バルーン星人の落下死

大上 狼酔

バルーン星人の落下死

 ボク、バルーン星人のフワルン!

 え? バルーン星人を知らないの? しょうがないなー。説明してあげるね。

 バルーン星人はオレンジ色でプカプカと浮いているんだ! なにせバルーン星には重力が無いからね!! 不思議でしょ?

 食べる必要も寝る必要もないから、気ままに暮らしているよ。お喋りしたり、星をみたりとかかな。

 あ! 最近の流行は地面の穴から出ている光の上に浮く事! 虹色に光ってて楽しいんだよ! 長老達からは止めろと言われちゃって、穴を塞がれるんだけどね……。でも楽しい方がいいよ! 若者の話も聞いてほしいよね!

(まぁ、結局穴はばれないように隠したんだけどね……。)


 それはともかく、今ボクは旅行に来てるんだ。

 お母さんと叔父さんとこの辺りで有名な山脈を見に来たんだよ!

 ひぇ〜、高い所は怖〜い!

(まぁ、落ちないけどね……。)



 フワルンの母親が、愛する我が子に向かって穏やかな口調で呟いた。

「良い景色ね。遠くの方まで一望できる場所だと心も落ち着くわ。」

「そうだね!」

 フワルン達は非日常に心を躍らせていた。

「あれ? お母さん、沈んでいるよ?」

 バルーン星人は体と地面との距離が一定に保たれるという体質があった。

 母親の体が静かに地面へとの距離を縮める。

「本当だわ。なぜなのかし……」


 地面と触れた瞬間、母親の体は引き千切られ、四方八方に飛び散った。中に含まれていた液体は地面にぶちまけられ、残っているのは皮膚片のみ。その残骸は実に無残であり、見るに絶えなかった。


「お母さん? ねぇ、お母さん? どうしちゃったの?」

「お前! 無事だったか! 今すぐここを離れるぞ!!」

 叔父が駆けつけた。無論、ほのぼのと無気力に浮かんでいる事に変わりは無かった。

「なんで?」

「そいつは諦めろ。クソ! 重力落下現象がはじまったんだ。この星に『重力が落ちてきた』んだよ!」

「なんで……?」

「お前らが遊んでたあの穴のせいだよ。お前はわからないかもしれないが、そもそも重力のないこの惑星がおかしいんだ。ここは奇跡の星だったんだよ。それをお前ら将来のことを考えずに使うから! エネルギーが枯渇して、重力が作用し始めたんだ。だから俺達は止めろと言っていたんだ! 長老達が正しかったんだよ。」

「でも、楽しかったんだもん……。」

「楽しい? それで穴を開けたのか? 話にならないな。本来この惑星は未来の子孫からの借り物なんだ。俺達のものじゃないんだよ。」

 叔父は嫌気が差したのか溜め息をついた。ただ、説教を一丁前に述べている姿は、遊園地で子供が持つ風船の様であり、実に滑稽である。


「まぁ、世の中はそう単純じゃないのかもしれない。今となっては俺達が偽善だったのか正義だったのかも分からん。外交にも必要不可欠なエネルギーだったしな。むしろ我々が、大人の方が、大罪人なのかもしれないな。」


 そう言い終えた直後、叔父は地面に叩きつけられた。表面は容易く破れ、地面には体内の液体で水溜まりが生まれ、切り裂かれた体はそこに在ったかと思えばすぐに蒸発した。

 その様は“落下死“と呼ぶのに相応しいものだった。


 フワルンは優雅に、そして楽しそうに浮かびながら己の運命を悟った。

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バルーン星人の落下死 大上 狼酔 @usagizuki

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