市町村名を忘れずに聞くこと。


などの注意事項を教えられた。



社員A:

あと、野菜さんと女子Aさんは初めてだから近くに私か、社員Bがどっちかいますので、わからないことがあったら言ってください。


そして最後に、女性Bさんは知ってると思いますが、”顔が後ろの人”が来ることがあります。

その時は、ただ紙をもらって一回ガラポンを引いてもらって、業務以外のことは何も喋らずに、そして何も渡さずに、もらった紙にスタンプを押してから、紙をそのまま返してください。


おかしな注意事項が話された。


野菜:

え?”顔が後ろの人”ってなんですか?


社員A:

んー、いや僕もよくわかんないんですけど。

とにかく顔が後ろなんですよ。

なんか自分もこの仕事始めてた頃から来るって聞いてるんですけど、とりあえず顔が後ろで。

なんて言えばいいのかな、顔が後ろ、、としか言いようがないんですけど。

まあ、とりあえず通常の業務をしてくれればいいので。

紙をもらって、ガラポンを引いてもらって、スタンプを押して紙を返す。

それをしてもらったら大丈夫ですので。


野菜:

え?その”顔が後ろの人”はなんなんですか?


社員A:

いやー、僕もよく知らないんですけどね。

なんかうちの会社がこの商店街でこういう抽選会みたいなのを始めた頃から来てる人らしいんですけど。

なんかよくわからない人?なのかな。

わかんないけど。

知ってる人がいないからなんとも言えないんですよ。


とにかくわからないらしい。


もっと聞きたいことはあったが、開始時刻の10時になったので持ち場に着くことになった。


ガラポンの装置は三台あり、机に一つずつ置かれている。

左から野菜、女子A、女子Bが一台ずつ担当することになった。

そして、野菜と女子Aの間にヘルプとして社員AかBのどちらかが常に座っているという位置関係である。

また、余ったどちらかの社員は机の後方の椅子に座って様子を見ていた。


バイトは本当に楽であった。

レシートの値段を確認してガラポンを回させる、玉の色を確認して商品を渡しレシートを返す。

本当にこれだけである。


野菜:

4000円なので、一回分ですね。

お願いします。


客A:

これほんとに当たり入ってるの?


野菜:

ちゃんと入ってますよー。



野菜:

11800円ですね。

すみません。

こちらですね、3000円で一回ですので、あと、、200円ほどお買い物されますと、もう一回引くことができますが、いかがなさいますか?


客B:

お兄ちゃん、商売上手いねー!

なんか一個買ってこようかな。



ずっとこんな感じである。

今年のゴールデンウィークは旅行が解禁されたこともあり、ここのような少し寂れた商店街は、いつもの週末より少し多いくらいの人通りであった。


そして1日目は休憩も取りつつ、慣れないところもあったが無事に終了した。





2日目

今日も担当する場所は一緒で、左から野菜、女子A、女子Bとなっている。


2日目は雨が降っていることもあり、昨日に比べかなり人通りが少なくなっていた。


社員B:

そろそろ慣れてきた?


野菜:

あ、はい。

慣れてきました。


社員B:

何かあったら声かけてね。


正直、簡単過ぎて聞くことなど何もない。

あるとするならたまにある対象店舗かわからない店のレシートを持った客が来た場合だけである。


社員B:

野菜くんは佐賀出身だったっけ?


野菜:

あ、はい。そうです。


今日は客も来ないため、ガラポン対応より社員Bの話し相手になっている時間の方が多くなっていた。


社員B:

へー、俺実は佐賀のショッピングモールでも働いてたんよ。


野菜:

そうなんですね!


社員Bとたわいもない話をしていると、社員Aが小声で話しかけてきた。


社員A:

きた、きた。


社員B:

あ、マジ?


何が来たのかと思い、横を向くと女子Aのガラポンの前に、身長が2m以上あり、上下黒い服装の男が立っていた。

そしてその男の髪は顔全体を覆っており、まるで顔の正面が後頭部のようになっている。


顔が後ろの男:

すみませーん。

すみませーん。


喉から搾り出すような枯れた声で話しかけている。

すっかり忘れていたが、これが昨日話していた”顔が後ろの人”なのだろう。

”顔が後ろの人”が女子Aに対してレシートのような紙を差し出しているが、女子Aは、恐怖からか固まっている。

女子Bは下を向き、こちらを見ないようにしていた。


社員A:

女子Aちゃん、対応して。


女子A:

あ、はい。すみません。


震える手で、”顔が後ろの人”が差し出した紙を受け取った。


女子A:

あの、すみません。これって使えますか?


女子Aは社員に対して紙を見せた。

少し見えたその紙には手書きの文字で”授”と書かれていた。


社員A:

いいから。一回、回させて。


女子A:

あ、はい。

一回です。


顔が後ろの男:

はい。


ガラガラガラガラ、、


赤玉が出た。


社員A:

え、当たった。


女子A:

あ、赤。


社員Aはとても驚いた顔をしていた。

”顔が後ろの人”は、玉が見えていないのか何も言わない。



社員B:

何もあげないで。残念ハズレですって言って。


女子A:

え、あ、はい。

残念です。ハズレです。


すると、後ろから様子を見ていたのか、近くにいたおじさんが話しかけてきた。


おじさん:

嬢ちゃん!よく見らな!!

赤の玉出とるやん!

兄ちゃん、当たりやって。


確実にこのおじさんは、余計なことを言った。

事情がよくわかっていない野菜でもそう感じた。


顔が後ろの男:

あたり?


おじさん:

そうや!よかったな、兄ちゃ、、


おじさんは、今まで後ろ姿しか見えていなかった”顔が後ろの男”を正面から見た途端に固まった。

女子Aは、社員に助けを求める目線を泣きそうな顔で送っている。

それに対して社員Aは諦めたような顔を、社員Bは、無表情でこの状況をじっと見つめている。


社員A:

女子Aさん。商品券と紙渡して。


女子A:

はい、、あのこれ商品の、、


顔が後ろの男:

もらっていいの?

もらっていいの?

もらっていいの?


女子A:

あの、これ商品とレシート、、


顔が後ろの男:

もらうよ?

もらうよ?

もらうよ?


女子A:

あの、これ受け取ってください。


顔が後ろの男:

うれしい。

うれしい。

うれしい。


そういうと商品券も紙も受け取らずに、歩いて行ってしまった。

”顔が後ろの人”が去っていく時に見た後頭部は、正面と全く同じに見えた。


女子A:

え?これ、え?


女子Aは、商品券と紙を受け取ってもらえなかったことに困惑している。


社員A:

女子Aさん。紙と商品券はこっちで預かっておきます。


野菜:

あれが、”顔が後ろの人”ですか?


社員A:

はい。だから顔が後ろとしか言いようがないって言いましたよね?


そして、その商品券と紙は社員Bがどこかに持っていった。



その後、女子Aはずっと震えていたが、特に何事もなく、終了した。


その日の片付けを行っている際に、社員Aがどこかに電話をしていたので、会話を盗み聞きしてみた。


社員A:

はい、ほんとです。当りました。

いや、今まで当たったことなかったんで、まさか当たると、、

はい、はい、はい。

多分もうダメだと思います。

はい、はい、はい。

わかりました。お願いします。


電話の内容を尋ねる勇気はなかった。


帰りに、女子Bさんと同じ電車になったので、前回も同じことがあったのか、話を聞いてみた。


女子B:

前回は初日に来た。

でも、普通にハズレて紙を渡すだけだし、社員さんも『当たらないのになんで来るんだろうね』って小馬鹿にした感じだったから。

まじで今日のは意味わかんなかった。

今まで十何年も一回も当たったことないって言ってたし。


野菜:

そうなんですね。

1日来たらもうこないんですか?


女子B:

こないらしいよ。


3日目

女子Aはこなかった。

女子Aの担当箇所は社員Bが代わりに対応を行った。


3日目は特に何も起こらずにバイトは終了した。



”顔が後ろの男”は果たして何者だったのか。

人間だったのか、何か幽霊的なものだったのか。

正体はわからない。



野菜

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